ビターな二人 24

ビターな二人

その後、ママと二人でパパの帰りを待っていたけれど、時計の針が23時を過ぎてもパパは帰ってきていない。

途中、ママに電話があり、
「終わらせなきゃなんねぇ仕事があって、すこし遅くなる。」
と、連絡がきたが、果たして今日中に帰ってくるのだろうか。

パパの友達の美作さんが貸してくれたマンション。
すごくおしゃれで豪華。
まるでテレビドラマの世界。

でも、パパと暮らすようになったら、こんな暮らしが当たり前になるのかな。
そんな事を思いながら、目の前のソファで眠ってしまったママを見つめる。

すっぴんのつるんとした顔は童顔で、どの友達のママよりも若く見られ、
髪を結んでワンピースなんか着せれば、20代だと間違われるほど。
派手さもなく、どこにでもいそうな普通のママだけど、
あのパパが一途に想いを寄せるただ唯一の女なんだと思うと、なぜか可笑しくなってクスッと笑える。
二人がどんな風に出会って、どんな風に恋に落ちたのか…。

部屋の壁に取り付けられたモニターからピピっと音が鳴り、「入り口が解除されました」と機械音が聞こえた。
それから数分後、マンションの玄関が開く音がし、俺は急いで玄関へと向かう。

ジーンズに大きめの白いシャツを着たパパが登場。
一気に部屋が明るくなる。

「悪りぃ、遅くなった。」

「待ちくたびれたよ。」

「ママは?」
パパのその言葉に、視線だけをリビングに移す。

ソファで眠るママを見て、優しく笑ったパパは、
「さすがに遅過ぎたよな。」
と、小さく呟いた後、ママの側に腰を下ろす。

「明日の学校の準備は?」

「出来てる。バスの時間も調べてあるから大丈夫。」

「送ってやるぞ。」

「いいよ、パパも仕事だろ。
いつまでここにいるかは分からないけど、ママやパパも仕事があるから自分の事は自分でするよ。」

そう言うと、パパは目を細めて笑う。
その仕草が様になっていて、嫌味なくらいかっこいい。

時計を見ると、もうすぐ12時だ。
「そろそろ寝るよ。」
パパの顔も見れたし、明日も早く出るから…そう思って、ママを起こそうとソファに近づくと、

そんな俺にパパがシィーっと人差し指を立てる。

そして、パパがゆっくりと立ち上がりママの背中に手を差し入れる。
壊物を扱うかのようにそっとママの身体を持ち上げ、愛おしそうに見つめるその姿は、もう俺に隠す事なく愛情ダダ漏れだ。

そんなパパに俺は言う。
「ママがさ、パパと一緒に暮らせるかって俺に聞いてきた。」

すると、黙ったまま奥のベッドルームへ入って行くパパ。
そして、ママをベッドに寝かせた後、俺に聞く。

「それで?おまえの答えは?」

「俺は、ママと同じ考えだよ。
ママは、」

そこまで言うと、パパが
「幸、」
と、俺に言う。

そして、
「ママと幸の答えは同じなんだな?
じゃあ、続きはママの口から直接聞く。」
と言って俺の頭を優しく撫でる。

少しだけ不安そうなパパの顔。
そんな顔を見ると、今すぐにでも
「一緒に暮らしたいよ」
と伝えたいけれど、

それは、やっぱりママに任せるよ。
ママから伝えて、パパを喜ばせてあげて。

…………

寝返りをうち、いつもとは違うベッドの感触に、次第に覚醒していく。

あぁ、そうだここは美作さんのマンションだった。

そう気付くのと同時に、道明寺の帰りを待ちながら眠ってしまった事を思い出す。
目を開けると部屋は薄暗い。
今は何時なのか、道明寺が帰ってきたのかもわからないまま起き上がると、ベッドルームを出てリビングへと入る。

すると、スタンドライトが灯されたリビングのソファに、道明寺が横になって眠っているのが見えた。

側まで近付くと、そっと肩に手を触れる。
すると、ピクっと動いた後、道明寺が目を開けた。

「…おう、どうした?」

「帰ってたの?ごめんね、寝ちゃって。」

「俺こそ、遅くなってごめん。」
そう言うと、ソファの上に起き上がる道明寺。

「こんな所に寝てないで、ベッドで寝たら?」

「ベッドは2つしかねーし、両方とも使われてるからよ。」
そう拗ねたように言う道明寺がなんだか可愛くて、

「いつもの強引さはどこに行ったのよ。」
と、少し乱れた道明寺の髪を手櫛で直してあげる。

すると、
「牧野。」
と、真面目な顔であたしを呼ぶこの人。

「ん?」

「明日まで待つつもりだったけどよ、今おまえの顔を見たら、どうしても聞きたくなった。」

「…なに?」

「幸と話したんだろ?
これからのこと、答えは出たか?」

あたしも明日には道明寺にきちんと伝えようと思っていた。
14年前には言えなかったこの言葉を。

「道明寺、……
あたしと結婚して、一緒に暮らしてください。」

その瞬間、あたしの腕は道明寺に強く引かれ、ソファの隣に座らされる。
そして、あたしの頭の後ろに手が置かれ、引き寄せられる。

強引だけど、優しいキス。

あたしがこの人のキスに弱いのを知っているかのように、何度も確かめるように唇を甘噛みされ、舌が口内を愛撫する。

力が抜け始めたあたしの身体はあっという間にソファに押し倒され、道明寺の身体で拘束される。
このまま身を委ねれば、心地よい時間が待っているのは分かっているけれど、

あたしは慌てて小声で抗議する。
「ねぇっ、幸がいるんだからっ!」

「…分かってる。」
さすがに、道明寺もそれ以上はまずいと思っているのだろう。

倒したあたしの身体を抱き起こし、もう一度軽くチュッとキスをした後、すごく嬉しそうに言った。

「家族3人で暮らす家を探さなきゃな。」

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