季節は師走。
牧野とも順調に交際が進み、公私ともに充実した毎日。
今月は恋人たちのメインイベントであるクリスマスに加え、あいつの誕生日もある。
こんな風に世の中の流れにのってクリスマスを楽しみにしたり、誰かの誕生日を、どこでどんな風に祝おうかと考えたりすることは、生まれて初めての経験だ。
あいつは、特別なことはしなくていいと言っていたけれど、せめて二人でゆっくり食事をして、あいつが喜ぶプレゼントを渡したい。
そんなことを思いながら、邸の部屋でネクタイを緩めながらソファにドカッと座り込むと、突然誰かがものすごい勢いで部屋に入ってきた。
「司~!帰ってる?」
「おーっ!!……ねーちゃんっ!」
「なによっ、そんな大声出して。」
「なによっ、じゃねーよ。
ビックリするだろーが。」
「そう?」
「……いつ帰ってきたんだよ。」
「今日のお昼。1週間くらい日本にいるつもり~。食事できてるから、早くあんたも来なさい。」
俺が日本に帰国してから初めて会うっつーのに、久しぶりの一言もねーのかよ。
相変わらず、この姉貴には勝てそうにねえ。
しぶしぶ着替えてダイニングに行くと、姉貴とタマが楽しそうに話している。
「おっ、やっと来たわね。
じゃあ、食べ始めましょ。」
姉貴のその言葉で、次々と料理が運ばれてくる。
それを食いながら、姉貴が
「やっぱり日本が一番。食べ物もおいしいし、この時期は最新のブランド品がここに集まるのよね。
クリスマスは日本人が買い漁るでしょ。
だから、どこよりも品数が揃ってる。」
そんなことを言いながら、久しぶりの日本を楽しむ計画をたてている。
そして、その矛先は俺にも向けられて、
「司もいい歳なんだから、クリスマスとか一緒に過ごす彼女とかいないわけー?」
と、毎年聞かされる冷やかしがはじまった。
それに、毎年
「んなもん、いねーよ。」
の一言で返す俺と、
「あんたは容姿はいいのに、性格に問題があるからね…………」
と、余計なことを言いやがる姉貴。
それが毎年の俺らの定番だったけど、今年は俺が口を開く前に、横からタマが口だしやがった。
「坊っちゃんは、今年はお忙しいのではないですか?ホホホホ~。」
あきらかに意味深な笑い。
「え、どーいうこと?ん?なになに?」
姉貴も目をキラキラさせてタマと俺を交互に見ている。
「最近の坊っちゃんは、たまに朝帰りや外泊もしますし、携帯で話ながらニヤニヤしてるときもありますからね。
クリスマスに一緒に過ごす彼女でも出来たんじゃないですか?」
「それ、ほんと?!
司ぁっ、どうなの?!白状しなさいよ!」
「うるせーな。食事中にでけー声出すなよ。」
「あんた食べてる場合じゃないでしょ、バカ。
どうなのよっ?!彼女いるの?」
なんでそんなに姉貴が必死なんだよ、と言いたくなるほどの形相で俺に迫ってくる。
その横でタマも興味津々に俺の顔を見つめてくる。
降参だ。
「ああ。付き合ってるやつがいる。」
「キャーーーー!!」
俺の返事に飛び上がって喜ぶ姉貴とタマ。
「誰なの?どこの子?いつから?」
興奮が抑えられない姉貴。
「落ち着けって。」
「早く情報出しなさいよ。そしたら、あたしも落ち着くわよっ。」
「……わかったから。
とにかく、座れよ。」
姉貴が座ったのを確認して、最小限の情報だけを与えることにした。
「付き合うようになってから、半年くらいか。
歳は1つ下。
普通の会社員だ。」
「へぇ~~~。」
姉貴の顔がニヤけすぎて崩壊してやがる。
「どこで知り合ったの?」
「…………NYにいる頃に出会って。
こっちに戻ってきてから再会した。」
「へぇ~~~。」
タマも姉貴の隣で同じ顔で聞いてやがる。
「会わせなさいよ。」
「なんでだよ。」
「あたしが、いい子か見極めてあげる。」
「必要ねぇ。」
「なんでよ、あんた騙されてるかもしれないわよ。司みたいにね、見た目もそれなりによくて、お金もそこそこ持ってる男には、いろんな女が寄ってくるから気を付けないと、あんたもコロッと騙され…………」
「ねーよ。」
「……ん?」
姉貴の心配もわかる。
けど、あいつに限ってそれはねぇって断言できる。
「そんな女じゃねーから、あいつは。
ねーちゃんが心配するようなことはねぇよ。」
「でもねっ、」
「大丈夫だ。
…………色々あって、4年かけてやっと気持ちが通じたんだよ。もうあいつを手放したくねぇ。
だから、静かに見守ってくれ。」
二人の目を見て真剣に伝える俺。
それなのに、
「………そう。……だったら会わせなさいよ。」
そう呟く姉貴。
またそれかよっ、そう思った時、
今度は姉貴の方が真剣な顔で言ってきた。
「司、本気なんでしょ?その子のこと。
だったら、いつか会わせなさいよ。
あんたが本気で好きになった子、見てみたいわ。
冷やかしなんかじゃなくて、家族として司が大切に想ってる子に会ってみたいだけよ。
だって!一生に一度あるかないかよね、タマさん?
司が、真剣に恋愛してるなんて、ビッグニュースだわ!
砕け散る前に、会わせなさいよっ!」
「砕け散るとか、縁起でもねーこと言うなっ。」
相変わらず言葉は乱暴だけど、姉貴の痛いほどの俺への想いは伝わってくる。
サンキュな、そう珍しく言葉で伝えようかと思った矢先、とんでもないことを言いやがる。
「お母様にも言ってもいい?」
「あ?」
「あんたに彼女が出来たって言ったら、お母様も喜ぶわよ。」
んなわけねーだろ、あのババァがそんなことに興味があるとも思えねーし、逆に邪魔しかねない。
そう思って反論しようとする俺に、
「お母様ね、あんたが本気で同姓愛者じゃないかって、心配してたから。」
そう言って、メインのステーキをパクっと口に入れる姉貴。
それを聞いて、長い沈黙のあと、
「ふざけんなっーーー!」
と叫ぶ俺と、
「オホホホホーーー。」
と笑い続けるタマ。
ババァのヤロー、心配するなら、もう少しましな心配にしろよっ。
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