「戻ってこないと思ったら二人して何やってんの?」
「司、それ、ある意味犯罪だから。」
うす暗い廊下の影で、ジタバタ暴れる牧野を強引に腕のなかに抱え込む俺の背後で、あいつらの声がした。
振り向くと、そこには帰り支度を整えたやつらの姿。
「そろそろ帰るぞ。ったく、司、場所を選べ場所を。」
総二郎にまで呆れられた俺は、仕方なく牧野を離してやると、こいつはすかさず、俺の膝下を蹴ってきやがる。
「いってーなっ。」
「痛いじゃないでしょ!何すんのよ、変態!」
そう言って俺の腕から逃げた牧野は、滋たちとズカズカと店の外へと歩いていった。
今日はこれで解散となった俺らは、それぞれタクシーに乗り込んでいくが、俺は牧野の腕を掴み、
「おまえも一緒に乗ってけ。どうせ、帰り道はおなじだろ。」
そう言って、後部座席に押し込んだ。
文句を言いたげなこいつのことは無視して、運転手に行き先を告げると、牧野は観念したのか窓の外に視線を向けた。
そしてそのまましばらく俺らは無言のままタクシーに揺れていた。
マンションが近付いてきたころ、俺は牧野に聞いた。
「なぁ、健太は今日も来てるのか?」
「えっ?ううん。今日は来てないよ。」
「会ってきただけかよ。」
「そう。……あの子、明日誕生日なの。
だから、プレゼント渡してきただけ。」
「紛らわしい言い方すんなよ。
健太なら健太って言え。男とかって言うなよ。」
「あんたが、男かって聞くから、男だって答えただけでしょ。
それに、いちいち反応しないでよ。
それと、…………いや、何でもない。」
そこまで言うとタクシーがマンションに到着した。
二人でエレベーターに乗り込み、36階に着くと、そこからは左右に別れなきゃなんねぇ。
もちろん、俺はもっと牧野と一緒にいてえ。
けど、それを言うのはあまりにも早急すぎるのか…………。
エレベーターの前で立ち止まる俺とは対照的に、牧野は無言で自室へとゆっくり歩きだした。
それを見て、俺も牧野に背を向けたとき、
「道明寺。」
小さくあいつが俺を呼んだ。
振り向くと、まっすぐに俺を見つめる牧野。
こいつがこういう顔をするときはろくなことを言わねぇって俺は知っている。
「道明寺、あたしたち昔みたいには戻れない。
もし、道明寺がそれを望んでるなら……諦めて。
あたしは、もうあんたとは……ダメなの。」
おまえがそんな顔をして、泣きそうになりながらも俺のことを真っ直ぐに見るときは、必ずおまえは自分の中で勝手に答えを出してる時だったよな。
あのときもそうだった。
泣きながら俺に別れを告げたときも、今みたいな顔をしてやがった。
だから、俺はおまえのその顔に弱えーんだよ。
そんな顔で言われたら、あのときみたく、わかったって言ってやんなきゃいけねぇのは分かってるんだけど、今回は言ってやれそうにねぇ。
俺はもう二度とおまえと離れたくねえから。
「牧野、わりぃ。
今回はおまえのお願いは聞いてやれねぇ。
俺はおまえが好きだ。
ずっとおまえのことを考えないようにしてきたけど、この6年おまえのことが忘れられなかった。
…………俺のこと許せねぇのは分かる。
けどもう一度、俺を見てくれねーか?」
牧野との距離はあと数歩。
手を伸ばして近寄れば、すぐに抱き締めることができる距離。
それなのに、おまえと俺の間には見えない厚い壁がある。
「道明寺だけは……無理……。」
そう呟いて、牧野は部屋に消えた。

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コメント
浮気司だけは、私もムーーリーー~~~!!!