セカンドミッション 4

セカンドミッション

英徳大のカフェテリア。

「司、とりあえず座れ。」
総二郎が隣の席を指差す。
「で?何があった?」

俺はこいつらにマンションで起こったことをすべて正直に話した。
「ひでーなそれは。
一番、そういうことをしねぇと思ってた司が…………。」

「あの女の言ってることは、どこまで本当だ?」
あきらも聞いてくる。

「俺が今話した、マンションのこと以外で、その女と関わったことはねぇ。
二人きりで話したのも、その時がはじめてだ。」

「何者だよ、あの女。」

そのあきらの問いに、黙って聞いていた桜子が口を開いた。
「東城まき。東城コンサルティングの一人娘。
私立のお嬢様学校からの編入組で、以前から道明寺さんの追っかけとして有名な女です。
近付くチャンスを狙ってたんだと思います。」

「はぁー。たちわりぃ奴に引っ掛かったな司。
一回のチャンスをものにしたってわけか、あの女は。」

「司、どうするんだよっ。牧野のこと。」

「……どうするも、ねーよ。全部俺がわりぃ。
謝って許してもらうしかねぇ。」

「牧野のことだから、殴られるか、蹴られるか、とにかくボコボコにされるぞ、覚悟しとけよっ。」

総二郎のその言葉に、俺は心の中で、
あぁ、それぐらいで許してもらえるなら何でも受け止める。
おまえを悲しませた罰だ。
二度としねぇよ。

そう思ってた時、今まで黙って聞いていた類が、
「司、牧野は許さないかもしれないよっ。」
怒りの感情を隠すことなく、そう言い捨てて、カフェテリアを立ち去った。

その日の夜遅く、タマから携帯に連絡が入る。
どうしても外せねぇ仕事があり、社にいた俺に、
「坊っちゃん、つくしが戻りましたよ。
今日はもう出掛けないようです。」

「わかった。すぐ帰る。」
俺は急いで邸に戻った。

邸の俺らのプライベートルームに近付くと、部屋から明かりが漏れてるのがわかる。
そっと扉を開くと、テレビの前のソファにちょこんと座る牧野の姿。

「牧野。」
俺の声に反応して、振り向いた牧野は、

「あっ、お帰りなさい。」
俺が拍子抜けするぐらい普通に返事を返してきた。

そのまま、牧野の隣に座った俺は、
「おまえとちゃんと話がしてぇ。」
そう言うと、牧野は俺の目を見て少し微笑みながら、
「どうぞ。」と、優しく言った。

もっと、泣いたり、怒ったり、叩いたりしてくるのを予想してた俺は、そんな牧野の態度に拍子抜けしたが、あの日のことを話し始めた。

あの女とは、あの日はじめて二人で会ったこと。
あの女には、特別な感情は持っていないこと。
そして、…………肝心のキスのことも……。
全部正直に話して、もう二度としねぇ。
おまえを傷つけて悪かった。
俺はおまえが一番大切だ。

そんなことをありったけの言葉で牧野に伝えたつもりだ。
終始、牧野は真剣に俺の言葉に耳を傾け、時折頷きながら聞いていた。
そして、俺の話が途切れた頃、
「ありがとう。もう、わかったから。」
そう言って、小さく微笑んだ。

その次の日から、俺たちはいつもの生活に戻った。
以前と変わったことと言えば、どんなに仕事が遅くなっても、俺は邸に戻るようになった。
邸に戻って、こいつと一緒のベッドで眠り、そして次の朝を迎える。
たとえ、体の接触がなくても、牧野の寝顔を見ているだけで充分だった。
これが当たり前のことなのに、なぜ俺は今までそんな風に過ごさなかったのか…………。

牧野といることが、俺にとって安らぎであり、一緒にいればいるほど、愛しくて愛しくて堪らなかった。

今思えば、そうやって過ごした二週間が、俺の人生の中で一番幸せな時だったのかもしれない。

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