セカンドミッション 6

セカンドミッション

日本帰国が決まって、何もかもババァの言いなりになってきた俺にも、唯一わがままが許されたことがある。

それは、会社の近くに一人用のマンションを購入することだ。
金はもちろん自分で払うが、日本に帰れば邸に住めと言われると思ってた俺は、あっさり要望が通り、拍子抜けした。

秘書の西田に、道明寺グループが所有する物件の中で良さそうなものを探してくれと伝えると、意外にもその日のうちに書類を持ってきた。

会社からも近く、広さも問題ねぇ。
そのタワーマンションの36階。
「36階は2棟に別れております。
既にお隣の方は入居されていますが、入居時は厳しい審査を受けますので問題ないかと。」

西田の言う通り、この立地でこの広さだ。
普通の奴らが購入出来るほどの金額じゃねえ。
それなりに財力がねえと無理だろう。
そして、その道明寺の厳しい審査を通過したやつなら、たぶん問題ねぇ。

実際に日本に帰国して3週間。
マンションは書類では分からなかったが、かなりの好立地だ。
そして、警備も万全だし内装も悪くない。
想像してたよりもレベルが高かった。

36階のフロアはエレベーターを挟んで両側に別れている。
俺の部屋の玄関と、隣の部屋の玄関まではかなり離れていて、未だにもう一人の住人には会ったことはねえ。

でも、俺は勝手に想像してた。
このレベルのマンションを購入してる奴なら、
どこかの社長か医師、それとも若手の政治家か……。

そんなことを思いながら生活して3週間。
ある日、俺が出勤するため玄関の扉を開けると、
同じフロアから足音が聞こえた。
こんな時間だ、隣のやつも出勤なんだろうと、
特別気にもとめなかったが、何かが引っ掛かる。

そう、その足音が女がはくハイヒールの音のように感じたから。
今まで勝手に男だと想像してた俺は、その事が意外で、どんなやつなのか興味が沸き、咄嗟に隣の部屋の玄関に視線を向けると、
今まさにエレベーターに乗り込もうとしている女の後ろ姿だけが見えた。

黒髪の華奢な女。
顔は見えなかったが、なんとなくあいつを思わせる姿。
俺はそう思いながら、一人苦笑する。
どんだけおまえは俺の頭に居座り続けんだよ。

でも、そうだよな。
ここは日本だ。
どこかにおまえはいるんだろ?

日本を離れていた時には感じることがなかった感情が蘇る。

すれ違う人混みや、何気なく映っているテレビの画面に、ふと牧野に似た女を見つけると、それだけで昔のことが頭をよぎり、一気にあの頃の感情へ引き戻されそうになる。

もう、吹っ切れていたはずなのに、

そうじゃなかったのか?と自問する。

そして、そのたびに俺は頭を思いっきり振り、自分に言い聞かせる。

「それ以上、考えるのはやめろ。」

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