セカンドミッション 19

セカンドミッション

「そんなに買ってどうするのよっ。」

コンビニのかごいっぱいにアイスを買い込んだ俺と健太に、笑いながら牧野が言う。
どんだけ買ったって大した金額になんてなんねーし、牧野が笑っていてくれればそれでいい。

あたしが出すと言ってきかない牧野を押さえ付け、俺が強引に金を払って店を出ると、健太が俺と牧野の間に入ってきた。
そして、ちっせー手を俺の手に絡める。

俺ははじめての感覚に戸惑って、一瞬何が起きたのか分からなかったが、健太に手を握られてるんだと気付いたときは、なぜだか泣きたくなった。

あっという間に着いちまったマンションまでの道。
エレベーターに乗り込んで、36階に下りた俺は、そっと健太の手を離す。

「じゃあな、健太。」
そう言って頭を撫でてやる。と、

「えっ?おじさんアイス食べないの?」
俺の顔を見上げて聞いてくる健太。

「ああ。全部おまえにやる。
少しだけ牧野にやれよ。」

「やだよっ、おじさんの分も選んだのに……」
健太は駄々をこねて再び俺の手を握りしめた。

それを見て、
「健太っ。道明寺にもアイスあげたら?
買ってもらったんだし、こんなにあっても食べきれないでしょ。」
牧野が健太に買い物袋を差し出してそう言ったが、健太は首をブンブンふって、

「おじさんと一緒に食べるっ!」
と声を張り上げた。

どうすんだよっ、と俺は牧野の方に視線を向けると、牧野も困惑顔で俺を見つめ返してくる。
その間も、健太は俺の手を引いてぐいぐい牧野の部屋に行こうとする。

「健太っ、わがまま言っちゃダメ。
道明寺、いやおじさんは忙しいの。
だから、ねっ、もう手離して。」
そう言って健太の手から俺の手を引き離そうとする牧野を見て、これはチャンスなのか?と俺は感じはじめた。
そして、たぶんこれを言ったら牧野はすげー怒るんだろーなと思いながらも、にやける顔をおさえらんねぇ。

「健太、一緒にアイス食べるか?
おじさんもそっちの部屋に行ってもいいか?」

「ちょっ!ダメダメ。
ね、健太、道明寺はもう寝るんだって。
たから今度ねっ。」

「まだ寝ねーよ。
早く鍵あけろ。アイスが溶けるぞ。
なっ、健太。おじさんと食うだろ?」

「うん!」

健太を見方につけた俺は得意気に牧野を見ると、
「なにが、おじさんよっ、お兄さんじゃなかったの?こういうときだけ上手いんだからっ!」
俺のことを睨み付けながらポケットから鍵を取り出した。

はじめて入る牧野の部屋。
あの頃もそうだったが、こいつは意外と女らしいこまごました雑貨が好きだ。
間取りは俺と同じなのに、全然違う雰囲気と香りに包まれて、懐かしさが込み上げてくる。

「道明寺、そこに座ってて。
健太のことまず着替えさせてくる。眠たくなったら困るから。」
牧野は俺にソファを指差して言ったあと、健太を連れて奥の部屋へと入っていく。

俺は言われるがままリビングにあるソファに座った。
独り暮らしにしては大きくてゆったりとしたソファ。
二人が着替えて来るのを座って待っていたが、ふと俺も立ち上がって奥の部屋へと声をかける。

「牧野っ。」

「んっ、なに?」奥から牧野が答える。

「俺も着替えてくる。すぐ戻るから。」

「……うん、わかった。」

せっかく牧野の部屋に入れたのに、なんとなく、スーツ姿の自分だけがこの空間で他人のように思えて居心地が悪かった…………。

急いで自室に戻り着替え終えた俺に、秘書の西田からメールが入る。
急ぎの用件があり、パソコンを開いたりしている間に、牧野の家から戻って15分もたっちまっていた。
もしかして牧野のことだから鍵をかけてるかもしれねーなと思いながらも、ラフな服装に着替えた俺は再び牧野の部屋に戻った。

一応、玄関を入ったところで、
「牧野、入るぞ。」
と声をかけてみるが返事がねぇ。

まだ奥の部屋にいるのか?と思いながらもリビングの扉を開けると、そこにはさっき俺が座っていた大きめのソファに二人で寝転んでいる牧野と健太の姿。

近付いてみると、歩き疲れたのかスースーと寝息をたてて眠る健太と、その横で寄り添うように眠る牧野。
テーブルには3人分のアイスが封を開けずに置いてある。

待ってたのかよ。そんで待ちくたびれて眠っちまったか?

俺はソファの横に膝をついて二人を覗きこんだ。
久しぶりにみる牧野の寝顔。
化粧を落としたのか、いつもより幼く見えるその顔は、昔俺が愛してやまなかった女の顔だった。

規則正しい二人の寝息を聞いているうちに、
俺はなぜだか、胸が苦しくて苦しくて堪らなかった。
その感情が何なのか、分からないような、分かりたくないような……。

すると、ふと牧野の瞼がかすかに震え、
そして、ゆっくりと目を開けた。

ソファに横たわる牧野と、ソファの横に膝まずいて座る俺の視線が絡まる。
そして、次の瞬間、牧野が言った。

「道明寺、どうして泣いてるの?」

その言葉で、俺ははじめて気が付いた。
そう、俺は泣いていた。

そんな俺を見て、牧野はそっと俺の頬に手を置く。
そして、
「どうして、そんなに泣くの?
あたしが、意地悪したから?」
子供をあやすように優しく話す牧野。

「ちげーよ。」そう答えても、俺の涙はあとからあとから止まらねぇ。
どうしても、止めることが出来なかった。
だって、これは反則だろ。
こんな光景を見せられたら、我慢してたものが堰を切って溢れ出す。

「道明寺…………。」
心配そうに俺を見つめる牧野に、俺は言わずにいられなかった。

「俺らも、こんな風に家族だったかもしれねーんだろ?おまえとあのまま一緒にいれたら、俺らにだってこれぐれーのガキがいて、3人で暮らしてたかもしれねーんだろ?
なにやってんだよっ、俺は。
すげー後悔してる。
ごめんな、牧野。ほんと、ごめん。……ごめん」

涙がとまんねぇ俺は、久しぶりに牧野の胸の中に包まれた。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

ランキングに参加しています。応援お願いしまーす⭐︎

コメント

タイトルとURLをコピーしました