ビターな二人 21

ビターな二人
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「ピルで妊娠を予防するような相手がいるのかよっ。」

道明寺が怒ったように言うその言葉を、すぐに理解できないあたしは頭で何度も復唱する。
すると、待ちきれなくなった道明寺が、あたしの身体を引き上げ乱れた布団の上に座らせる。

つい数分前まで甘い時間を過ごしていたはずなのに、今は裸のまま向かい合い睨まれている。
慌ててあたしは近くにあった浴衣で身体を隠し、言った。

「道明寺、あんたなんか勘違いしてる。」

「ピルってそういうもんだろ。」

「そういうって、」

「妊娠を防ぐ薬。」

道明寺がそう断言する姿に、じわじわと怒りが込み上げる。

「あのねっ、ピルはそんな単純な薬じゃないのっ。
毎月くる生理にあたしたち女性はどれだけ苦しんでるか。
特に仕事をしていれば、生理の日は憂鬱だし、頭もお腹も痛いし、白い制服が気になって何度もトイレに行かなくちゃならないし。
ピル、イコール妊娠防止薬なんて、ありえない…。」

怒るあたしに、道明寺が視線を逸らしながら言う。

「……おまえの言うタイミングがわりぃ。」

「え?」

「あのタイミングで言われたら、中出ししてもいいって男に言ってるようなもんだろ。」

道明寺にそう言われ、さっきの事を思い出す。
確かに、後処理をしている男の人に対して、ピルを飲んでいる事を思い出して言う女。
それってつまり、次は付けなくてもいいよと伝えた事になるって事?

違うっ、違うっ!あたしはそんなつもりで言ったんじゃない!セックスとピルを結びつけて考えた事なんて今まで一度もない。
いや、でも、待って。
確かにあの時咄嗟に、ピルを飲んでいるから大丈夫なんだって思ったのは間違いないし……。

考えれば考えるほど、誤解されるような自分の発言が憎い。
でも、それって、あたしだけじゃないでしょ!

「道明寺だって、そうでしょ!」

「あ?」

「普段からこういう事があった時の為に、ゴムをいつも携帯してるの?」

道明寺が鞄の中から出した小さなポーチ。
あそこからスムーズにゴムを取り出した動作は慣れているようにも感じた。

「違っ、ばかっ、誤解すんなっ。」

「どうだか、怪しい…。」

立場逆転。
あたふたする道明寺は布団から立ち上がり、ゴムが入っていた小さなポーチをあたしの目の前に持ってくる。

そして、その中身を全部布団の上に広げて言った。
「西田が毎回用意する出張道具だ。」

そこには高そうな爪切りや耳かき棒、頭痛薬やアレルギー薬、使い捨ての耳栓やアイマスクが入っている。

「この中に、毎回入れやがる。
使わねぇって言ってんのに、何かあったら困るからって律儀に一枚だけ。
邪魔くせぇと思ってたけど、今日初めて良かったと思った。これがなきゃ、逃げようとするおまえを逃してたかもしんねーから。」

そう言いながらゴムが入っていた袋をヒラヒラと振り笑う道明寺。

「普段の素行が悪いから、西田さんにそんな心配させるんでしょ。」

「ちげーよ。
神に誓って言う。俺はおまえだけだ。」

また道明寺の瞳が熱っぽく光る。
その視線を思いっきり避けようとするあたしに、
道明寺はクスッと笑いながらジリジリと距離を縮めてくる。

「な、なによっ。」

「なにって、まだ夜は長いから楽しもうぜ。」

「そ、そうだね、花火は終わっちゃったから、お酒でも呑む?」

あたしはこんな事を言うことさえ心臓がバクバクしているのに、道明寺は布団を片手でトントンと叩きながら余裕の表情で言う。

「ここでする事はいくらでもあるだろ。
朝までたっぷり過ごそうぜ。」

……………

牧野と過ごす2泊3日の旅行はマジで最高だった。
幸には悪いが、思う存分恋人気分を味わえて、すっかり脳内はお花畑状態。

そんな甘い時間も、邸が近づくにつれ現実に引き戻され、明日からはいつもの生活に戻る俺たち。

だからこそ、きちんと話しておきたい事がある。

助手席に座る牧野に視線を移し、
「牧野。」
と、名前を呼ぶ。

「ん?」

「一緒に暮らさないか?」

何度もチャンスがあったのに、逃してきたその言葉を口にする。

すると、牧野が驚いたように俺を見る。

「驚く事じゃねーだろ。
俺はおまえと正式に籍を入れて、3人で一緒に暮らしたい。」

「…道明寺、」

「ん?」

「少し時間が欲しいの。
幸の気持ちを最優先したいから。」

牧野からは予想していた通りの言葉。
だから、言ってやる。

「ああ、分かってる。
いつまでも待つつもりだ。」

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