大勢の学生の前で俺のことを『道明寺』と呼び、邸に行ってもいいかと親密さを自らアピールした牧野は、俺の目から見ても相当に頑張った。
その勇気がめちゃくちゃ可愛くて、今まで待った甲斐があったと嬉しさが込み上げる。
牧野の講義か終わるのを待って、予定通り邸に向かった俺らは、俺の部屋のソファに並んで座り、牧野が言う『見るはずだったDVD』を今まさにこれから見ようとリモコンのボタンを押したとき、
抜群のタイミングで部屋のドアがノックされ、こっちの返事なんて聞く気もねぇ奴等が乱入してきやがった。
「よっ、お二人さん。」
「堂々、交際宣言したから早速ラブラブしてるって訳か?」
分かってるなら邪魔するなっ、とこの乱入してきたバカお祭りコンビに声を大にして言ってやりてぇ。
「おまえら何しに来たんだよっ。」
「おいおい司~、冷たいこと言うなよ。
せっかくおまえらがこれから堂々と交際出来ることになったんだから、お祝いぐらいさせてくれよ。」
「いらねぇ、帰れ。」
「牧野、おまえに特別にケーキ買ってきてやったぞ。
食うだろ?」
そう言って総二郎がケーキの箱を牧野に掲げて見せると、この女は釣られねぇ訳がない。
「食べる。」
即答しやがる牧野を横目でギロッと睨んでやると、
「DVDはいつでも見れるから、ね?」
と、論点ずれまくりのこいつ。
そうじゃねーだろ。
DVDなんて関係ねぇ。
俺はおまえと二人きりで過ごしてぇんだよ。
そんな男の機微も欲望もこいつには届くはずもなく、総二郎に渡されたケーキの皿を嬉しそうに受け取る牧野。
そんなこいつに、総二郎とあきらの目を盗んで、
あー、と俺は口を開けてやる。
ん?と最初は戸惑ってた牧野も、意図を理解したのか顔を赤くしてクリームが乗ったフォークを俺の口に入れた。
甘いケーキは俺の好みじゃねーけど、
でもこの食い方なら、悪くねぇ。
散々俺の部屋で寛いだお祭りコンビは、タマに誘われるがまま夕食まで食いやがり、結局帰ると言い出したのは8時過ぎ。
やっとここから牧野と二人きりになれると思ったのに、
「あたしもそろそろ。」
と、こいつまで立ち上がる。
引き留めたいのは山々だが、実家暮らしに加え、この間俺の招いた誤解から3日も外泊させた手前、強く引き留めることも出来ず渋々俺の車で牧野の家まで送ることにした。
あっという間に実家の前につき、車から降りたこいつを正面から見つめる。
そういや、今日はキスさえもしてねぇ。
出来るなら、軽く触れるだけでもしたい。
けど、ここは実家の前だ。
牧野はそういうことに結構神経質で、実家の近くでは車の中でも抵抗があるらしい。
キスは無理でも、せめてハグくらい……、
そう思い、ゆっくりと牧野の体を引き寄せると俺の腕の中にしまいこんだ。
今日のこいつは意外とおとなしく、されるがまま黙っている。
それをいいことに、更に強く抱きしめた俺は、何気なく実家の方に目を向けた。
そして、気付いた。
「なぁ、誰もいねーの?」
「ん?」
抱きしめられたまま俺を見上げて答える牧野。
「おまえの家、真っ暗じゃん。」
「あー、うん、今日は誰もいないの。」
「どこいった?」
確か、もう9時は過ぎている。
この時間に誰もいないのは珍しい。
すると、こいつの口から思いがけない言葉が出てきた。
「パパとママは会社の旅行で家族同伴してる。
進は友達と2泊で山登りだって。」
俺を見上げてそう答える牧野と、そんな牧野を至近距離で見つめ返す俺。
「なぁ、ってことは今日は誰も帰ってこねーってことか?」
「……そうだけど、」
「早く言えよっ!」
「はぁ?」
突然怒鳴った俺を不思議そうに見つめる牧野に俺は言った。
「誰もいねーなら、……いいだろ?
おまえのこと、帰したくねぇ。」
「えっ……、」
「……ダメか?」
俺の言葉にゆっくりと下を向くこいつ。
そして、そのあと小さくコクコクと頷いた。
「……マジ?いいのか?」
……コクン。
「このままメープルでいいか?」
……コクン。
「行くぞ。」
こいつにだけ聞こえるようにそう囁くと、牧野の手を握り、さっき降りたばかりの車に乗り込んだ。

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