ビターな二人 19

ビターな二人

お風呂から戻ってくると、もうすっかり外は暗くなっていた。
20時には花火が打ち上げられる。

「腹減った。」
道明寺がそう呟くのと同時に、部屋がノックされ食事の用意が始まった。

和食の豪華な御膳とビール。
旅の締めには最高のご馳走。
向かい合って「かんぱーい」とグラスを合わせると一気にグラスをあける道明寺。

「ねー、花火見る前に酔っ払って寝ちゃうよ。」

「こんな軽い酒で酔わねぇよ。」

そう言われればそうだ。
眠たくなれば早めに寝たっていい。

「あたしも飲もーっと。」
そう言ってグラスを持ち上げたあたしに、

「おまえは酒よりも食事。」
と、手からグラスを取り上げる。

「なんでよっ、」

「空きっ腹に酒は酔うだろ。」

「自分だって!」

口を尖らせるあたしに道明寺が言う。
「まだ寝られたら困る。」

そうだった。
豪華な食事に気を取られてすっかりリラックスしていたけれど、道明寺とゆっくり話す機会はこの旅行でしかない。

黙々と食べ始めたあたしを見て、道明寺はクスッと笑った後、
「ゆっくり飲むなら返してやる。」
と、グラスをあたしの前に置いた。

…………

浴衣姿の牧野を前にして、直視できない自分がいる。
風呂に備えられていた浴衣は、自分の好みの色が選べて、俺は濃紺に赤い模様がついた物を選んだ。

風呂から出て牧野と落ち合うと、牧野が選んだ浴衣は淡いピンクに俺と同じ赤い模様。
まるで2人一緒に選んだかのような偶然に、2人で照れ臭く笑う。

はたから見たら新婚にでも見られているだろうか。
実際は14歳の子供がいる夫婦、いや恋人、ん?まだ恋人未満か?

色々考え出すとめんどくせぇ。
とにかく、はっきりしてる事は、
肩書きなんてどうでもいい。
こいつは俺にとって大事な女だ。

旅の疲れが出たのか、ほんの少しビールを飲んだだけなのに、トロンとしてきた牧野の目。
それがめちゃくちゃ可愛いくて、このまま酔わせて勢いでいけるとこまで行こうか…なんて邪な感情も出てくるが、

それじゃ、多分、俺が満足出来ねぇ。
こいつに触れる時は、俺の一方通行の気持ちだけじゃ嫌だ。牧野も同じ気持ちになってくれた時、そう決めてる。

食事が進み、だいぶ腹がいっぱいになってきた時、俺の携帯が鳴った。
画面を見ると『美作あきら』の文字。

あきらには、牧野と2人で旅行に来ているなんてもちろん話していない。
仕事の話か?
そう思い、「もしもし。」と携帯に出ると、

「司、今どこにいる?」
と、あきらが聞く。

「ちょっと、東京から離れてる。」

「出張か?」

「いや、…」
なんて答えたらいいか思案しているうちに、あきらが言う。

「週刊誌の〇〇の電子版で、おまえと牧野と幸くんの動画が流れてるぞ。
先月、幸くんが入院してた病院で隠し撮りされたらしい。
牧野の肩を抱きながら病室の前に座るおまえの姿とか、退院する日、3人で司の車に乗り込む姿とかが撮られてる。」

