俺の彼女 21

俺の彼女

道明寺ホールディングスに入ると決めた時から、NY行きは避けては通れない道だと分かっていた。

日本支社は母親が仕切っているけれど、大元であるNY支社は親父が守ってきた城だ。
仕事の8割は海外の取引先となっている今、NYの親父の下で学ばなくちゃならない事が沢山ある。

行けば3年は帰ってこれないだろう。
いや、もしかしたら5年になるかもしれない。

そうなると、今の俺にとって気がかりはただ一つだけ。
あいつのこと。

遠距離恋愛になると言ったらどんな反応をするか。
もうすぐ大学3年になる牧野は進路を決める頃だ。
あいつがどんな進路を選択しても俺たちの関係は変わらないと信じているが、交際が順調なだけに牧野の側にいれないのは俺的にかなり辛い。

ババァが言うように、近い内にあいつにNY行きを打ち明けるべきか…。

いつものように牧野の部屋で過ごす週末。
課題の提出期限が迫っている牧野は、ここ1時間ずっとパソコンと睨めっこ。

そろそろ俺に構ってくれ…とばかりに、パソコンにむかっている牧野に近づき後ろから抱きつく。

「っ道明寺!」

「そろそろ休憩しようぜ。」

「あと10分。」

「待てねぇ。」

「待ってて。」

牧野の肩に顔を乗せパソコンを覗き込むと、英文がズラリと並んでいる。

「手伝ってやろうか?」

「道明寺に手伝ってもらったら、ものの数分で完成しそう。でもそれじゃ意味がないから自分で頑張ってるの。」

「なんの課題だよ。」

「英語の論文。教職課程の必須項目だから落とせないし。」

「教職課程?」

牧野から聞く初めての言葉に、俺はこいつの顔を見つめる。

「ん。あたし英語の先生になるつもり。」

「…マジかよ。」

進路についてそろそろ動き出す頃だとは思っていたが、まさかもう決めていたとは知らなかった。

「長く家庭教師のバイトをやってたでしょ。だから、誰かに何かを教えるって事が楽しくて、そのままそれを仕事に出来たらなぁって。」

そう言って、またカタカタとキーボードを打ち始める牧野を後ろからやんわり抱きしめながら、NY行きを打ち明けるなら今だと感じた俺は、

「なぁ。」
と、牧野に言う。

「俺さ、……NYに行く。」

「ん?…いつ?仕事で?」

「いや。しばらく向こうで勉強してくる事になった。」

俺のその言葉にゆっくり振り向く牧野。
そんなこいつの身体を俺に向けて座らせる。

「牧野、俺、NYの親父の下で勉強してくる。
3年、いやもっとかかるかもしれない。」

「…3年。」

俺がNYに行くと言ったら牧野はどんな顔をするだろうと何度も想像した。
泣いて「行かないで」と言ってくれれば嬉しいし、
平気な顔をしていたら悲しいと思っていたけれど、

実際に、悲しそうなこいつの顔を見ると、嬉しいなんて感情は全く湧き起こらず、ただ無言で抱き寄せる事しか出来ねぇ俺。

「いつ行くの?」

「再来月。新学期からは向こうの大学に通う。」

「…そっかぁ。」

小さく呟く牧野に、
「ごめんな。」
と、謝る。

すると、牧野が辛そうな表情をしながらも、ニコッと笑って俺に聞く。

「謝らないでよ。
だって、それって、道明寺にとっては大事な事なんでしょ?
夢に向かっての一歩なんだよね?」

夢…。
俺にとっての夢は、

「牧野。
俺にとっての夢はおまえだ。」

「え?」

「俺がNYに行く事も、親父の下で勉強する事も、道明寺ホールディングスを継ぐ事も、俺にとっては夢じゃねぇ。
それらは俺にとっては絶対にやらなきゃいけねぇ事で、一つずつ確実にクリアしていく課題だと思ってる。
でも、夢は違う。」

牧野を見つめる俺に
「道明寺?」
と、不思議そうに聞く牧野。
そんなこいつに、ずっと思っていた事を打ち明ける。

「夢って言うのは、努力して努力して勝ち取るものだろ?
俺にとっての夢はおまえとの将来だ。
おまえといつか結婚して家族になりたいと思ってる。
だからその為なら、これから先どんな努力も惜しまない。」

遠距離なんて序の口だ。
この先、どんな困難な状況が起きたとしても、その時の最善を尽くして、

俺はこいつとの未来を夢見て努力する事を誓う。

「牧野。」

「ん?」

「待っててくれるか?」

その俺の言葉に、牧野の目から一粒滴が落ちる。
それを、サッと拭き取ったこいつは、
いつもの俺が好きな笑顔で

「当たり前でしょ。」
と、自信満々に答えた。

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次話で最終話となります。どうぞお楽しみに〜♡

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