態度も体も大きすぎるこの男が、声を押し殺して泣いている。
道明寺の涙を見たのは6年前のあの日以来。
思わずあたしは道明寺の頬に手を伸ばしていた。
「おまえとあのまま一緒にいれたら、俺らにだってこれぐれーのガキがいてもおかしくねーだろ。」
そう言って、ほんとに悲しそうにごめんと何度も呟く道明寺。
この人はずっとこんな風に苦しんできたんだろうか。
あたし以上に辛かったんじゃないだろうか。
そう思うと切なくて切なくて堪らなくなり、自然と道明寺のことを抱きしめていた。
あたしもあんたと同じ。
どうやったってあんたのことが忘れられなかった。
「おまえは平気だったのかよ……。
俺じゃなくても……平気だったか?」
ううん。全然ダメだった。
どんなにいい人だって分かっていても、あんたと比べたら……。
別れてからこんなに経ってるのに、苦しいほど…………あんたが好き。
でも、もうあんな辛い別れはしたくない。
あんな想いをするぐらいなら、もう二度とあんたには近付かない。
そう決めてたのに……。
真剣な顔で、あたしのことが忘れられなかったと話す道明寺。
その一つ一つの言葉が、まるであたしの心の中を表しているようにシンクロしていた。
目の前のアイスのように、ゆっくりとあたしの心が溶け出していく。
もう一度、素直になってみようかな。
もう一度、道明寺と向き合ってみようかな。
「あたしの想いはあんたの十分の一くらいかも。」
どこかで聞いた台詞だ。
そう、高校生の頃、はじめて女に告白した俺にさんざん待たせたあと、おまえが返してきた台詞と同じだ。
この俺が、同じ女にこんな台詞を二度も言われるなんて信じらんねーけど、むちゃくちゃ嬉しくて堪まんねぇ。
「十分の一でも百分の一でも構わねぇ。
こうやっておまえと一緒にいれるなら……。」
情けねぇけど、これが俺の本音だ。
「…………コーヒー入れ直す?」
至近距離で見つめられることに恥ずかしくなったのか、牧野は視線を俺からそらして聞いてきた。
「いらねぇ。」
せっかく想いも通じたし、こんなに近くにいるのに離してたまるか。
「ア、アイスが溶ける。」
再びテーブルに手を伸ばしてアイスのカップを取り、わざとらしく
「溶けたアイスの方がおいしいねっ。」
と大袈裟に言うこいつに苦笑しながら、
「やっぱり俺にも食わせろ。」
そう言ってやる。
「ん?食べる?もうドロドロだからもう一つ持ってくる。」
「いらねーよ。」
「どっちよっ!」
俺が食いてぇのは、おまえのことだ。
右手で牧野が持つアイスのカップを取り上げ、左手はこいつの後頭部を押さえ込み逃がさねぇようにする。
そして、ぐいっと顔を近付けると、
「道明寺っ、何すんのよ!
それ以上やったら許さないからっ。」
相変わらず、雰囲気の読めねぇ女。
「なにって、アイスを味わうんだよ。」
「は?なに言って…………んっ、」
少し強引だったか?
いや、この女にはこれぐらいしねーとおとなしくなんねぇからな。
6年ぶりのキスは思っていた以上に甘くてやわらかい。
唇を離したくない欲望をなんとか押さえて、少しだけ唇と唇の間に隙間を開け
「すげー甘い」と俺が漏らすと、
「バカっ、信じらんない。
展開が早すぎんのよっ、あんたは。」
と、顔を赤くして俯く牧野。
その仕草がますます俺を刺激する。
「6年も我慢させたんだから、責任とれよ。」
「ちょっ!なんであたしがっ」
「いいからもうしゃべんな。」
こいつの怒りも俺の悲しみも、全部溶け出すようにと想いをこめて繰り返す甘いキス。
ごめんな、とか、好きだ、とか、おまえしかいねぇ、とか心の声も駄々漏れにしながら、何度も
優しくキスをした。
そして、安心した俺は久しぶりに牧野の胸で目を閉じた。

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