俺の彼女 20

俺の彼女

牧野が一人暮らしを始めたら、必然的に俺の外泊が増えた。

牧野の父親から
「同棲まがいのことは許さない」
と苦言を刺されているから我慢はしているが、どうしても週末に牧野の部屋で過ごすと、その流れで帰りが朝方になる。
平日は相変わらずバイトで忙しいあいつと、唯一週末だけが2人きりでゆっくり過ごせる時間。

今日も牧野の部屋から朝帰りをした俺は、エントランスでばったりババァに出くわした。
会社に出勤するババァが睨みを効かせて俺に言う。

「午後からの会議の準備は大丈夫なのかしら?」

「ああ。」

今日は重役会議が午後からある。
先月の会議で話題になった東南アジア圏での業績の低迷について、今日は俺が重役たちの前でプレゼンする予定になっている。

資料は纏めた。
何度も練り直し、NYにいる親父にも相談した。
だけど、ババァを納得させる物になったかどうか。

出勤するババァを見送り、俺は急いで自室に戻り午後からの出勤に備えて準備に取りかかった。

……………

「司様、そろそろお時間です。」

「ああ、分かってる。」

会議直前になり、さすがの俺も緊張してきた。
ババァの仕事の補佐をするようになって1年。
会議に同席する事はあっても、自ら考えを纏めて発表するのは今回が初めてだ。

一年分の成果をここでババァから試されているのは百も承知。だから、緊張する気持ちを抑えてネクタイを締め直し、会議室へと向かった。

会議は2時間ほどで終わった。
重役たちの反応は悪くなかったと思う。
ただ、ババァの表情は読めなかった。

社長室の扉をノックすると、中から「どうぞ。」とババァの声が聞こえ、俺はゆっくり部屋へと足を踏み入れる。
会議室から戻ったババァはオフィスのソファに座っていた。

「そこに座って。」
正面を指してババァが言う。

それに従うように俺がソファに座ると同時に、
「あの資料を纏めるのにどれくらいかかったの?」
と、聞くババァ。

確か、前回の会議は1ヶ月前だった。
それから、今日のプレゼンまでに殆どの時間を費やした。
仕事の早い奴なら2週間もあれば仕上がるかもしれない。
けれど、
「3週間以上はかかった。」
と、正直に話す俺に、

ババァは長い沈黙の後、大きく頷いて言った。
「よく、出来ていたわ。」

予想もしないババァからの褒めの言葉に、
「…あ?」
と、思わず聞き返す俺。

「聞こえなかったのかしら?
よく、まとめ上げていて、初めてにしてはよく出来ていたと思うわ。」

「マジかよ…。」

「あなたって人は社長に向かって、なんて口のききかた。
あれを作るのに1週間なんて言ったらあなたが作成したのを疑っていたし、2週間と言ったら残りの2週間は何をやっていたの?と聞くつもりでしたけど、期限ギリギリまで粘ってあれだけのものを作り上げたという所は、褒めてもいいと思うわ。」

ババァから面と向かって褒められるのは初めてかもしれない。
それが仕事の事なら尚更嬉しい。

嬉しさを噛み締めるように無言でババァに頭を下げる俺に、
ババァはソファに背中を預けながら言った。

「そろそろNYに行く準備は出来ているわよね?」

「……。」

「牧野さんには話してあるの?」

「いや…。」

「短くて3年、長くて5年は戻らない事、そろそろ話しておくべきじゃない?」

「ああ、分かってる。」

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

ランキングに参加しています。応援お願いしまーす⭐︎

コメント

タイトルとURLをコピーしました