総務課の牧野さん 40

総務課の牧野さん

「なんで泣いてんだよっ。」

その言葉に、堰を切ったように溢れ出すこいつの涙。

「牧野っ、…………、
悪かった。突然おまえを邸に連れていったりして悪かった。」

「……ううん、……そうじゃないっ。」

「……じゃあ、なんで泣く?」
そう言って両頬を優しく包み込みながら聞いてやると、さっきよりも強く俺に抱き付いてきて、
消え入りそうなほど小さな声で言った。

「道明寺……好き。」
付き合い始めに言われたことはあったけど、俺が頼まないとなかなか言わねぇその台詞を、こいつから言ってくる。

しかも何度も。
「好き。あんたが好きなの。」

「わかってるよ。」

そんな言葉を何度も繰り返しながら、こいつの涙が落ち着くまで玄関で抱きあった。

リビングのソファに座り、じっと牧野のことを見つめる俺。
あれから涙が落ち着いた牧野を連れて部屋に入り、牧野が淹れたお茶を飲みながら二人でソファに座り込んだ。

「…………。」

「何?見すぎ。」
じっと見つめる俺に、目線をそらしながらそう言うこいつ。

「なんで泣いた?」

「だから、もういいの。」

「よくねーだろ、気になって寝れねぇ。」

「たいしたことじゃないから。」

「おまえはそんな理由で泣くような女か?」
いつだって、負けん気が強くて、俺に弱いところを見せねぇこいつが、理由もなく泣くとは思えねぇ。

「なぁ、……俺は頼りねーか?」
ついそんな愚痴が漏れる。

「違うっ。…………なんかね、…………
道明寺がすごく遠く感じたの。」

「あ?」

「あんたって、想像以上にすごい人だったのかも。あんなお屋敷に住んでいて、使用人さんたちに囲まれて、坊っちゃんなんて呼ばれてて。
よく考えたら、話すことさえも許されないくらいすごい人なんだよね。
そんな風に思ったら、色々変なことまで考えちゃって、……悲しくなったの。」

「変なこと?」

「いや、それは別にいいんだけどっ。」

「言えよ。全部話せ。」
少しだけ強めに言ってやる。

「……いつまでこうしてあんたと一緒にいられるんだろう……とか。
いつまでこうしてあたしの手を握ってくれるんだろう……とか。」

車で黙り混むこいつの手を、マンションまでの帰り道、そっと握り続けてきた。

また目にじわっと涙を浮かべるこいつに、
俺は今日感じたことをそのまま口にした。

「牧野、俺も今日泣きそうになった。」

「え?」

「おまえが邸で過ごしてる間、ずっとそうだった。
でも、理由はおまえとは違う。
真逆だ。
俺の生活空間におまえがいることがすげー嬉しかったし、違和感はひとつもなかった。
おまえが今まで以上に近く感じて、俺はすげー泣きそうになった。
……なぁ、牧野、俺はおまえにとってどんな存在だ?
今日見てきたくだらねぇことは全部忘れて、一人の男として見ろよ。」

「…………。」
黙ったまま見つめあう俺たち。

「くだらなくない。」

「あ?」

「今日見てきたことはくだらなくなんかないよ。
あんな風に皆に愛されて暮らしてきたから、今の道明寺があるんでしょ?
切り離して考えることなんて出来ないけど、
あたしは道明寺を一人の男の人として見てるよ。
……あたしの気持ちはさっき言ったでしょ。」
そう言ってなぜか赤くなって俯くこいつ。

「あたし、もう引き返せないくらいあんたが好きなの。
離れるなんて涙が出るほど苦しいの。」

普段は全く言わねぇくせに、大事なときには俺の目を見てきちんと言ってくれるこいつ。
その姿が凶悪にかわいい。

「牧野、……愛してる。」

「ん、あたしも。」

いつもなら重なる唇。
今だって、すぐにでもそうしたい。
けど、今このチャンスにきちんとこいつに伝えておきたい。

「牧野、俺と結婚してくれ。」

「……へぇ?」
大事なプロポーズなのに、なんつー声出してんだよおまえは。

「俺と結婚するぞ。」

「…………。」

「嫌か?」

「嫌……じゃないけど、」

「よし。じゃあ、決まりだな。」

「ちょっと、ちょっと、待ってよ。」

「何だよっ、」

「いや、だって、そんな急に言われても心の準備が。」

「おまえさ、急にじゃねーだろ?
前にもおまえの親に会わせろって言ったよな?
それに、誕生日にはリングも見に行こうって言ってたよな?
結局、おまえがそんな高いものはいらねぇって駄々こねてネックレスにしたけどよ、
俺は今すぐにでもおまえと結婚してーんだよ。
おまえの心の準備っつーのはどれぐらいかかるんだよっ。」

「そんなっ、だって、」

「少しだけ時間やる。
俺に気持ちよくさせられてる間に考えろ。」

今日一日我慢していた餌に飛び付く俺。
たぶん文句を言ってるだろうこいつの口にキスをして、その言葉ものみこんでいく。

こいつを抱くときはいつもそう。
暴れそうになる感情を必死に抑えて、大事に大切にこの手から離れないように、俺のありったけの想いを込める。

大事に大切に、この手から離れないように……
俺はそうやって、これから俺の一生をかけてこいつを守り続ける。

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