セカンドミッション 16

セカンドミッション

総二郎と三条の話を聞いたあと、トイレに立った俺が個室へ戻ると、牧野の姿が見えねえ。

絡んでくる滋に適当に話を合わせながらも、俺は気になって扉の方を何度も見るが、あいつはなかなか戻ってこねえ。

どこに行ったんだよ。
トイレにしては遅すぎる。
電話か?

そこでさっきの会話を思い出した。
男と会ってきたのか?そう聞いた俺に、
関係ないと言いながらも否定しなかった牧野。
あいつに付き合ってる男がいてもおかしくねぇし、むしろ男がほっとく訳がねえ。
天秤にかけられても…………、さっきまではそんなことを考えていたが、実際現実となれば…………。

グルグルと頭の中でそんなことを考えていたが、あまりにも戻ってこねぇ牧野にしびれを切らしてソファから立ち上がると、個室を飛び出した。

うす暗い店内の廊下をトイレの方に突き進む。
途中、二人組の女たちとすれ違うと、一人が泣いているようでもう一人がしきりに慰めている。
俺はそいつらに目もくれず、廊下を歩いていくと、少し奥まった柱の影に人影がある。

チラッと視線を向けると、それはあきらの後ろ姿だった。
俺は牧野を知らねぇかあきらに聞こうと、その後ろ姿に近付くと、どうやらお楽しみの最中らしい。

あきらが女に覆い被さるように密着し、壁に背を付けている女はジタバタもがいてる。
俺はいつものことだと呆れつつも、その場を離れようとしたとき、何かが引っ掛かった。

あきらに迫られてるその女の足元をよく見てみると、それは牧野が履いていたパンプスと同じだ。
肩越しに見えるのはストレートの黒髪。
小さく聞こえる「美作さんっ」と、焦ったような牧野の声。

それを聞いて、俺の中の何かがブツッと切れた。

「あきらっー!てめぇー、何してやがるんだよっ!」
後ろを向いていたあきらの肩を思い切り引っ張り、牧野から引き離すと、
俺の声に驚いた二人が、
「わぁっ!」「ぎゃぁ!」
と、すげー勢いで飛び上がる。

怒りのおさまらねぇ俺は、あきらの胸ぐらを掴み締め上げながら、
「牧野に何したっ!あきらっ!」
怒声を浴びせると、

「待て待て、司!落ち着け。」
慌てた様子であきらが叫ぶ。

「ふざけんなっ。これが落ち着いていられるかっつーの!おまえ、まさか牧野とそういう関係かよっ!」

「勘違いすんな、司!
牧野、頼むからおまえからも何か言ってくれよ。」

俺は牧野の方に目線をチラッと移すと、
「道明寺、違うの。
何でもないの。だから、美作さんのこと離して。」
そう言って、俺からあきらを引き離そうと間に入ってくるこいつ。

「何が違うんだよっ。ちゃんと説明しろっ!
あきらっ!」

「わかったよ。だから一旦離せ。
…………牧野には協力してもらっただけだ。
ちょっとしつこい女に付きまとわれてて、偶然その女が店にいたから、牧野に彼女の振りをしてもらっただけだ。
司が怒るようなことは何もしてねーよ。
悪かったな。」
牧野の方を向いて謝るあきら。

「ほんとか?牧野!」

「ほんとだってばっ!なんであんたがそんなに威張って怒るのよっ、バカっ!」
相変わらず口の減らねぇ女だ。

「あ?ふざけんなバカ女。焦るに決まってんだろーがっ。おまえも気安く何でも引き受けんじゃねーよ。キョトキョトしてっから誤解されんだよっ!」

「ちょっと!なんであたしまでバカ女って言われなきゃいけないのよっ。そもそも、あんたたちF4が揃いも揃って女たらしだからいけないんじゃないっ!」

「あ?誰が女たらしなんだよ!」

「あんたらでしょーがっ!」

俺らのヒートアップした言い合いに、
「まぁまぁ、落ち着けよ。
今回は俺が悪かった。なぁ、司。
機嫌なおせっ。部屋戻ってるぞ。」
あきらが言いたいことだけ言いやがって、さっさと逃げた。

