総務課の牧野さん 46

総務課の牧野さん

牧野の両親と別れたあと、ねーちゃんと一緒に邸に戻った俺ら。
3人でダイニングで食事をすることになり、一旦着替えるために部屋に戻ってきた俺。
もちろん、牧野も一緒に連れてきた。

「課長から急に会社に戻るように連絡があって、慌てて戻ったらお姉さんがいたの。」
そう話しながら、俺が脱いだスーツの上着とネクタイを受け取るこいつ。
そのままクローゼットの中まで入っていき、

「それからは、すっごい力で抱きしめられて、何がなんだか分からないまま、お姉さんのペースに巻き込まれちゃった。」
そう笑いながら話すこいつの前でワイシャツも脱いでいく。

「あ、あたし、出てるね。」
俺の裸を見て急に恥ずかしくなったのか、そう言ってクローゼットから抜け出そうとする牧野の腕を掴み、壁まで押しつけると、今日一日我慢していたキスをする。

軽く済ますはずなのに、なかなか止められない。
上半身裸の俺の肌に、牧野の手が触れて、更に体を熱くさせる。
「道明寺、お姉さん待ってるよ。」
そんな声も無視して、こいつのブラウスのボタンをはずしていく。

「ダメだって、……道明寺っ。」
困った顔をしながら抵抗してくるその姿が可愛くて、
「最後まではしねーから、少しだけ触らせろ。」
そう言って、結局牧野にとっては『少しだけ』ではないほど、柔らかい膨らみを堪能した。

ダイニングに行くと、すでにねーちゃんが席について、タマと談笑してる。

「二人とも遅いわよ~。
さぁ、食事にしましょ。」

食事が進むなか、俺はねーちゃんに確認したいことを口にした。

「ねーちゃん、なんで総務課に乗り込んだんだよ?」

「ちょっと、その言い方酷いわね。
勘違いしないでよ。
時間が空いたから司の顔でも見ていこうかと思って会社に寄ったら、西田さんが『今日はもうオフィスに戻らない』って言うから、せっかく来たのにこのまま帰るのはつまらないじゃない?」
得意気にそう話す姉貴。

「つまるとかつまらないの問題じゃねえ。」
そう言う俺に、

「それでね、」
全然、人の話なんて聞かず続ける。

「それでね、来たついでに、つくしちゃんの顔でも見ていこうかなぁと思って。
でも、今日がご両親との顔合わせだなんて知らなかったから…………。
課長さんが気を利かせて、つくしちゃんを呼び戻してくれたんだけど、なんか悪いことしたわね。」

「いえ、大丈夫です。
……ビックリはしましたけど。」
そう答える牧野。

ねーちゃんが、メープルに来たいきさつはなんとなく分かったが、それよりも引っ掛かることがある。

「ねーちゃん、なんで牧野のこと知ってた?
俺は名前も課も言ってねぇよな?」

そう聞く俺に、姉貴は言いにくそうに口を開いた。

「司、お母様にもバレてるわよ。」

予想もしてなかった言葉に、固まる俺。
「…………」

「司から付き合ってる人がいるって聞いて、お母様にもそれとなく伝えたら、もう知ってるような感じだったの。
何で知ったかは分からないけど、つくしちゃんの事も相当調べてると思うわ。
私が日本に行くって言ったら、総務課の牧野さんによろしくって。
はじめはなんのことか分からなかったけど、あとでピンときたの。司の彼女だって。」

ねーちゃんの話を聞いて背筋が冷たくなる。
「ババァが俺たちのこと調べてる……。」

反対なのか、賛成なのか。
俺たちの結婚を阻むものは、あとはババァだけ。
俺は反対だろうが、賛成だろうが、構わない。
ババァにプライベートまで指図される筋合いはない。
ただ、牧野には望まれる結婚をさせてやりたい。
こいつの性格なら、ババァが反対すれば相当辛く思うだろう。
それでも、結婚の意志は変わらねぇけど、出来ればなんの不安も抱かせない結婚をさせてやりたい。

「ババァはなんで何も言ってこねぇ?」

「さぁ?
それがお母様の答えなんじゃない?
司っ!そんな怖い顔したらつくしちゃんが不安になるでしょ!
とにかく、今日はつくしちゃんのご両親に認めてもらえた日なんだから、改めて乾杯しましょ!」

いつかはババァと直接対決する日が来ると思っていたけど、先に知られてるということは、
向こうもすでに答えを用意してるはず。
どうせ、ぶつかるなら早い方がいい。

今日の報告も兼ねて、ババァに伝える決心をした俺は、NYとの時差を確認して受話器を取った。

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