セカンドミッション 23

セカンドミッション

牧野と付き合いだしてから1ヶ月。
ラブラブな恋人期間を過ごせると思っていた俺は、完全にふて腐れていた。

お互い多忙な仕事に加え、久しぶりに会えたと思ってもF3や滋たちに邪魔をされる。
二人きりで会いてぇと思ってるのは俺だけか。

そんな気持ちを牧野にぶつけると
「皆も一緒の方が楽しいじゃない。
あっ、あんたなんかやらしいこと考えてんでしょっ。」
俺を睨み付けながらそんなことを言う。

あたりめーだろーがっ。
好きで好きでたまんねぇ女が彼女になったっつーのに、何が悲しくてお預けされてんだよ。
男の機微を知れよっ。

そう心の中で反発するが、その反面、こいつを今度こそ大事にしたいという気持ちが俺の中でも強く、なかなか先に進めない。

十分の一でもいい。
百分の一でもいい。
おまえの想いが俺より少なくても構わねぇって思ってたのに、現実にそれを感じさせられると、
焦燥感に襲われる…………。

その日、西田から朝のミーティングで
「今日の午後、楓社長がNYからお戻りになられます。日本での滞在は一泊で、あまり時間がないそうですので今日午後4時より楓社長のオフィスで打ち合わせのお時間を取りましたので」

ババァと会うのは半年ぶりだ。
「わかった。」
俺はそれだけ答えて、資料に目を落とした。

この6年、ババァとは仕事の関係以外、プライベートでは一切関わってこなかった。
牧野との離婚でババァは俺への信頼をなくしただろうし、俺もババァには悪かったと思ってる。
気に入ってた嫁を息子の不甲斐なさで手放さなきゃなんなかったし、跡取りだって期待してただろう。
それなのにこの6年、ババァは一度も俺にプライベートなことで女を強要してこなかった。
俺は正直、政略結婚もさせられるかもしれねぇと思っていたが、一度もそんな話はなかった。

それなのに、なんでこのタイミングなんだよっ。
目の前に座るババァから信じらんねぇ言葉を聞いた。
「司さん、そろそろあなたも身を固めてもいいんじゃないかと。あなたのためにも財閥のためにも。司さんさえよければ、こちらで良い方を探してありますが、」

「ちょっと、待てよ。ふざけんなっ。
俺は自分の相手は自分で探す。
余計なことすんじゃねぇ。」

「…………フフっ。
まぁ、いい歳なんですから、今度こそしっかりやりなさい。」

久しぶりにババァの母親らしい口調を聞いたが、
腹が立つ。
今の俺の状況を分かっていて小バカにされてるような。

自分のオフィスに戻ってからもイライラがおさまらねぇ。
せっかく牧野とよりを戻せたっつーのに、なんでこのタイミングで政略結婚の話なんだよ。
これが牧野の耳にでも入ったら、ぜってーあいつのことだから俺から逃げようとするだろう。

そんなことをグダグダ考えているうちに無性に牧野に会いたくなってくる。
あいつに会って、大丈夫だって確めたい。
俺は携帯を取り出して牧野にコールした。

午後9時、牧野のオフィス近くの交差点で牧野をひろう。
「道明寺が運転してるなんて珍しい。」
そう言いながら乗り込んできた牧野。
こいつが車内に入ってきただけで、甘い香りがたちこめる。

「メープルでいいか?」

「うん。」

しばらく無言で都内を走る車の中、一言も話さねぇ俺に牧野が、
「道明寺…………何かあった?」
そう聞いてくる。

「いや、なんもねぇよ。」
再び沈黙の俺ら。

そして、車がメープルのそばまで来たとき、信号が赤に変わり車をとめる。
その俺らの前を、二人のカップルが手を繋ぎ肩を寄せあい、楽しそうに歩いていく。
それを見て牧野が、
「フフ……仲良さそう。」
と、ポツリと呟いた。

俺も同じことを考えてた。
あんな風に俺らも他人から見て写っているだろうか。牧野にあんな楽しそうな顔をさせてやれるだろうか。
牧野は俺といて…………幸せなんだろうか。

信号が青になったのにも気づいていなかった。
「道明寺!青だよっ。」
牧野の声にハッとする。

「わりぃ。」
慌てて車を発車させたが、その俺のハンドルを握る手をつかみ
「道明寺、やっぱりなんかあった?」
牧野が心配げに聞いてくる。

俺は深く息をついて、メープルホテルの脇にある木の影に車を停車させた。

「具合悪いの?」俺を見つめて聞いてくる牧野。

「いや、ちょっと、昼間色々あってな。」

「仕事?…………部屋に帰ろうか。
疲れてるならゆっくり……道明寺?」

牧野が言い終わる前に、俺は牧野の腕を取り、ゆっくり優しく俺の方に引き寄せ体ごと抱きしめた。

「おまえといてーんだよ。」
絞り出すように返した俺の言葉に、

「ん。いるよ。大丈夫、一緒にいるよ。」
そう答えてくれる牧野。

こうしてこいつに触れていると、胸におさめてた牧野への想いが止めどなく溢れて胸に留めておくことが出来なくなる。

「牧野」

「ん?」

「すげー好きだ。」

「……うん。」

「すげー惚れてる。」

「……ん。」

「いつもおまえのこと考えてる。」

「…………うん。」

「…………どうしたら、おまえも俺のことそう思ってくれる」

ほんとに答えが聞きたかった訳じゃねぇ。
ただ、どうしようもなく心の声が溢れだした。

「…大丈夫。
私もちゃんと、
いつも……あんたのこと考えてる。
一緒にいると嬉しいし、楽しいし、幸せ。
だけど、素直に言えなくて、道明寺のこと不安にさせてたらごめん。」

いつもは聞けない牧野からのこんな台詞。
抱きしめる腕をほどいて牧野の顔を見つめると、
赤くして視線をそらしやがる。

「マジで?」

「…………マジで。」

プッ……二人して同時に吹き出す俺ら。

「牧野、キスしてもいい?」

「…………うん。」

想いが通じたあの日以来のキス。
さっきまでのモヤモヤが嘘のように晴れていく。
運転席と助手席のわずかな距離がもどかしく、牧野の体にのし掛かるように距離を詰める。
車内にクチュクチュと卑猥な音が響き、更に俺を煽る。

一度唇を離して牧野の様子を確かめると、
潤んだ目で、こいつは爆弾を落としてきやがった。
「道明寺のキス、すごく好き。
やっぱり全然違う。」独り言のような呟き。

嬉しいはずの発言も何か引っ掛かる。
「おまえ、誰と比べてる?」

「……えっ!!」
我に返った牧野がでけー声で叫ぶ。

「言えっ。」

「なにが?なんのこと?」

さっきまでの甘い雰囲気は吹っ飛んで、車の中で言い争う俺ら。

そんな俺らを反対車線に停まる車からカメラが狙っていたことに俺は全く気付かなかった。

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