総務課の牧野さん 53

総務課の牧野さん
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二人で向かったババァの書斎。
昨日の姿が嘘のようにいつもの姿のババァがデスクに座り待ち構えていた。

ソファにはねーちゃんもいる。

「つくしちゃん、おはよう。
気分はどう?」

「おはようございますっ。
昨日は……ご迷惑おかけしました。」
そう言ってねーちゃんだけでなく、ババァにも頭を下げる牧野。

「俺のいないところで、こいつにあんまり飲ませんなよ。」
俺は一人、かやの外に置かれたことの不満もあってババァにぶつける。

「私が飲ませた訳じゃないわ。
つくしさんが自分で飲んだのよ。」

「飲まなきゃ堪えらんねぇ話でもしたんじゃねーのかよっ。」

「どういう意味?」

「聞いたぞ。
俺と牧野が釣り合わねぇとか、別れてくれとか、卑怯なこと言ったらしいな。」

「道明寺っ!」

言い合いがエスカレートしそうになる俺とババァの会話を止めに入る牧野。

「無理矢理飲まされた訳じゃないし、今思えば、あたしが社長のグラスにワインを注いだかも……。」
と、苦笑いしてやがる。

その時、突然、
……ババァが壊れた。

「プッ……ふふふ。アハハハーーーー。」
部屋に響き渡るババァの笑い声。

「お母様?」
俺たちとねーちゃんが不思議そうに見ているなか、ババァが笑いながら立ち上がり、ソファに近付いてくる。

そして、
「飲まなきゃ耐えられない話を聞いたのは私の方よ。
まさか、息子の初体験の話しを聞かされるなんて思ってなかったわ。」
そう言って笑う。

「あ?」

「つくしさんから聞いたわ。
二人のなれそめ。

どうしても分からなかったのよね~。
私の調べでは、二人は絶対に以前どこかで会っている。そしてその時に司が靴をプレゼントしてるのよ。
だけど、その出逢いがいつだったのか、どんなに調べても分からなかったの。

まさか、そんな出逢いだったとは驚きね。
つくしさんからすべて聞いたわよ。」

ババァのその言葉に、
「道明寺、ほんとっ、ごめん。」
そう呟く牧野。

「つくしさんはどうやらお酒は2杯が限界らしいわね。
これからも気を付けた方がいいわ。
道明寺の一員になればパーティーにも出席する機会があるし、お酒を勧められることもたくさんあるの。
その時は、司がうまくフォローしてあげて。」

ん?
事務的に話す態度はいつものババァなのに、その会話の内容が俺にはプライベートなものに聞こえて仕方がない。

「それと、つくしさん。
昨日のように、理不尽なことを言われても聞き流すこと。」

「……え?」

「これから先、あなたのことを、司とは釣り合わないって理不尽なことを言う人も出てくるわ。
それを真に受けて、昨日みたいに泣いたりしちゃだめよ。
あなたは堂々としていればいいの。
司が選んだ女性なんだから。」

ババァが淡々と話す言葉に、耳を疑いながら固まる俺たち。
その静寂を破ったのは、やっぱり
ねーちゃんだった。

「えええーっ、お母様それって結婚を認めるってことでしょ?
つくしちゃんっ!おめでとう!
家族になれるのねっ!」

そう言って牧野を抱き締めるねーちゃん。

「…………ほんとに、いいのかよ。」
俺はババァに向かってそう聞くと、

「反対すると思ってたのかしら?
こんな絶好の機会を逃すわけないでしょ。」
そう意味深に答えるババァ。

「あ?」

「司、あなた海外ではなんて言われてるか知ってるの?
同姓愛者だと思われてるのよ。
まさかと、私も思ってましたけど、この年で浮いた話しもないあなたのことが心配だったの。

でも、西田からの報告書を読んで安心したわ。
それにしても、つくしさんの前だけにしなさいよ、あのデレッとした顔は。」

「…………ほんとに、いいんだな。」

「しつこい。
…………幸せになりなさい。」

その後はお祭り騒ぎだった。
ねーちゃんが、牧野に似合うウエディングドレスはあんなデザインだとか、結婚式は海外でとか、
沖縄に報告に行きましょうとか、
そんな話しを意外にも嬉しそうに聞いてるババァ。

そして、もっと意外だったのは、男泣きしながら俺に抱きついてくる西田。
離れろといっても、俺とたいした変わらねぇ図体でくっついてきやがる。
そんな俺と西田に、使用人やSPが大爆笑だ。

はじめてかもしれねぇ。
この邸がこんなに笑いに包まれたのは。

昼間から貴重なワインをあけて、邸のすべての人に振る舞われた。
そして、ワインを注ぐのは誰でもない、俺自身。

一通り注ぎ終えて、部屋に戻るとソファで並んで話すババァと牧野の姿。
それを遠目で見ていると、
「坊っちゃん。」
とタマの声。

「おめでとうございます。」

「おう。
まぁ、まだ籍を入れた訳じゃねーからな。
……タマ、あいつ昨日泣いたのか?」
さっきババァが言った言葉が気になる。

「……いえ、泣いていませんよ。
奥様はつくしを試しましたけど、つくしはそれ以上でしたので。」

「……どういう意味だ?」

「昨日奥様は、つくしに、坊っちゃんと別れてくれるなら一つだけ願いを叶える、と言ったんです。

お金や物を要求するようなら、最悪。
結婚させてくれと頼んでくるようなら、普通。
黙って泣くようなら、問題外。

けれど、つくしはどれにも当てはまらなかった。」

そのあとは、昨日あいつがババァに言った話をタマから聞いた。
俺と親子の縁を切ってくれ。
お金や地位や名誉、どれも俺に求めていない。
そして、別れたとしても
…………また巡りあう運命を信じる。

俺が怖くてあいつに聞けなかったこと
『すべてを失っても俺といてくれるか?』
その答えをあいつはババァに叩きつけた。

「道明寺、大丈夫?」
気付くと、俺の目の前に牧野の姿。

「……おう。」

「なんか、凄いことになっちゃったね。」
そう言ってみんなが談笑する部屋をぐるりと見回すこいつ。

「……牧野。」

「ん?」

「ありがとな。」

「……え?」

「おまえを絶対に幸せする。
だから、……一生俺のそばにいろ。」

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