英徳大のカフェテリア。
「司、とりあえず座れ。」
総二郎が隣の席を指差す。
「で?何があった?」
俺はこいつらにマンションで起こったことをすべて正直に話した。
「ひでーなそれは。
一番、そういうことをしねぇと思ってた司が…………。」
「あの女の言ってることは、どこまで本当だ?」
あきらも聞いてくる。
「俺が今話した、マンションのこと以外で、その女と関わったことはねぇ。
二人きりで話したのも、その時がはじめてだ。」
「何者だよ、あの女。」
そのあきらの問いに、黙って聞いていた桜子が口を開いた。
「東城まき。東城コンサルティングの一人娘。
私立のお嬢様学校からの編入組で、以前から道明寺さんの追っかけとして有名な女です。
近付くチャンスを狙ってたんだと思います。」
「はぁー。たちわりぃ奴に引っ掛かったな司。
一回のチャンスをものにしたってわけか、あの女は。」
「司、どうするんだよっ。牧野のこと。」
「……どうするも、ねーよ。全部俺がわりぃ。
謝って許してもらうしかねぇ。」
「牧野のことだから、殴られるか、蹴られるか、とにかくボコボコにされるぞ、覚悟しとけよっ。」
総二郎のその言葉に、俺は心の中で、
あぁ、それぐらいで許してもらえるなら何でも受け止める。
おまえを悲しませた罰だ。
二度としねぇよ。
そう思ってた時、今まで黙って聞いていた類が、
「司、牧野は許さないかもしれないよっ。」
怒りの感情を隠すことなく、そう言い捨てて、カフェテリアを立ち去った。
その日の夜遅く、タマから携帯に連絡が入る。
どうしても外せねぇ仕事があり、社にいた俺に、
「坊っちゃん、つくしが戻りましたよ。
今日はもう出掛けないようです。」
「わかった。すぐ帰る。」
俺は急いで邸に戻った。
邸の俺らのプライベートルームに近付くと、部屋から明かりが漏れてるのがわかる。
そっと扉を開くと、テレビの前のソファにちょこんと座る牧野の姿。
「牧野。」
俺の声に反応して、振り向いた牧野は、
「あっ、お帰りなさい。」
俺が拍子抜けするぐらい普通に返事を返してきた。
そのまま、牧野の隣に座った俺は、
「おまえとちゃんと話がしてぇ。」
そう言うと、牧野は俺の目を見て少し微笑みながら、
「どうぞ。」と、優しく言った。
もっと、泣いたり、怒ったり、叩いたりしてくるのを予想してた俺は、そんな牧野の態度に拍子抜けしたが、あの日のことを話し始めた。
あの女とは、あの日はじめて二人で会ったこと。
あの女には、特別な感情は持っていないこと。
そして、…………肝心のキスのことも……。
全部正直に話して、もう二度としねぇ。
おまえを傷つけて悪かった。
俺はおまえが一番大切だ。
そんなことをありったけの言葉で牧野に伝えたつもりだ。
終始、牧野は真剣に俺の言葉に耳を傾け、時折頷きながら聞いていた。
そして、俺の話が途切れた頃、
「ありがとう。もう、わかったから。」
そう言って、小さく微笑んだ。
その次の日から、俺たちはいつもの生活に戻った。
以前と変わったことと言えば、どんなに仕事が遅くなっても、俺は邸に戻るようになった。
邸に戻って、こいつと一緒のベッドで眠り、そして次の朝を迎える。
たとえ、体の接触がなくても、牧野の寝顔を見ているだけで充分だった。
これが当たり前のことなのに、なぜ俺は今までそんな風に過ごさなかったのか…………。
牧野といることが、俺にとって安らぎであり、一緒にいればいるほど、愛しくて愛しくて堪らなかった。
今思えば、そうやって過ごした二週間が、俺の人生の中で一番幸せな時だったのかもしれない。
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