仕事を朝方にしてせっかく時間を作ったつーのに、
「今日会えるか?」
のメールに、
「友達と約束がある。」
とつれない返事のあいつ。
しょーがねぇから、西田にもう少し仕事していくと伝えてオフィスにこもっていると、携帯がなった。
画面を見た俺は、そのままデスクに携帯を放り投げて無視をする。
すると、一度切れたあと、また鳴り出す。
今度は確認もしないままスルー。
そして、2分後。
また鳴り出した携帯をしぶしぶ掴んで画面をみると、
『総務課 牧野』の文字。
慌てて俺は電話に出ると、
「司~、ひどっ!」
と、期待した女の声じゃねえ。
「滋、おまえかよ。」
「なんで私の電話には出ないのに、つくしのならすぐに出るのー、酷くない?」
と、少し酔ってるのか絡んでくる。
「どうしてか、はっきり言ってやろうか?」
「……いや、いいっす。」
「牧野は?そこにいるのか?」
「いるよ~。会いたい?」
「ああ。」
「………少しは自分の気持ちを隠しやがれっ。」
「隠せねぇぐらい大きいんだよ。」
「はぁーーー。ろくに恋愛してこなかった人が、急にすると、こういう風になるんだぁ。」
呆れ声の滋。
「おまえらどこにいるんだよ。
俺も仕事終わったからそこに行く。」
「いいよっ、来んな!」
「来いって言う電話だったんじゃねーの?
っつーか、牧野にかわれ。」
「いやですぅー。酔った私を置き去りにしたあの店にいるから、つくしに会いたいならそこにおいでー。」
結局、あいつの声を聞けないまま切られた電話をポケットにしまい、
「西田、わりぃ。やっぱ帰るわ。」
そう言い残してオフィスを出た。
その店に入るのは2度目。
1度目は合コン帰りの酔っ払った滋を引き取りに行ったのが最初だったけど、あれのおかげで俺たちの今があるとも言えるわけで、少しは滋にも感謝してやるか。
そう思いながら店に入ると、奥に見知った顔が勢揃いしていて、一気に眉間にシワがよる。
そんな顔の俺を、
「ぎゃはははっ、もうキレてるぞ司。」
と、総二郎が笑っている。
「なんでおまえらまでいるんだよっ。」
「だって、滋から面白そうなもんが見れるから来いって連絡きたからだろ。」
「それで、揃いも揃って来たわけか?
おいっ、類、おまえまでかよっ。」
「んー、これ以上の面白いものはないから。」
俺の目の前には、にやつくお祭りコンビと、牧野を真ん中にして楽しそうに話し込んでる滋と類の姿。
牧野の隣に座りたくても、こいつらが邪魔で座れねぇ。
「おいっ、類、席変われ。」
「やだよ。司はそこに座りな。」
「てめぇー、人の女に手出してんじゃねーよ。」
「うるさいよ、司。」
類に軽くあしらわれて、俺はしぶしぶあきらの隣に座る。
チラッと牧野をみると、こいつも俺を見ていて、
目があった瞬間、少しだけ笑った牧野に俺も自然と顔が緩む。
それをお祭りコンビが見逃すはずもなく、
「司~、いつの間におまえらそういうことになってたんだよ。
全然きいてねーよ。
つくしちゃんに聞いても、詳しいこと教えてくんねーんだわ。」
そう言って俺の肩をガシッと組んできやがる。
いてーんだよっ。
けど、今カチンときたのはそこじゃなく、
「つくしちゃん?
誰がそう呼んでいいって言ったぁ?!」
そう言ってあきらの頭を掴み、こめかみをグリグリしてやる。
「司、やめろっ、いてーよ。離せっバカ。」
あまりの痛さに暴れるあきらを放っておいて、俺は強引に牧野と類の間にズカズカと近付き、類を押し退けて二人の間に入り込む。
「痛いよ司っ。」
「ちょっと、支社長っ。」
そんな二人の文句も無視して、やっとゲットした牧野の隣。
こうして会うのは、二人でずる休みした日以来5日ぶりか。
さりげなく後ろから手を回し、牧野の腰に腕を絡める。
「滋、俺がいねーところで、あんまこいつを連れ出すな。」
「はぁ?それはこっちの台詞ですぅ!
司よりもずっとずっと前からつくしとは友達なんだから、そっちこそあんまりつくしを独り占めしないでよね~。」
「おまえと会うのは構わねぇけど、男がいるところには行くなって言ってんだよっ。」
「なに?ヤキモチぃー?
つくし、こんな男やめて、滋ちゃんにしなっ。
可愛がってあげるわよ~。
どっちがいい?」
おまえと俺を比べるなっ、次元が違うだろっ、
そう突っ込みを入れようとしたとき、
今まで黙ってたこいつが、ポツリと言った。
「滋さんと支社長って似てるかも。
滋さんの男バージョンってかんじ?」
その言葉に俺ら全員が固まる。
「…………どこがだよ。」
「んー、強引なところ?
なんか、もうこっちのことお構いなしにグイグイくるでしょ。
こっちがノーって言っても、結局イエスにさせるみたいな?
そういう強引なところ滋さんも支社長も似てますよね。
……あっ、悪い意味ではないですよ?」
悪い意味ではないと言われても、言われた本人たちは微妙だろ。
案の定、俺と滋は複雑な表情を浮かべてるなか、
類が盛大に吹き出す。
「ぷっ……あはははー。
いいとこついてくるね。
それに、司のことまだ支社長って呼んでるんだ?
……それって、ぷっ……なにプレイな訳?」
「…………。」
黙る牧野に、
「類っ!!」
慌てて叫ぶ俺。
プレイとか言うなっ。
俺だって、最近思い始めてた。
プライベートでも『支社長』と呼ばせるのはどうなのかと。
けど、…………
ベッドの中で、俺に揺らされながら『支社長』って甘い声で俺を呼ぶこいつの姿が好きだ
……なんて口が避けても言えねぇ。
それこそ、何プレイだよっ。
だから、こいつの前でプレイとか、バラしてんじゃねーよっ!
ニヤニヤ顔のF3に睨みをきかせる。
そんな俺の横で滋が言う。
「つくしも司って呼べば?」
「んー、あたしはいいや。
支社長もあたしのこと牧野って呼んでるし、あたしもそれなら……道明寺って呼ぶことにする。
いい、道明寺?」
たぶん、この場にこいつらがいなければ、確実に俺はこいつを押し倒していた。
今まで誰にもそんな風に呼ばれたことなんてなかったし、誰にも許してこなかった。
たぶんこいつは深くなんて考えてねーんだろうけど、その呼びなひとつでも俺を震わせるくらい破壊力がある。
じんわりと胸が熱くなり、感動し……
その続きは総二郎のおちゃらけた声でかき消された。
「まさか司、感動してねーよな?
道明寺~、道明寺~」
「…………してねーよっ!!
総二郎、てめぇーだけはぶっ殺すっ。」
そのあとも、日付が変わるまで飲んだ俺ら。
二人にさせろ、散々俺がそう言っても帰ろうとしねぇこいつら。
俺も飲みながら、
『そういえば、こいつらほとんど初対面なんじゃねーのかよ。打ち解けすぎだろ。』
そう思うほど、牧野の貧乏話で盛り上がったり、お祭りコンビの恋の武勇伝で盛り上がったりと、しっくりと馴染んでやがる。
ほんとは二人で過ごしたかった。
そう思いながらも、こういうのもありか……と思える自分がいる。

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