…………みんな、…………なんかあったの?
30分遅れで店にやって来た牧野が、異様な雰囲気の俺たちを見て不安そうに言ってきた。
俺が何でもねぇと言おうとしたとき、滋が立ち上がって個室の入り口に立っている牧野の所まで行き、腕をつかみそのまま部屋の中まで連れてくる。
そして、牧野を俺のとなりに座らせた。
「えっ?なに?」
強引に俺のとなりに座らせられた牧野は、滋と俺の顔を交互に見て戸惑っているが、滋はそれには答えず、俺の顔を見て言った。
「司、約束だからね。さっきの言葉信じてるから。」
「…………ああ。ぜってぇ守る。」
不思議そうな牧野を横目に、全員揃ったところで再び乾杯。
このメンバーで顔を合わせるのは6年ぶりだ。
今日の牧野は、先日二人でメープルのバーに行った日のようなカチッとした仕事服ではなく、少しカジュアルなワンピース姿だった。
「おまえ今日は仕事帰りじゃねーの?」
「ん。ちょっとね。用があって…………。」
グラスに口をつけながら答える牧野。
「なんだよ、用って。」
その俺の問いに、ジロッと目線を向けて、
「道明寺には関係ない。」
バッサリ切り捨てるこいつ。
「男か?」
この間のこいつの意味深な言葉が頭から離れねぇ俺は、抑えがきかねえ。
「はぁ?……だからっ、あんたには関係ない。」
「なんだよ、否定しねーのかよ。」
「しないね!だってそうだもん。男だもん!
なんか問題ある?」
小声ながらも挑発的に言ってくるこいつに、俺ものせられそうになるが、ここは我慢すると決めたんだ、と考え直し冷静に答える。
「いや…………問題ねぇ。
おまえが誰と会ってても構わねぇよ。
今は俺のとなりに座ってるんだしよ。」
牧野に言うつもりなのか、自分に言い聞かせるつもりなのか、自分でもわかってねえけど、
ただ言えるのは、おまえが会ってくれるっつーなら、どんなやつと天秤にかけられてもいいとさえ思う。
それで俺の確率が、0パーセントから少しでもあがるなら…………。
牧野とはそれ以上ゆっくり話すことも出来ず、こいつは滋に取られ、俺は両隣に来た三条と総二郎に捕まった。
「司、牧野に軽くあしらわれたか?ハハハっ。」
「うるせー、総二郎。おまえは向こうに行ってろっ。」
「なんだよ。三条と内緒の話でもあんのかよ。」
「あ?ねーよ、そんなの。」
「そう言えば三条。司にあの事話したのかよ。」
「…………いいえ。話してませんよ。」
「ぶははははー。まじ?話さねぇつもりかよ。
女はこえーな。」
総二郎は三条をからかいつつも、声のトーンを落として、牧野に聞こえねぇように話すその仕草が俺は気になって
「なんのことだよ。」と聞くと、
「あのな、」総二郎が切り出した。
それを、
「道明寺さんには私から話します。」
そう言って三条が遮って話し出したのは、昔俺がキスをしたあの女、東城まきのことだった。
俺と牧野が別れて、あっという間にNYに連れていかれたあと、三条と滋は徹底的に東城について調べたらしい。
東城まきは、俺らの回りをうろついてただけじゃなく、上場企業の息子たちに目をつけては、うまいやり口で手広く付き合っていたらしい。
そして、本命の俺がいなくなったあとは、大手建設会社の宮西建設の息子一人に絞り付き合っていた。
付き合ってすぐに妊娠が判明し、それを口実に強引に結婚を迫り、東城の思惑通り婚約したが、そこで滋と三条の登場だ。
今まで調べあげてきた東城まきについてのデーターが、ここで役に立った。
東城は今まで、同じやり口で他の男とも妊娠を繰り返し結婚を迫ってきたが至らず、子供をおろしている。
その際、多額の慰謝料を要求しているらしく、慰謝料で私腹を肥やしているとの噂もあるぐらいだ。
その事実を三条は宮西建設に送りつけた。
案の定、結婚は破談となり、それどころか東城コンサルティングは宮西から多額の金銭援助を受けていたため、経営も破綻した。
三条のその話を聞いてた俺に、総二郎が真面目な顔を向けて呟いた。
「おまえがなってたかもしれねぇんだぞ。
もう二度とフラフラすんじゃねえ。」

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