「もうっ!美作さんずるい。
さっきの彼女、泣いてたんだから。
いくら付きまとわれてるからって、こんなやり方じゃ彼女がかわいそうじゃないっ。
ちゃんと断ってあげればいいのに。
マダムキラーだとか言っておきながら、若い子にも手を出すから悪いのよっ……。」

さっきまでの俺への悪態とはうって変わって、女への同情をしんみり語る牧野を、俺は壁にジリジリと攻める。

「ちょっと、なによ道明寺。
近いっ。はーなーれーろっ。」
距離を縮める俺に、必死に手を伸ばして逃げる牧野だが、俺はそのまま近付いて確実にこいつとの距離をゼロにした。

牧野の肩に俺は頭を乗せ、今思ったままを口にする。
「すげー焦った。おまえとあきらがそういう関係かもって、あり得ねぇって分かってんのに焦った。
ふざけんなっ。ビビらせんじゃねーよ。
心臓がもたねぇ。
…………おまえが他のやつとどうにかなるなんて考えただけでも頭がいてーよ。
…………おまえ、男いるのかよ?なぁ、牧野。」

「道明寺…………。
あんた、おかしいよ……。」

「ああ。…………おまえのこと考えすぎて、おかしくなってきてんだよっ。
それなのに、おまえは男と会ってから来たりしやがって。…………ふざけんなっ。」
情けねぇほど声が震える。

「男って…………、まぁ男だし……。
でも、……んー……うー……。
道明寺、色々言いたいことがありすぎて、どこから言えばいいのか分かんないんだけど、とりあえず、離れてよっ。」

「いやだ。」

「ちょっと。誰か来たらどうすんのよっ!」

「どうもしねーよ。」
そう言って牧野の肩に乗せてた俺の頭を持ち上げ、今度は牧野の頭に俺の顎を乗せた。

身長差が頭1つ分以上ある俺らにとって、この体勢はさほど無理でもなく、むしろ、さっきより体が密着して俺的にはすげーいい。

しかも、
「やっ、道明寺、なにしてんのよっ!」
そう言ってわめき出す牧野の吐息が俺の喉仏にかかり、ゾクッとくる。

「おまえの男ってどんなやつ?」
聞きたくねぇけど、聞いておきたい。

「どんなやつって?」

「ああ。今日会ってきた男だよ。
付き合ってんだろ?」

「プッ……うん。結構な頻度で会ってるね。
凄い親密な仲なの。
切っても切れない縁って感じかな。」

「…………好きなのか?そいつのこと。」

「うん。大好き。」

その言葉に迂闊にも涙が出そうになる俺。
喉の奥にすげーでかい石を埋め込まれたような感覚で苦しくて苦しくて、声さえもでねぇ。

「……道明寺?」
なにも言わねぇ俺に、牧野は顔を上に向けた。
その拍子に、牧野の頭から俺の顎も外れて、俺らは正面から向き合う形になった。

上目使いで俺の顔を見た牧野が、
「道明寺、泣きそう……。」
そう呟いた。

「泣くだろふつう。ここまでノロケられたら。」
不貞腐れていった俺に、

「のろけるって……プッアハハー、
健太だってばっ!健太。
今日会ってた男は、健太。
なに、本気にしてんのよっ!
あーおもしろ。
さぁ、戻るよっ、行くよっ、道明寺。」

笑いながら勝手に言い捨てて、勝手に俺の腕の間から抜け出して戻ろうとする牧野を、我にかえった俺は逃がさねぇ。

「てめぇー、ちょっと待て。
おまえ、分かっててグダグダ話してたなっ。」
取っ捕まえた牧野を再び壁に攻め立てると、
俺は強引に腕のなかに閉じ込めた。

「んー、んー、やーめーろ。」

「焦らせた罰だっ。
マジでおまえあり得ねぇからっ。」

そう言いながらも、きつく牧野を抱き締めて腕のなかに包み込む。

何年も忘れてたこの香り。
何年も心の底で欲してたこの温もり。

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コメント

  1. はな より:

    浮気司にはこの位の罰は与えて宜しいっ!

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