類の話では、長塚自身は隣に住んでねぇってことだし、牧野とも深い仲ではないらしい。
そして、子供のことも解決したし…………。
そうやって少しずつ不安が取り除かれていく一方、俺は今自分が抱いてるこの感情が何なのかを、確かめたくなっている。
昔、好きだった女への懐かしさなのか、それともいまだに俺は…………。
その疑問を俺なりに確かめるため、
ここ4日間ほど、俺は牧野の部屋のチャイムを鳴らし続けている。
朝は出勤する時、夜は帰宅したあと、少しずつ時間もずらしながら鳴らしてるっつーのに、全然応答がねえ。
しびれを切らした俺はロビーのコンシェルジュに聞いてみる。
「36階の女だけど、いつも何時ごろ帰ってくる?」
「…………お答えできません。」
俺の鋭い睨みにも、
「申し訳ありません。」の、一点張り。
まぁ、さすがよく教育のできたコンシェルジュだ。
俺はコンシェルジュから聞き出すのを諦めて、次の手段に出た。
オフィスで自身のデスクの引き出しをガサガサあさる。
たしか、どこかで見たはずなんだけどよ……。
そんな俺に、西田が声をかけてきた。
「司様、何かお探しですか?」
「あ?…………いや、何でもねーけど、…………いや、あのよー、」
「なんでしょう?」
「あのよ、なんて名前か知らねーけど、よく書類とか本にピタッと貼ってる小さなメモみたいなもんあるだろ?
あの、いろんな色があって、重要なページにピタッて貼れるあれだよっ、あれ。」
「…………付箋のことでしょうか?」
「ふせん?あー、そうかもしれねぇ。
あれあるか?」
そんな会話を西田とした夜、マンションに戻った俺は牧野の部屋のチャイムを鳴らすが、相変わらず返事はねえ。
それを予想していた俺は、西田からもらった付箋を鞄から取り出して、牧野の部屋のドアにペタッと貼った。
『おまえはいつなら家にいるんだよ。
話しがあるから、戻ったら俺の部屋のチャイムならせ!』
この階は俺らしか住人はいねぇし、郵便物も1階で受けとる仕組みだから、このメモは牧野以外見ねぇだろうと予想して貼った。
この方法ならあいつとすぐにコンタクトをとれると思ってた俺は甘かった。
そして、こんなにも『待つ』ということが、体力を消耗するということも俺は知らなかった。
付箋をはって三日目。
相変わらず、何も言ってこねぇ。
でも、俺が貼った付箋はなくなってるから確実にあいつは読んでるはず。
それなのに連絡してこねぇってどういうことだよっ。
イラついた俺は再び、
『帰ってきてるなら連絡しろ。
携帯○○○○○○○○○○○』
そう付箋に書いて貼っておいた。
それから二日後、帰宅した俺の部屋のドアに、小さな黄色い紙が貼ってあるのが目に入る。
それは、縦に細長くて、キリンの首のかたちをした付箋。
そこには、
『出張行ってたの。何か用?』
たったそれだけの言葉だったが、その付箋のビジュアルと牧野の女らしい字体になんとも言えねぇ嬉しさが込み上げる。
すぐに俺は自分の付箋を取り出して、
『飯、行くって約束だろ。いつにする?』
そう書いてあいつの部屋に貼り付ける。
もしかしたら、今なら牧野は部屋にいるのかもしれねぇ。
直接、言った方が早いのかもしれねぇ。
けど、こんな小さなやり取りがすげー嬉しくて、あったかくて、もう少し続けてみたいという気にさせられた。
そして、次の日も仕事から帰ってくると、キリンが待っていた。
『しばらく忙しいの。今度ね!』
この前も同じ台詞を言いやがったこいつ。
今度っていつだよっ。それが知りたくて聞いてんだろーが。
『今週の金曜はどうだ?
俺より忙しいっつーなら、会って説明しろ。』
その日からキリンが待っていてくれることが、俺の唯一の楽しみになった。
『金曜?みんなもその日なら空いてるの?
それなら、なんとか予定空けるけど』
『みんな?知らねぇよ。俺とおまえの二人だ。
なんか文句あるのか?』
『二人なの?今月は忙しいから無理かな。』
『おまえ、昨日はなんとか予定空けるって書いてあっただろーが。
なんなら、おまえの事務所に直接電話して予定空けさせてもいいんだぞ。』
『絶対やめてね。そんなことしたら、二度と会わないから』
『バカ、嘘だ。
俺が言える立場じゃねえのはわかってるけど、久しぶりにおまえと話がしたい。
少しだけ、時間くれ。』
『金曜、仕事終わったら連絡する。』
付箋のやり取りをして、やっとこの約束を取り付けるのに何日かかっただろう。
俺はその夜、ビールを飲みながら、冷蔵庫の扉にズラリと並んだキリンたちを眺めて、苦笑した。
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コメント
こんにちは
こちらの作品は以前、出されてましたか?
読まさせて頂いた様な気がして…
すごく、気になって…
間違えていたらすみません。
こんにちは。
はい、以前のサイトで出していたものを少し加筆して
アップしております。
引き続きお楽しみください⭐︎
きりんが1匹、
きりんが2匹、
きりんが3匹、
きりん、きりん、きりんと坊っちゃん
カワイ(*≧з≦)