総務課の牧野さん 44

総務課の牧野さん

約束の午後3時。
30分前に、出先からメープルへと向かう車中で携帯がなる。

「どうした?」
そう聞く俺に、

「道明寺っ?」
と焦った声の牧野。

「あのね、昼から有休取るはずだったんだけど、課長から急に呼び出しがかかっちゃって、会社に戻ってるところなのっ!
パパとママにはあたしから話すから、顔合わせは延期にしてもいい?」

突然の話に一瞬固まったが、もうメープルは目と鼻の先。

「わかった。
両親には俺から話しとく。」

「……はぁ?」

「おまえは仕事が終わったら来い。
俺は予定通り、会いに行ってくる。」

「道明寺っ!」

「大丈夫だ。心配すんな。」

まだ何か言いたそうな牧野にそう言って電話を切った俺は、スーツのネクタイをもう一度しめなおした。

メープルの3階にある奥まったカフェ。
ロビーにあるカフェとは違い、商談などにも使われるそこは、落ち着いた雰囲気がビジネスマンにも人気のカフェ。

その窓際の席にキョロキョロと落ち着きのない様子で夫婦が座っているのが目に入った。
たぶん、いや絶対あれだろう。
なぜなら、夫婦の足元には、沖縄独特のイラストが描かれた紙袋が置かれていたから。

俺は二人のもとにゆっくりと近付いていくと、俺の気配を感じたのか、両親も俺の事をじっと見つめてくる。
そして、二人のテーブルの前に俺が立った時、急いで両親も立ち上がった。

「牧野さんでしょうか?」

「は、はいっ。」

「はじめまして、道明寺司です。」
そう言って軽く頭を下げた俺に、

「牧野つくしの父親です。」
と俺よりもだいぶ背の低い牧野の『パパ』が頭を下げた。

あいつはどっち似なんだろう。
そんなことを考えながら見つめる俺に、照れたように「座りましょうか」と『ママ』が言って、なんとなく気まずいまま席につく俺たち。

コーヒーが運ばれてくる間に、牧野が仕事の都合で遅くなることを伝えると、さっき連絡があったと話す両親。

結婚話をどのタイミングで切り出そうかと迷っているうちに、会話も途切れ途切れになり、なかなかうまく話せない。
そんな俺に、突然『ママ』が

「沖縄にはいらしたことありますか?」
と聞いてきた。

「仕事で2度。向こうにリゾートホテルを建設する話があって視察に行きました。」

「そうですか。お仕事でしたら、ゆっくり海を見て過ごすなんて出来なかったでしょう?」

「はい。ほとんど車とホテルの往復でしたので。」

「あのね、今日は道明寺さんにって、沖縄のおいしいお土産持ってきたのよ。
お口に合うか分からないけど…………。」

そう言って足元に置いてあった紙袋を取りだし、その中からいくつかをテーブルに広げる『ママ』

それは、ついこの間沖縄に帰省していた牧野が、お土産だと俺に見せた、ドーナツのようなお菓子やら、柑橘系のお茶、長寿のカステラ、シーザーのキーホルダーまである。
そして、それをひとつひとつ説明してくれる牧野の『ママ』

それを見て、デシャブだな……と自然と笑みが漏れる俺を不思議そうに見る両親。

「この間、牧野、いや、つくしさんからこれと同じものを頂きました。
そして、今聞いた説明と同じことをあいつも言ってたので……。
あの、なんとかって言うそばも作ってくれて食べました。」

「ああっ、ソーキそばねっ。」

「はい、それです。
プッ……味は正直あんまり美味しいとは思えませんでしたけど、『美味しい?美味しい?』って聞いてくるあいつが可愛くて、おかわりもしました。
それに、長寿のお茶はあいつのマンションに行くたびに飲まされてます。長生きしろって。
このみかんみたいなのは、シークヮーサーって言うんですよね?
俺がグレープフルーツだろって言うと、あいつむきになってシークヮーサーだって怒るから自然と覚えたんです。」

さっきまでの気まずい雰囲気が嘘のように自然と言葉が出てくる俺。
あいつのことを考えるだけで、笑みが漏れる。

そんな俺を優しく見つめていた『パパ』が、
「よかった。」
と小さく呟いた。

「え?」

「道明寺さん、つくしは見ての通り平凡な子です。
それに、私たちを見ればわかると思いますけど、何一つあなたと釣り合うような家庭ではありません。
つくしからあなたとお付き合いしていると聞いて、正直戸惑いました。
つくしがあなたに一方的に熱をあげているのではないかと……。
ですが、今、道明寺さんがつくしのことを話す目がとても優しくて…………。
安心しました。……よかった。」
そう言って明らかにほっとした顔をする。

俺の目を見て一生懸命そう話す『パパ』と
その横でコクコクと頷く『ママ』。
そんな二人に今日ここへ来た本当の目的を、誠心誠意、俺のありったけの気持ちで伝えたい。

「お父さん、お母さん。
俺はつくしさんを……愛しています。
今、あいつのこと平凡だとおっしゃいましたけど、そんなことはありません。
俺にとっては……最高の女です。
あいつ以外、ありえません。
好きになったのも、熱をあげてるのも、俺の方です。
そして、やっと先日、プロポーズに首を縦に振ってくれました。

………お父さん、お母さん、
俺の一生をかけて、つくしさんを守ります。
どうか、……つくしさんを俺に下さい。」

人に頭を下げるなんてしてこなかった俺が、今心から欲しいものを得るためにする。
それは、見せかけでもなんでもなく、純粋にあいつを育ててくれた敬意と、その大事なものを引き継ぐ誠意を持って。

「道明寺さん、娘をよろしくお願いします。」

その言葉を聞いて顔をあげると、涙ぐむ両親の姿。

「はい、大切にします。」

そんな会話が終わり、
お互い肩の力が抜けて、ホッと一息つき、コーヒーに手を伸ばしたとき、
カフェの入り口で俺を呼ぶ声がした。

「司ーーっ。」

ん?
司?
牧野はそんな呼び方はしねぇよな。
そう思って振り向く俺の目の前に、信じらんねぇ光景が。

牧野とぴったり寄り添ってニコニコ俺に手を振ってるのは、
間違いなく、

ねーちゃんだった。

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