予想もしていなかった内容に眉間に皺が寄る俺。
それを見て、心配そうに牧野が見つめる。

「分かった。あとはこっちでなんとかする。」

「動画は今、司の携帯に送った。
あともう一つ、気になることがある。」

「なんだ?」

「たぶん、幸くんにも記者が話を聞きに行ってるかもしれない。
牧野に確認してみた方がいいかもな。おまえら、連絡取り合ってるんだろ?」

最後の質問はあきらなりに気を遣っているのか、言いにくそうに言う。

「ああ。幸に聞いてみる。」
俺がそう答えると、それを聞いていた牧野が、

「幸がどうかしたの?」
と、驚いたように小さな声で言う。

それを電話の向こうにいるあきらも聞き取ったらしい。

「なんだよ、そこに牧野、いるのか?」

「…ああ。」

「牧野の家か?それなら幸くんもいるんだな?」

「いや、それが、…2人で旅行に来てる。」
嘘ついてもしょうがねーから、言うしかない。

「マジかっ…、そりゃあ、驚きだけどよ、詳しい話は今度聞く。
司、頑張れよ。」

ああ、おまえに言われなくても頑張るつもりだから心配すんな。そう俺は心の中で呟いて電話を切り、牧野を見る。

「あきらからの電話だ。
記者に俺たちのこと撮られてたらしい。
病院にいる所、退院する日、もちろん幸の事もバレてると思う。」

「…幸に何かあったの?」

「あきらが言うには、幸にも記者が話を聞きに行ったかもしれねぇって。あいつ、何か言ってたか?」

「ううん、何も。」

「まだ来てねぇのかもな。
とにかく、幸に電話しておくか?」

俺はそう言って正面に座る牧野に、こっちに来いと指で合図をする。
それを理解した牧野が、立ち上がり俺の隣へ移動してくる。

20時前だからまだ寝てねぇだろう。邸でゲームでもしてるかもしれねぇ幸にテレビ電話を繋ぐ。

3コール目で「もしもーし。」と電話に出た幸は、タマの部屋らしき所で寛いでいる。

「何してる?」

「タマさんとトランプ。2人でやっても面白くないから、あとで楓さんも参戦してくる予定。」

タマもババァも幸には激甘だ。
俺に注がなかった愛情を幸には降り注ぎやがる。

「パパたちは?旅行は楽しい?」

「ああ。」

「なんかさ、変な感じ。」

「あ?」

「いつもは俺とママが一緒にいてパパとテレビ電話してたのに、今日はパパとママが画面の向こうにいる。
しかも、お揃いの浴衣なんか着ちゃって、ラブラブじゃん。」

「おまえっ、」

お揃いとかラブラブとか、本人たちが一番意識してる事を、そんな簡単に面と向かって言うんじゃねーよ。
照れ臭さを紛らわすために、俺は幸に本題を聞く。

「幸、ここ最近、変なやつに話しかけられなかったか?」

「変なやつ?」

「ああ、雑誌の記者らしい。」

「あー、いたね、そんな人。」

あっけなく答える幸に今度は牧野が驚いて聞く。

「幸っ、いつ?何聞かれたの?」

「3日くらい前だったかな。
なんか動画見せられて、これは誰だ?って聞いてくるから、俺の両親だって答えたよ。」

あきらが言う動画のことだろう。

「それだけ?何かされなかった?」
牧野が聞くと、幸が笑いながら言う。

「隠し子かって聞かれた。」

「クッソっ…、」
思わず汚い言葉が出る俺に、幸が言う。

「俺は、隠された記憶は全くないから、隠し子ではないと思うって答えたよ。」

「…幸。」

「それと、なんか執拗に絡んでくるから、とっておきのパパの秘密を話しちゃったけどね。」

俺の秘密?
何のことか検討も付かない俺に、幸は画面に映るパソコンを指差して言う。

「パパのパソコンのホーム画面。」

「……おまえ、まさか、」

「気づいちゃったんだよね。」

得意げに言う幸に、牧野もタマも不思議そうに見つめる。

「ここで言うなよ幸。」
俺がそう言っても、聞くはずもなく、幸の口はペラペラとよく動く。

「パパのパソコンを借りた時に見つけちゃったんだ俺。
ホーム画面の画像が真っ白なんだけど、どこかピントが合っていないっていうか、歪んでるっていうか、気になって直してあげよう思ったんだ。
そしたら、その画像、なんだったと思う?」

わざわざ、牧野の方を見て聞く幸。
首を傾げる牧野に、幸はにっこり笑って言う。

「ママの写真だよ。
ママの若い頃の写真をわざわざホーム画面に設定して、しかもバレないようにぱっと見は真っ白に加工してる。
けど、ちょっとマウスをずらせばママの顔が出てくるんだ。」

こんな事をタマや本人を目の前にして暴露されるとは。

「幸、おまえまさか、それも記者に?」

「言ったよ。
俺のパパは昔からママに一途だって。
ついこの間も、ママが好きだから結婚したいって言ってた事も話した。」

「おまえっ、」

「ダメだった?」

そう聞く幸の顔は真剣で、いくらガキでも誤魔化しはきかねぇ。

「いや、ダメじゃねーよ。本当の事だからな。
ただ、」

「ただ?」

「牧野とはこれからきちんと話す。
俺がそうしたくても、牧野の気持ちが最優先だ。
パパとママにもう少し時間をくれ。」

コクコクと頷く幸に、じゃあなと手を振って電話を切ると、隣に座る牧野に視線を移す。

「昔の写真って?」

聞かれたくねぇ事を聞かれて視線を逸らすと、俺の顔を両手で挟み自分の方へ向けるこいつ。
それでも黙ってると、

「道明寺?」
と、睨むこいつに一発で落ちる。

「おまえの部屋で最後に鍋食ったあの日、俺の古い携帯で撮っただろおまえの写真。」

「あーっ、」
思い出した牧野。

「俺が撮ったおまえの写真ってそれくらいしかねぇから。
…会いたい時に、いつでも見れるように…。」

すると、牧野の目が少しだけ潤み俺を見つめる。

「会いたくなれば会いにくればいいでしょ、いつでもっ!」

「出来るかよ、そんな簡単に。」

「なんで?なんでよっ、」

「……おまえに拒否られるのが怖ぇ。」

「拒否なんて……、」
今度は溢れそうなほど目に涙を溜めて言う。

「泣くな牧野。
今まで、幸せにしてやれなくてごめん。
もう、逃げたくねぇ、いや、離れたくねぇおまえと幸と。
牧野、俺はおまえが、ずっと好きだ。」

ずっと、その言葉に力を込めて伝えてやる。
すると、何かを言おうとした牧野が、一瞬止まり、
次の瞬間、言葉ではなく行動で想いを表してきた。

隣に座る牧野が、俺の浴衣の胸元を掴みぐいっと自分の方へ引き寄せる。
そして、2秒ほど唇を合わせたあと言った。

「あたしも、同じ。
ずっと、好きだったよ。」

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