セカンドミッション 20

セカンドミッション

泣いたのなんていつぶりだろう…………。
ああ、そうか、6年前あいつから別れを言われたあの日以来だな……。

優しく俺の背中を撫で続けてくれている牧野の温もりが気持ちくて、このままずっとこうしていたい。
さっきまで苦しくて苦しくて堪らなかった胸の奥も、牧野に抱き締められていると癒されていく。

「道明寺……少し落ち着いた?
コーヒーでもいれようか。」
牧野が俺にだけ聞こえるようなちいせー声で言った。

「……ああ。」

寝転がる牧野の胸に顔を埋めていた俺は、その言葉とともに顔をあげて、今さらだが、牧野に泣き顔を見られないようソファを背にして座った。

俺の後ろで起き上がった牧野は、
「健太、ベッドに寝かせてくるね。」
そう言って健太を抱き上げようとしているが、
牧野には重そうだ。

「俺が連れてってやる。」
俺は牧野から健太を抱き上げてやると、

「ん、ありがと。
奥の部屋にベッドがあるから、そこにお願い。
コーヒーいれとくね。」
そう言って牧野はキッチンに入っていった。

健太を寝かせてからリビングに戻ると、コーヒーの香りが部屋に広がっている。
俺はさっきと同じようにソファを背にして床に座ると、急に恥ずかしさが込み上げてきた。

好きな女の前で号泣ってありえねーだろ。
今、俺はどんな顔してんだよ。
こんな顔牧野にみせらんねーな。

そんなことを思いながら頭をワシャワシャ掻き回していると、ふとリビングの明かりが小さく落とされた。
牧野の方をみるとコーヒーをカップに入れてる途中だが、リモコンでリビングの電気を調節してくれたらしい。

俺がこんな顔を見られたくねぇと思ってることさえ、こいつにはお見通しなのかもしれねぇ。

キッチンから二つマグカップをもって戻ってきた牧野は、
「インスタントだからね。」
そう言って目の前のローテーブルにカップを置いた。

俺らは無言でコーヒーを口にし、しばらく黙っていたが、急に動き出した牧野がテーブルの上にあるアイスを手に取り、
「完全に溶けちゃったね。」
と笑いながら俺の方をみる。

「ああ。ぐちゃぐちゃだな。」
アイスは袋の中ですでに溶けきっている。

「だって、道明寺遅いんだもん。
健太も待ってたんだよ。」

「わりぃ。仕事のメールが入ったからよ。
まだたくさん買ったろ?食べろよ。」

「道明寺も食べる?」

「俺はいらねぇ。おまえは食べろよ。
せっかく買ったんだから。」

「……そだね。食べちゃおっかな。へへ」
笑いながらキッチンまで走っていく牧野は、
どれにしようかなーって言いながら冷凍庫を眺めていたあと、カップのアイスを一つ持って戻ってきた。

そして、また俺のとなりにちょこんと座り込み
「こんな時間にチョコレートアイスはまずいかな……」と言いながらひとくち口に入れる。
そして
「おいしいよ。道明寺も食べればいいのに……」
そう言って俺の方をみるこいつ。

「俺にも食わせろ。」

「ん?持ってくる?なに味がいい?」

「ちげーよ。おまえのそれ食わせろ。」

俺が指差す牧野の食いかけのアイス。
牧野は俺の言葉に一瞬固まってたが、すぐに
「やっぱり同じの持ってきてあげる。」
そう言って立ち上がりキッチンに行こうとするから、俺はすぐにこいつの腕を取り強引に座らせた。

「いらねーって。
…………なぁ、牧野。
なんで、俺は無理なんだ?」

「え?」

「この間、おまえ言ったよな。
俺だけは無理だって。それってどういう意味だよ。」
直球で聞いておきながら、情けねぇけど答えを聞くのが怖くて牧野の目を見れねぇ。

「だって、……もう終わったでしょあたしたち」

「……俺はまた始めたいって言ったら?」

「だからっ、どうしてあたしなのよ。
一度ダメになってるあたしなんかじゃなくて、
他の人の方がいいでしょ!」

「…………おまえは平気だったのかよ。
俺じゃなくても……平気だったか?」

「え?……道明寺?」

「俺は甘く見てた。おまえのこといつかは忘れられると思ってた。
だから、必死に考えないようにしてきたし、おまえが夢に出てくる度に罪悪感からだと思うようにしてた。
けど、違うんだよっ。
おまえと再会して、どうやっても自分の気持ちを誤魔化すことが出来ねぇってわかった。
俺はどうしようもなくおまえに惚れてる。
それは、あの頃からずっと変わってなくて、いや、あの頃以上かもしれねぇ。」

俺がここまで言っても牧野はじっと正面を向いたまま俺の方を見ようともしねぇ。
総二郎が言った言葉を思い出す。
今度こそ牧野を失うと立ち直れねぇほどズタズタになるかもしれねぇと。

すると、牧野がカタンと持っていたアイスをテーブルに置いた。
そして、隣に座る俺の方を向き、
「あんたって、どこまでも自己中。
付き合ってたときも、別れてからも、再会してからも。」
そう言って上目使いで睨んでくる。

「まぁ、確かに付き合ってたときも再会してからも、おまえのこと振り回してきたかもしれねーけど、この6年の別れてた期間は責められることはねーんじゃねぇ?」

「いや、その期間が一番たちが悪いわよっ。
いっつもあたしの頭の中にいて、全然出ていってくれないし、それなのに会いたいときには会えないしっ。
やっと忘れようと思ってた頃にまたあたしの前に現れるしっ。
ほんと、自己中すぎるっ!」

「牧野?」

「アイスが溶けちゃった。」
テーブルに置いてあるアイスのカップを取り、再び口に運ぶ牧野。

「いや牧野、アイスはあとでいいから、おまえ今なんて言った?
それって、俺のことを忘れられなかったってことだよな?」

「…………」

「だから、アイスを食うのはあとにしろ。」
俺は牧野からアイスのカップを取り上げる。
そして、正面を向いたままのこいつの顔を強引に俺の方に向かせて、確かめるようにゆっくりと聞いた。

「俺たち両想いってことだよな?」

長い沈黙のあとこいつが言った言葉は
「あたしの想いはあんたの十分の一かもしれないけどね。」
どこまでも可愛くねぇこいつ。
だけど、俺はどうしようもなくこいつが好きだ。

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コメント

  1. はな より:

    あーあー
    浮気司にもうご褒美ーー
    つくし!甘いっ!甘いわっ!

    作者さんもよっ!

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