総務課の牧野さん 36

総務課の牧野さん

終業時間ピッタリに俺の携帯が鳴る。

「おう」

「仕事終わった。」
不機嫌な牧野の声。

「わかった。俺ももうすぐ終わらせるから、待ってろ。」

「外に出てるから終わったら電話して。」

「……わかった。」

電話を切ったあと考え込む。
時間ピッタリに社を出たいほど、居づらくさせたか?

それから30分で仕事を終わらせた俺は牧野に電話すると、会社のそばのカフェにいると言う。
足早にその店に行くと、あきらかに不機嫌な顔で睨んでくるこいつ。

「待たせてわりぃ。」

「謝るとこ、そこじゃない。」

「あ?他に何かあったか?」
正面に座り顔を近づけて聞いてやる。

「5秒以内に謝んないと、今日は帰るよ。」

「わりぃ。」即答。

「気持ちがこもってないっ。」

「プッ……悪かったって。
その睨むのやめろ、キスするぞ。」

こいつはまだ分かってない。
おまえのその拗ねたり怒ったりする顔が一番俺のツボだっつーことを。
顔を赤くして更に睨むこいつの頬を一撫でして、

「飯、何食いたい?」
と聞くと、

「その前に買い物に行きたい。」
と、珍しく牧野からのお誘い。

「オッケーっ。どこでもいいぞ。」

女が買い物したいって言えば、鞄か靴か……それとも洋服、宝石、時計か?
なんだって買ってやるよ、そう思った俺が連れてこられたのは、
車にのって牧野のマンションの近くにある、
『なんとかスーパー』

店の前には金曜恒例売り出し市、なんて旗看板がヒラヒラしてるようなスーパー。

「なぁ、おまえの買いたいもんって?」

「食料品だけど?」

「…………マジかよ。」

「マジだよ。
道明寺、かご持って。」

そう言って俺が持ったかごに野菜やら魚、肉をポンポン入れていき、飲み物コーナーに差し掛かったとき
「道明寺、何飲む?」
と突然聞いてきた。

「あ?」

「お茶?ジュース?
それとも…………
泊まっていけるならビールにする?」
なんとなく、俺から目をそらしてそう言うこいつ。

それに迷わず
「ビール。」
と即答。

牧野のマンションにつき、玄関の鍵をこいつが開けて中にはいる。
そして、そのままたまらずにキスをする。

「弟は?」

「……いない。」

「ん、りょーかい。」

久しぶりのキス。
すぐに止めれるはずがない。
買ってきたばかりの食材をその場に置いたまま、
長くて深いキスに酔いしれる。

このまま最後までしたい気持ちは山々だけど、
せっかくの二人の時間をベッドの中だけで終わらせたくはない。

なんとか、理性を総動員させて牧野から離れると、
「鍋でいい?」
と潤んだ目で聞いてきた。

「怒ってねーの?」

初めて見る「ちゃんこ鍋」っつーもんを食いながら、ニコニコしてる牧野に聞くと、

「むちゃくちゃ怒ってますけど。」
と、言う。

「他のやつらに何か言われたか?」

「当たり前でしょ!
支社長とはいつから付き合ってるのか、
どうしてそうなった、ってみんな煩いの。」

「おまえはなんて言った?」

「私の口からは言えません。
支社長に聞いてくださいってごまかして、定時で出てきた。」

「ふーん。」

「何ニヤついてんの?」

「いや、……俺たちのことを否定しなかったんだな。」

「……んー、まぁね。
だって、どうせ煩く言われるならこっちの方がいいでしょ。」

「……あ?」

「最近、やたらとお見合い話とか、息子を紹介したいとか…………あたしに彼氏がいないと思い込まれてて、みんなうるさく言ってくるの。
どんだけ、あたしモテなくてかわいそうだと思われてんだろ…………。」

そう話しながら、食い終わった食器をキッチンへ運ぶこいつ。
モテなくてかわいそう……なんてたぶん誰も思ってねーよ。
あの総務課の女みたいに、ほんとに息子の嫁にと思ってるやつがたくさんいるんだろう。

キッチンから戻ってきたこいつは、赤いミトンを手にはめて鍋を持とうとしている。
俺はそのミトンを手から外してやり、そのまま俺がつけて鍋を持ち上げる。

「キッチンでいいのか?」

「あっ、うん。熱くない?」

「全然。」

その鍋をキッチンのコンロの上に置くと、ミトンをこいつに手渡して、そのまま腕を掴む。
そして、

「他のやつらにきちんと言っておけよ。
俺たちは四年前に出会って、それからずっと遠距離恋愛だったって。」

「ん?遠距離恋愛?」

「なんだよ、ちげーのかよっ。」

「んー、違う気がするけど。」

「お互い好き同士な二人が、離れてても相手を想い続ける…………そういうのを遠距離恋愛っつーんだよ、知らねーのおまえ?」

「はぁ……なんか色々突っ込みどころ満載だけど、……まぁ、いっか。
遠距離恋愛ってことで、その方が説明しやすいしね。」

コンロの前でグダグダ話す俺たち。

「なぁ、弟は帰って来ねーの?」
色々とその辺を聞いておかねぇと、このあとの行動に支障が出る。

「ん。なんか彼女と二人で部屋借りたの。」
そう言いながらリビングに戻りソファにちょこんと体育座りのこいつ。

「ってことは、この部屋を出たのか?」
俺も牧野の隣に座る。

「そう。向こうの両親にも挨拶に言って許して貰えたから、あとは結婚式と婚姻届をいつ出すかってとこまで話が進んだみたい。」

「そっかぁ。よかったな。
…………じゃあ、これからは気兼ねなくここに来れるっつーことか。」

「はぁ?」

「なんだよ、そうだろ。
いくら俺でも隣に弟がいる部屋で、おまえにどうこうしようとは思わねぇよ。」

「どうこうって……」
俺の言葉に赤くなって顔を俯かせるこいつ。
その仕草が、相変わらずうぶでめちゃくちゃかわいい。

「なぁ、俺、もう長いことおまえに触れてねーんだけど。
明日休みだろ?
朝まで付き合えよ。」

明日、俺も休むって言ったら西田にキレられるだろうな。
そんなことを思いながらも、ソファの上で重なる俺らの唇。

「道明寺っ、狭いけどシャワー先使って。」
キスの合間にそう言うこいつに、

「あとでな。
まずは早くおまえに触りたい。」
そう言って、もうそれ以上話すことが出来ないくらいのキスを繰り返した。

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