My teacher 16

My teacher
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花火が終わり人々が一斉に帰路につき始めた頃、俺は神社から河川敷までの道をゆっくりと巡回に回る。

教頭から渡された「パトロール中」と書かれたワッペンを腕に巻き歩いていると、白百合学園の生徒はもちろん高校生くらいの年代の奴にはなかなか効果があるようで、
「早く帰れよー。」
と、一声をかけるだけで、素直に従い帰って行く。

1時間ほど巡回に回ると、あたりはすっかり静けさを取り戻し、さっきまで大賑わいだったのが嘘のようだ。

腕時計を見ると、もうすぐ10時になろうとしていた。
もうきっと、牧野は帰っただろう。
でも、少しだけでいい、無性に声が聞きたくて、
俺は携帯を取り出して、歩きながらあいつに電話をかけた。

すると、3コール目で
「もしもしっ?!」
と、予想よりもでけぇ声で牧野が出る。

「俺だけど、おまえ今どこにいる?」

「それが、……あの、ちょっと……今、」

そう言った牧野の後ろから、かすかにサイレン音が聞こえて来た。

「牧野?」

「あっ、救急車きたっ。
道明寺先生、また、あとでかけ直しますっ!」

「おいっ!」

俺の呼びかけも虚しく、プツっと切れた電話。
救急車?
それだけじゃなく、パトカーの音も聞こえたような気がする。

急いでもう一度かけ直すが、あいつは出ない。
何かあったのか。
まさか、牧野が事件に巻き込まれたわけじゃねーよな。

俺はアーケード街がある方向へ駆け出した。
救急車とパトカーのサイレンはかすかに遠くの方で鳴っている。
その音を頼りに向かって行くと、どうやら神社の裏手の方から聞こえてきているようだ。

全力でそっちの方角へ走って行くと、俺の横を救急車が通った。
嫌な予感がしてもう一度電話をかけるが、虚しく呼び出し音が鳴るだけ。
とにかく、サイレン音がしていた辺りを探してみるしかない。

神社の裏手の方へ行くと、一段と暗闇が増す。
チンピラたちが良からぬ事をしようとしていたなら、ここはあまりにも適した場所だ。

あの時、あいつと離れなければ良かった。
一緒に巡回に回ればこんな事にならなかった。

後悔しても遅いが、
最悪な事が頭をよぎり手が震えるのが分かる。

と、その時

向こう側から駆けてくる足音と人影が薄らと見えた。
目を凝らして見ていると、その人影が俺の横を通り過ぎようとして、ようやく見覚えのある牧野が着ていたノースリーブが視界に入る。

咄嗟に、俺はすれ違う人物の腕を掴み、
「牧野っ!」
と叫んだ。

「わぁっ!!」
急に腕を掴まれてパニックになるこいつ。

「俺だ、牧野。」

「道明寺…先生?
もう、…びっくりしたっ!!」

ようやく俺だと認識したこいつは、肩で息をしながら俺を見上げる。その目が暗闇でも潤んでいるのが分かり、俺は動揺する。

「おまえっ、大丈夫か?」

「え?」

「さっきの電話で救急車とか言ってたよな?
それに、パトカーの音も聞こえたから、」

そう言う俺に、牧野はコクコクと頷きながら言った。

「神社の裏道で自転車同士の接触事故があって、うちの生徒じゃないかって連絡が来たの。
だから、見に行ったらうちの生徒ではなかったけど、怪我をしてて救急車を呼んで、」

そこまで聞いて、今まで張り詰めていた緊張が一気に解ける。
そして、思わず俺は牧野を引き寄せて

抱きしめていた。

「ど、道明寺、先生?」

「マジで……震えた。」

「…え?」

「おまえが事件に巻き込まれたんじゃねーかと思って、マジで手が震えた。
久々に全力で走ったぞ、…バカ。」

自分で言って、盛大に恥ずかしさが込み上げた俺は、
腕を緩めて牧野を解放する。
今が夜で良かった。まともに目が合わせられねぇ。

だから、いつもの自分を取り戻すように、少しだけぶっきら棒に
「こんな暗い道、歩いてんじゃねーよ。
遠回りすれば、明るい通りに出るだろ。」
と、牧野に言ってやる。

すると、こいつが言った。
「…だって、…早く……」

「あ?」

「だからっ、早く、道明寺先生に会いたかったからっ!」

俺を見上げて、潤んだ目で真っ直ぐに言うこいつ。
バカ。そんな風に怒りながら言うセリフかよ。
そう思いながらも、愛しくて堪らない。

俺は、もう一度こいつを抱き寄せた。
今度は遠慮なしの力で。

「牧野。」

「…ん?」

「そういう時は俺から行くから、おまえは待ってろ。」

…………

ようやく牧野のマンションに辿り着いたのは11時近かった。
神社の裏手で抱き合っていた俺らの横を、ジョギング中の奴が通りかかって、慌てて身体を離した俺たち。

そうなると、急に恥ずかしさが込み上げてきて、
「か、帰ろうかな。」

「だな。送ってく。」
と、おかしな雰囲気のままマンションまでたどり着いた。

「送ってくれて、ありがとうございました。
じゃあ……。」

「おう、…またな。」

ギクシャクしたまま、牧野がマンションの中へ消えるのを見送った俺は、ゆっくりと歩き始める。

抱きしめた感触がまだ腕に残っている。
出来るなら、あのままあいつの頭を撫でて、頬に触れて、キスをしたかった。

でも、それを思いとどませたのは、何度も聞いたあの言葉。
『今まで誰とも付き合った事がない。』

そんなあいつに、あの場の勢いだけで、したくなかった。
するなら、きちんと「付き合ってから」

だから、日を改めて…と、なんとか我慢したけれど、
いざ牧野と別れると、もうすぐにでも会いたくて堪らない。

牧野のマンションから数十メートルほど歩いたところで、振り返り、牧野の部屋を見上げる。
そして、俺は頭をクシャクシャとかき混ぜた後、自問する。

このまま帰れるのか?

答えはすぐに見つかった。
帰れる訳、ねーだろ。

姉ちゃんに、「タイミングが分からねぇ。」と愚痴ったのは数日前。
それに、姉ちゃんは言った。
「押さずにはいられなくなる時が来るわよ。」

きっと、いや、絶対、今がそれだろう。

俺は牧野のマンションへと駆け戻ると、
3階のあいつの部屋まで猛ダッシュで階段を上った。

そして、一息ついた後、牧野の部屋のベルを鳴らした。

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