朝、目覚めて熱いシャワーを浴びる。
濡れた髪をタオルでふきながら、冷たい水を一杯飲む。
今日、着ていくシャツとネクタイを決める。
そこまではいつも通りだけど、今日は少し違う。
それは、
俺のベッドにあいつが寝ていること。
昨日、酔い潰れた牧野を抱き上げて自室に戻ってきたあと、ベッドにそのまま寝かせると、
「道明寺、ごめんね。」
そう呟いて、再び眠りに入った牧野。
ごめんね。の意味は定かではないけれど、
どんな意味でも構わない。
俺の気持ちも意志も、何も変わらないから。
ネクタイを選んでいると、寝具の擦れる音がした。
「起きたか?」
そう言いながらベッドに上に膝を乗り上げる。
「……道明寺、……あたし?」
「酔いつぶれて俺がここまで運んだ。」
「…………はぁーーー。」
「なんだよ、そのため息は。」
「道明寺……あーーー、どうしよっ。」
そう言って頭を抱えるこいつ。
「ババァとなに話した?」
「……んー、……道明寺とあたしは釣り合わないとか、別れて欲しいとか、」
「あのクソババァ!」
「あっでも、その後はあたしたちの出逢いは
いつだったのかとか、どんな風に出会ったのかとか、」
「おまえ、それ答えたのか?」
「……酔っててあまり覚えてないんだけど、
たぶん……話した。」
今から5年前の一夜の出逢いをこいつはババァに話したらしい。
それを聞いて、ババァはどんな反応をしたのか。
「道明寺、ごめん。」
「なんでおまえさっきから謝ってんだよ。」
「だってあたし、道明寺のお嫁さんになれないかも。」
そう呟いて下を向くこいつが凶悪にかわいい。
お嫁さん……って、久しぶりに聞いたな。
「なりたくねーのかよ。」
「なりたいっ!」
即答する愛しい女。
「上出来。」
顔を近付けてキスをしようとする俺を、プイっと避けるこいつ。
その態度に至近距離で睨んでやると、
「歯磨きしてないからダメ。」
と口をおさえて言う。
「いーじゃん。」
「ダメ。」
「ったく、ならすぐしてこい。
タマがおまえの必要なもの用意してくれてるから。」
「ん。」
そう言って牧野がバスルームに入っていく。
その直後、部屋の電話が鳴った。
朝食後、ババァの書斎に来るように……と。
いよいよ、判決の時か。
もう、ずっと前から道明寺を捨てる覚悟は出来ている。
こいつと人生を歩みたいと思ってから、その準備はしてきたつもりだ。
だから、ババァがもし反対するなら、親子の縁を切ってもいい。
ただ、…………
地位も名誉もすべて失っても
牧野がそんな俺を好きでいてくれるか。
それだけが、俺を不安にさせる。

にほんブログ村
ランキングに参加しています。応援お願いしまーす⭐︎
コメント