あれから2年後。
「牧野さん、配送先のファイルってこれでいいの?」
「はい。こっちが新しいので、それより古いのはこれです。」
「牧野さーん、資料室の分類表は?」
「それは、共有ファイルの『資料室』を開けるとありますよ。」
ここは道明寺HD日本支社、総務課のパソコンの前。
愛しい女が一回りも年上の同僚たちに仕事を教えているのを、不機嫌な顔で見つめる俺。
時刻は午後6時。
今日は定時で終わる予定だろっ。
そう思いながらも、なかなか仕事が終わらない牧野を椅子に座りながら待っている。
「牧野さん…………」
「牧野さーん、……」
「牧野…………」
イライライライラ。
「おいっ!なんで未だに牧野呼びなんだよっ!
こいつはとうの昔に結婚して道明寺つくしになってんだよっ!」
我慢の限界に達した俺がそう叫ぶと、
「道明寺っ。」
と睨むこいつ。
「だから、おまえも道明寺だろ。」
「わかってるから、もう少し待ってて。」
そう言ってかわいい顔で笑いやがって、
こいつは俺の扱いが上手くなりやがった。
牧野と結婚して1年。
想像以上に幸せな毎日。
それに輪をかけて、先日幸せな出来事が舞い降りた。
牧野の妊娠。
このニュースにはババァも牧野の両親も手を取り合って喜んだ。
そして、一番喜んでる俺に、牧野が意外なことを口にした。
「道明寺、あたし仕事辞めようかと思ってるの。」
「あ?」
「ちょっと早いけど、今度の3月末で。」
「どうした?」
今まで、結婚を機に仕事をやめて自由に過ごせと言ってきた俺に、仕事は辞めたくない、と言って頑張ってきた牧野。
邸で暮らしていても、料理や掃除も出来る範囲で自分でやり、仕事も家事も両立してきた。
その分、お互い仕事が遅い日はすれ違うことも多く、思い描いていたような新婚生活は送れなかったけど、それでも俺にとっては充分幸せだった。
そんな時、急に辞めると言い出して、はじめは戸惑った俺も、こいつの話を聞いて胸が熱くなった。
「道明寺ともっと一緒にいたい。
せっかく赤ちゃんが来てくれたんだから、あたしたちも父親と母親になるために、もっと同じ時間を共有したい。」
と。
その後、よくよく聞けば、
仕事を辞めたくなかったのも、少しでも俺のサポートをしたかったから。
会社に残れば何かの役に立つかもしれないと思っていたから。
けど、それで二人の時間が削られるのは本末転倒。
これからは、俺の奥さんとしてサポートしていく。
と、こいつらしい可愛いことを言いやがる。
そんなわけで、本日付でこいつは総務課を退職することになった。
ようやく仕事が終わったらしい。
「道明寺、おまたせ。」
「おう、じゃあ、帰るか。」
「うん。」
コートと鞄を手に持ったこいつが、くるりと総務課の方に向き直り、
「短い間でしたが、お世話になりました。」
そう言って深く頭を下げる。
「お疲れ様。」
「また戻っておいで。」
「赤ちゃんが生まれたら連れてきてね。」
同僚たちに優しい言葉をかけられ、少し涙ぐむこいつの手を取って、
「妻がお世話になりました。」
と一応、夫としての挨拶でもしとく。
そんな俺に、
「支社長、いいパパになってくださいね。」
と声がかかる。
手を繋いだまま総務課のフロアを後にして、
エレベーターに乗り込むと、
隣にたつこいつに、
「おつかれさん、総務課の牧野さん。」
そう言って、甘いキスをした。
Fin

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総務課の牧野さん、お付き合いありがとうございました!
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