俺の彼女 10

俺の彼女

「牧野っ!!」

傷付いた顔で俺の前から立ち去った牧野を呼び止めながらも、現実に何が起こったのかすぐに理解できなかった。

そんな俺を現実に戻したのは、
「司?」
振り向きながら不思議そうにそう呟く香苗の声だった。

「……おまえ、どうしてここに?」

「雨でキャンプ中止になったの。
それより、……牧野さん……」

「この服は?」

「あー、これ?
牧野さんが校内で貸してくれたの。
……もしかして、司、」

「チッ……、ハァ…………」

自分のバカさ加減に思わず舌打ちとため息が漏れる。
浮気を疑われるほど信用されてねぇとは思わねーけど、どんな事情があれ誤解を招く決定的な場面を見られたことに変わりはない。

ポケットから携帯を取り出しながら、牧野が逃げた道を駆け出した俺。
頭上からは相変わらず雨が降り注ぐ。
そんな空を見上げながら、
『こんなはずじゃねーんだよ。』
と、甘い夜を期待してたさっきまでの自分に愚痴った。


「つくし、いつまでそうしてるつもり?」

飽きれ顔であたしを見つめる優紀の目が痛い。

優紀の家に転がり込んで2日目。
道明寺邸を飛び出して、結局はここに逃げ込んだ。

「道明寺さん、心配してるんじゃない?」

分かってる。
ここ2日で道明寺からの着信は見るのも恐ろしいほど積み重なっている。
でも、どうしても電話に出る勇気がでないのだ。

『別れよう。』
『香苗と付き合うことになった。』

その言葉を聞いたら、あたしはどうなっちゃうんだろう。
自分で自分が分からない。
でも、きっとヘラヘラ笑うんだろうな。

『分かったよ。あたしは大丈夫。
幸せにね。』

そんな嘘を口から並べながら、一人で泣くんだろうな。

そんなバカな自分を想像してると、
「つくし、顔がヤバイよ。」
と、呟く優紀。

「え?」

「さっきから、泣きそうだったり、怒ったり、時々ヘラヘラ笑ったり、見てるこっちが鳥肌たつわよっ。」

「……ごめん。」

心の葛藤が顔に出ていたらしい。

「優紀、……迷惑かけてごめんね。
明日には出ていくから。」

「いいの、いいの。
うちのことは心配しないで。
ようやく一人暮らし始めたけど、やっぱり寂しいのよね。
だから、つくしが来てくれて嬉しい。
いつまででもいてもいいわよ。」

進学よりも就職を選んだ優紀。
地元の信用金庫で働き始め、一人暮らしも始めた。

「優紀は彼氏とうまくいってるの?」

「私?
んーまぁー、うまく行くっていうのがどういうことか分かんないけど、私なりにうまくやってる。」

「どういう意味?」

「そもそも、私の彼氏は遊び人だから。
女の子と二人で食事にいくなんて当たり前だし。
ダメ男を好きになる癖は直ってないみたい。」

そう言って笑う優紀。

「それでいいの?」

「……うん、いいの。
だって好きなんだもん。
彼も好きだって言ってくれるし、今のところ彼女は私だけみたいだから。」

「…………そっか。」

「つくし、『好き』って気持ちは隠しても隠せないって私は思う。
道明寺さんから感じない?
つくしを好きだっていうパワー。」

道明寺があたしを好きだっていうパワー。

感じてる。
言葉だけじゃない。
いつだって全身で好きだってことを表してくれる道明寺。
それがあたしを安心させ包んでくれる。

それなのに、あたしは…………。
周りに嘘をつき、道明寺を好きだという気持ちを隠してきた自分。
そんなあたしは道明寺を安心させ包み込むことが出来ていたのだろうか。

「つくし、道明寺さんがほんとに浮気したと思ってる?」

「…………。」

「あの人、そんなことしないでしょ。
それはつくしが一番分かってるはず。
きちんと道明寺さんの話を聞いて、
そして、きちんと自分の気持ちもぶつけてみたら?」

あたしに洗い立てのパジャマを手渡しならそう言った優紀は、
「私はほんと、いつまででもつくしにここにいて欲しいと思ってるから。」

そう言ってヒラヒラと手を振り、寝室へと消えていった。

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