道明寺との関係がオープンになることに不安があったけれど、実際にそうなってみれば、案外周囲の反応は穏やかで、
「やっぱりあの二人付き合ってたんだ。」
「高校の頃から両思いだったらしいよ。」
と、風当たりは予想以上に良好。
それには、道明寺の態度も関係しているかもしれない。
キャンパス内では今まで通り程よい距離感を保ってくれているし、過剰なスキンシップもしない。
付き合っているけれど、どこかドライな関係に見えるあたしたちに、道明寺のファンたちも大人しく見守るしかないのだろう。
そんなあたしたちに思わぬ出来事がやってきた。
パパの転勤により、来月からあたしの一人暮らしが決まったのだ。
優紀と久しぶりに会った時にその事を話すと、
「へぇー、道明寺さん喜ぶね!」
と、ニンマリ笑う。
「道明寺が?」
「当たり前でしょ!お互い実家暮らしなんだから、道明寺さんも苦労してると思うわよ〜。」
「苦労…」
優紀が言う意味がいまいち理解できないあたしに、はぁーとため息をつきながら、あのね、と小声で話し始めた。
「実家暮らしの若い二人が苦労する事って言ったら1つしかないでしょ!
毎回毎回ホテルに行くのもお金がかかるし、あー、その点は道明寺さんは大丈夫だと思うけど、それでも、外泊するのに親の目もあるし、時間に制限が有ればゆっくり寛げないし…。」
そこまで聞いて、ようやく優紀が言いたい事が理解できたあたしは、自分でも分かるほど顔が赤くなっている。
「道明寺さんとはどうしてるの?」
「ど、ど、どうって?」
「だからっ、いつもは二人で過ごす時、どうしてるの?」
道明寺とそういう関係になってからまだ日が浅い。
回数で言えば片手で足りるほど。
「メープルホテルの道明寺の部屋。
でも、外泊は…。」
優紀が言うように親の目が気になってさすがに外泊は断っていた。
「そうでしょ?でも、これからは、親の目を気にしたり余計な嘘をついたり、そういう心配はナシ。
喜ぶと思うなー道明寺さん。」
昼間、そんな話を優紀とした後、
その夜、道明寺に伝えた。
「パパが転勤するの。」
「あ?マジかよ!」
と、驚いた声。
「一人暮らしすることになったから。」
その言葉に、
「……んー。」
と、考え込むような答えの道明寺。
正直、優紀と話した後だから、道明寺は喜んでくれると思っていた。
確かに、お互い実家暮らしのあたしたちは、2人きりになる時間が極端に少ない。
大学が終わった後も、道明寺は会社の手伝いで夜遅くまでオフィスにいるし、あたしもバイトで忙しい。
普通のカップルがしているようなデートもほとんどせず、唯一出来ているのは毎夜の電話だけ。
だから、一人暮らしをすれば二人の時間は増える。
それなのに、
「大学の寮とか空いてるんじゃねぇ?」
と、道明寺からは予想外の言葉が出た。
「寮?」
「ああ。
キャンパスの西側にあるだろ。」
キャンパスのすぐ側に英徳大のお洒落な寮はある。
けれど、そこは他の大学同様、女子寮と男子寮に分かれた自由な空間とは言えない。
そこに入れと提案してくる道明寺に、あたしは思わず本音が漏れる。
「あたしが一人暮らしするっていうの、嬉しくないの?」
「ん?」
「だって…、一人暮らしすれば、好きな時に会いに来れるし、今までよりも一緒にいる時間が増えるでしょ。」
キャンパスではドライな関係を保っている反面、道明寺不足に陥っているあたしも存在する。
そんなあたしに、道明寺は甘い声で言う。
「嬉しくない訳ねーじゃん。
おまえに会いたい時に気兼ねなく行けるのは嬉しいけどよ、それよりも心配なんだよ。」
「心配?何が?」
「おまえ、バイトが終わる時間もおせーし、家族と離れて暮らすなんて初めてじゃん。
嬉しいよりも心配が勝って喜べねぇ。」
道明寺のその言葉が、あたしの耳をくすぐる。
「…そっか。よかった。」
「あ?何が良かったんだよ。」
「一緒にいたいって思ってるの、あたしだけかと思っちゃった。」
面と向かっては絶対に言えないこんな台詞も、電話なら、小声だけど、…言える。
すると、道明寺がクスッと笑った後言った。
「牧野、俺はおまえ以上に、二人きりでいたいって思ってる。
っつーか、それ以上言ったら眠れなくなるからやめろ。」
「…え?」
「無自覚で煽るなバカ。」
道明寺の甘い声が耳に残ってあたしも眠れそうにない。

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