セカンドミッション 12

セカンドミッション

約束の金曜日。
結局、牧野と会えたのは夜10時を回ってからだった。

待ち合わせの場所に自分の車で行き、牧野を見つけてクラクションを鳴らすと、キョロキョロあたりを見回したあと、やっと俺の方を見るこいつ。
そして、俺と目があった瞬間、車を指差して、『これ?』と口が動く。

俺は牧野に手招きしてやると、パタパタと駆け足で車に近づいてきた。
そして、車の後部座席のドアを開けるバカ女。

「バカ、前に乗れよ。」

「えっ?あっ、そうか。いいの前?」

何がいいのかわかんねぇけど、俺は答える前に助手席のドアを開けてやる。

すると、
「おじゃましまーす。」と、おかしな言葉とともに乗り込んできた。
車が動き出したあとも、キョロキョロ車中を見てた牧野は、

「これ、道明寺の車?」と、聞いてきて、

「ああ。」と、答えると、

「へぇー、ふーん。」
意味深な言葉を繰り返している、

「飯は食ったんだろ?
メープルのバーでいいか?」
俺の問いに、一瞬黙ったあと

「うん。いいよ。」
そう答えて、牧野は窓の外に視線をうつした。

メープルのバーにある奥まった席についた俺らは、それぞれ飲み物を注文したあと、牧野の仕事のことや、弟のこと、姉貴のことなど、これまでの時間を埋めるように話をした。

けど、俺の中では、すべてが核心からずれているような、すべてが本当に知りたいことじゃねぇような…………。
そんなとりとめない話をしながらも、となりに座る牧野の存在自体が俺を刺激する。

久しぶりに見る、牧野のまっすぐな視線と漆黒の瞳。
性格をそのまま表したようなストレートの綺麗な髪。
相変わらず体は折れそうなほど細くて、黒いブラウスの胸元からは白い首筋がのぞいている。
そして、となりに座っている俺から見えるのは、昔何度も愛撫した形のいい耳朶。

俺は高校生かよっ、と自分に突っ込みを入れたくなるぐれえ、牧野に女を感じてる自分がすげーヤバイ。
でも、こんな感情は6年前にこいつに抱いていたもの以来、久しぶりだ。

そんなことを思っていた時、突然こいつの携帯が鳴り出した。
「ちょっと、ごめん。」
そう言って小声で電話に出た牧野は、

「うん。…………うん。……今、メープルのバーにいるの。……来る?……いいよ、……」

その返答に、すげー嫌な予感がする。

「だれだよ。」電話中の牧野に声をかけると、
「ん?あー、滋さん。」

やっぱりな。だめだ。来んなっ。邪魔するな。
俺は牧野から携帯を奪うと、

「滋か?おまえは来んなよっ。…………あ?
うるせー、だめだっ。今日はやめろっ。
今度、あきらに頼んでみんなの都合合わせるからよ。……あ?……うるせー、泣かせてねえって。わかってるよ。……あー、じゃあな。」

一方的に切ってやる。
そして携帯を牧野に返すと、
「ちょっと!勝手にもうっ。滋さん来るって?」

「来ねぇよっ。」

「なんでよ!滋さん道明寺に会いたいって。」

「今度な。今日はだめだっ。」

「ヒドイ道明寺。ヒドイヒドイ。」

「ヒドイのはおまえだろ。勝手に他のやつ呼ぶな。わかれよ鈍感女。
俺はおまえと二人でいてーんだよ。
誰にも邪魔されたくねーの。
ったく、そういう鈍感なとこ、ほんとおまえは変わってねぇな。」

「…………。」

俺の言葉に黙りこくった牧野は、すげー深刻そうな顔で、カクテルを一気にあけた。

「バカっ一気に飲むな。酔うぞ。
まぁ、帰るとこは一緒だからいいけどよっ。」
ちょっと笑いを含んだ口調で言ってやると、

「…………道明寺、あんたはあたしのこと変わってないってこの間からずっと言ってるけど、あたしもあんたもすごく変わったの。
もう昔とは違うの。
だから、さっきみたいな変な発言はやめて。」
そう言って、俺を睨んでくる。


「わかってる。おまえが言いたいことは分かってるよ。
けど、……はぁー、
ったく、なんでおまえなんだろーな。」

「ちょっと、なによそれ!どんな言いがかりよ」

「全っ然、成長してねーんだよな、俺は。

あの頃から、おまえに対する気持ちは何も変わってねー。」

「…………だから、そういう誤解されるような発言はやめてよ。

あの時はあたしも悪かったと思ってる。
まだ10代だったから、あたしも若かったし……。
今みたいにもう少し大人だったら道明寺のこと許せてたと思う。」
ポツポツと話し出す牧野。
その意外な言葉に少し心が軽くなったが、
それはほんの一瞬だった。

「キ……キスなんて今思えば大したことじゃないのにね。
別に好きな相手じゃなくたって、その場の雰囲気とか成り行きでキスしたり、それ以上のことだって出来るのに、あの頃のあたしにはそんなことも分かってなかった。
でも、あたしもこの年になれば色々経験してわかったの。
…………だから、あんたの言う『変わってない』あたしじゃない。
あたしたちは、車も持ってなくて、お酒も飲めなかったあの頃の10代じゃない。

もう昔のようには戻れないし、戻りたくないの……。」

俺だって、そう思ってた。
ついこの前まで、おまえのことは過去のことだと思ってた。
他の女に興味が持てねぇのも、おまえへの罪悪感からだと思ってた。

でも、全然違ったんだよ。
俺さえも気付いてなかったけどよ、
俺はやっぱりおまえに惚れてる。
おまえのすべてが俺を惹き付ける。

だから、『変わった』おまえでもいい。
今度は俺が傷つく番になる…………。

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