「ねーちゃんっ!」
突然のことに、他の客のことも忘れて叫ぶ俺に、
「司、他のお客様に迷惑よ。」
なんてのんきに言いやがる。
「どうしてここに、ねーちゃんがいんだよっ」
「ん、色々とね。
それよりも、司、先にご挨拶させてよ。」
そう言って牧野の両親ににこりと笑いかける姉貴。
姉貴の隣に立つ牧野を見ると「遅くなってごめんね。」と口を動かしている。
俺は牧野の両親に向き直り、
「失礼しました。」と頭を下げたあと
「ねーちゃん、こちら牧野の、いや、つくしさんのご両親。
こっちは俺の姉です。」
そうお互いを紹介すると、いつもの椿スマイルでぐいぐいと責めてくる。
「はじめまして椿です。
お会いできて嬉しいです。
どうしょうもない弟ですけど、つくしちゃんだけには優しいですので、安心してください。」
「おいっ!」
「あら、これ沖縄のお菓子じゃありません?」
俺の突っ込みも無視して、暴走する姉貴。
「ええ、そうです。
道明寺さんにと思って持ってきたので、よろしかったらお姉さんも。」
「えっ、いいんですか?
私、このシークヮーサージュース、好きなんですぅ。
よく、シークヮーサーをグレープフルーツと勘違いしてる人もいますけど、私からしたらほんと、味音痴って怒鳴ってやりたいくらいですよね」
そう言いながら両親の向かえ側に腰を下ろす姉貴。
シークヮーサーをグレープフルーツと勘違いしてるやつ…………まさに俺のことだろ、と頭をグシャグシャかき混ぜる俺に、牧野だけじゃなく両親まで笑っている。
それを見て、
「え?何かありました?」
と綺麗に笑う姉貴。
「別に何でもねーよっ。
ねーちゃん、なんでそこに座ってんだよっ。」
「なんでよっいいじゃない!
司、椅子そこに一つ借りてきて、あんたも座りなさい。」
四人がけのテーブル。
もちろん椅子も4つだったのを、姉貴が座ったから一つ足りねぇ。
俺は仕方なく隣のテーブルから椅子を拝借して、俺らのテーブルに付けると、
「あたしがそこに座るから。」
と牧野が言う。
「いいから、おまえはそこに座れ。」
そう言って姉貴の隣に座らせようとする俺に、
「道明寺が座ったら、体が大きいから通路の邪魔でしょ。」
と、今持ってきた椅子にチョコンと座る牧野。
仕方なく俺は姉貴の隣に座ったが、本来なら俺のとなりにこいつが座って両親と顔合わせするはずだったのに……と心のなかで愚痴る。
牧野に近付きてぇ。
手を握って言ってやりてぇ。
『結婚を許してもらえたぞ』と。
そんな気持ちを抑えきれず、牧野が座る椅子を俺の方に引っ張ってくる。
ギリギリまで俺に近づけて、満足した俺は至近距離まで近付いたこいつの髪を一撫でしてやる。
そんな俺に、
「道明寺っ、」
と真っ赤になって睨む牧野。
我にかえって回りを見ると、ニヤニヤ顔の姉貴と、照れたように下を向く両親の姿。
そして、姉貴が小さく呟いた。
「独占欲のかたまりみたいな男ですから、許してやってください。」
結局、飛行機の時間ギリギリまで姉貴を交えて5人で過ごした俺たち。
意外にも今日初めて会ったはずの両親とも和気あいあいと話が弾み、あっという間に時間が過ぎた。
飛行場まで送ると行った俺たちに、進が迎えに来るから大丈夫だと言い、メープルのロビーで両親と別れた。
別れ際、
「今度は沖縄にいらしてください。」
と『ママ』が俺に言ってくれたのがすげー嬉しくて、
「是非。次はゆっくり沖縄の海を見に行きます。」
と答えた。
両親と別れたあと、牧野ともっと話したいと姉貴がワガママ言いやがって、
「俺は二人で過ごしたいんだよっ。」
と、反論するも、
「あんた、ほんと独占欲のかたまりだわ……」
とか呟きやがって、強引に邸の車に乗せやがった。
車中、
「なんでねーちゃんが牧野と一緒にいたんだよ。」
と聞く俺に、
「あとでゆっくり話してあげるから……、
それよりも、いいお父様とお母様でよかった。
司だけで会いに行ってるって聞いて心臓止まるかと思ったわよっ。
あんたすぐ暴言はいて、暴れるから。」
「するかっ!いくら俺でも、牧野の両親に暴言吐かねーよっ。」
「……そうよね。今日の司見て、あたしも思った。あんた成長したわね。」
どういういきさつでこういうことになったかは知らねぇけど、いつも以上に明るく振る舞って、会話を弾ませてくれた姉貴。
たぶん、俺を心配して頑張ってくれたんだろう。
そのおかげで、姉貴が来てから両親ともたくさん話すことが出来た。
「つくしちゃん、お腹すかない?」
俺のとなりに座る牧野に優しくそう話しかける姉貴に、
俺は悔しいけど言ってやる。
「ねーちゃん、今日はサンキュ。」
「分かればよろしい。」
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