俺の彼女 7

俺の彼女

頭の中が負のループから抜け出せないあたしに、追い討ちをかけるように嫌な噂が耳に入ってくる。

『道明寺と香苗さんが付き合っている。』

確かに、何も知らない人から見れば、仲良くカップルで勉強してるようにしか見えない二人。
そんな噂が流れるのはしょうがない。
それに、今まで散々、あたしたちの仲を秘密にしてきた手前、今さら道明寺はあたしの彼氏だ、なんて言いたくても言えない。

「なんか、煮詰まってる?」

キャンパスのひとけの少ない場所にあるベンチに座ってぼぉーっとしていると、いつの間にか側まで来ていた花沢類。

「花沢類。どうしたのこんなところで。」

「それはこっちの台詞。
この辺は静かで昼寝するにはいいんだけど、今日は難しい顔した先客がいたからさ。」
と、あたしの顔を見て苦笑いをする。

「牧野、なんか考え事?」

「ううん。そうじゃない。」

「じゃあ、心配事だ。」

そう言って笑う花沢類はきっとあたしの心の中を見抜いてる。

「…………花沢類……あたしね、」

この心の中のモヤモヤを花沢類に聞いてもらおうか……、
そう思って口を開いた時、
あたしたちの後ろから聞き覚えのある声がした。

「おまえら、何してんだよ。」

不機嫌そうなその声に振り向くと、そこには見慣れた二人の姿。

「司と香苗こそ、こんなところで何?」

「あたしたち、これからピアノのミニコンサートを聞きにいくところだったの。
あたしの友達が出演するのよ。」

そう言ってキャンパス内にある演芸ホールを指す香苗さん。
道明寺はなぜか不機嫌なままで、小さく
「電話したんだぞ。」
と、あたしと花沢類に言う。

「二人も一緒に行かない?
類はピアノなら興味あるでしょ?」

そう言ってニコッと笑う香苗さんは相変わらず可愛い。
トレードマークのショートパンツは今日は封印しているが、逆に細身のダメージデニムが色っぽさを増してため息が漏れるほど。

そんな香苗さんを見て、あたしは顔が熱くなる。
なぜなら、今日のあたしの服装は、似合いもしないのにショートパンツだから。
香苗さんのように大胆な短さではないけれど、それでも膝が全部見えるほどの長さ。

無意識に……いや、香苗さんを意識しまくって、
こんなあたしらしくない服装をしてる自分が、顔から火が出るほど恥ずかしい。

「牧野はどうする?」

「え?」

「ピアノ聞きにいく?」

あたし顔を覗き込むようにして聞いてくる花沢類は、あたしの返事を聞く前に、
「行こう。心配事が解決するかもしれないしね。」
と、また笑って歩き出した。

ホールにつくと結構客席は埋まっていた。
後ろの方の空いてる場所に並んで座るあたしたち。
道明寺がスマートな仕草で先に香苗さんを座らせたから、自然と香苗さん、道明寺、あたし、花沢類の順。
ついこの間、ここで道明寺と密会して濃厚なキスをした記憶が頭をよぎり顔が熱くなる。

そんなふしだらな考えもコンサートが始まるとすぐに頭から消え去った。
本格的なピアノの音色を聴いたのは初めて。
その美しさに、クラッシックに全く疎いあたしでも引き込まれるほどすばらしい。

夢中で聞いているあたしの横で、相変わらず花沢類は熟睡。
そして、香苗さんは時々道明寺に何かを耳打ちして楽しそうにしている。

そんな二人が気になり出すと、さっきまであんなに引き込まれていたはずのピアノの音も耳に入ってこず、肌寒いほどのクーラーの効きに、ショートパンツで着たことを改めて後悔したあたし。

手元にあるプログラムに目を落とすと、残りあと3曲。
この曲が終わったら、
「先に帰るね。」そう言って出ようか…………、

そう思った時、
突然道明寺が上半身を少しずらし着ている上着を脱ぎ始めた。
そして、何も言わずあたしの膝にその上着をかけた。

驚いて、思わず道明寺の顔を凝視するあたしに、
「寒いんだろ?掛けてろ。」
そう小さく呟いて、

その上着の下に隠れたあたしの手を強く握った。

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