ビターな二人 18

ビターな二人

道明寺が予約してくれた宿は、観光地から少し離れた静かな温泉地。
家族連れというよりも、熟年のご夫婦や若いカップルが多く見られる。

あたしたちも例外ではないと思われたのか、宿の受付で荷物を預ける際、あたしの事を「奥さま」と呼ぶスタッフ。
思わず道明寺の顔を見たあたしに、道明寺は気まずそうに笑う。

道明寺との2人旅。
ドキドキしているのはあたしだけだろうか。
でも、あの日の言葉は嘘だったとは思いたくない。

「相変わらず、……おまえが好きだ。」
道明寺が言ってくれたあの言葉。
そして、さっきまで握られていた手。

きちんと話し合う必要がある。と思う反面、
あの言葉は無かったことになんて言われるのが怖い自分もいる。

まだ、夜は長い。
ここまで来たら、逃げてもしょうがない。
少しお酒でも飲んで、勇気を出してあたしからぶつかってみるしかないっ。

3人で予約していた部屋は急遽2人部屋に変更してもらったが、まるでテレビのお宿特集なんかで紹介されるような素晴らしい部屋。
中へ入ると木と畳の良い香りがしてきて、それだけで疲れが癒される。
大きな窓の側には、2人用の掘り炬燵も作られていて、夜になるとそこで食事をしながら花火が見れるそう。

部屋の奥には二つ並んだ布団と、その奥にはガラスで囲まれた檜のお風呂。
部屋に入り改めてここで道明寺と過ごすのかと思うと、一気に顔が火照りだし、あたしは慌ててトイレへ駆け込んだ。

…………

道明寺司という俺の名前で予約していた宿。
実際、宿に到着すると、支配人らしき年配の男性が挨拶に来た。
3人での予約を急遽2人にしたいというこちら側の我儘もあっさりと受け入れられ、案内された部屋の感じからするとランクアップしてくれたのは間違いない。

お忍び旅行とでも思われただろうか。
綺麗に並んだ二組の布団や、奥に備えられた檜の風呂。
それを見た牧野が明らかに動揺しているのを見て、どう攻めたらいいか苦笑する。

洗面所から出てきた牧野は、さっきまでおろしていた髪をアップにし、付けていた時計を外す。
そんな仕草だけでドキリと胸が鳴るからヤバい。

だいぶ日も暮れてきて、夕食まであと少し。
このまま2人でいると色々と暴走しそうになる自分を抑えるため
「風呂にでも入りに行くか?」
と聞くと、部屋の奥にある風呂を見て目を泳がせるこいつ。

そんなこいつに笑いながら言ってやる。
「ちげーよ。
地下に大浴場がある。洞窟の作りになっていて有名だから、夕食前に入ってこようぜ。」

「へ、へぇーっ、そーなんだっ。
行く行くっ、」

バタバタと身支度を始めようとする牧野。
挙動不審なこいつを見ると、牧野もこの状況を意識してくれてるはず。
だから、俺は思わずこいつの手を取り言ってやる。

「夜、おまえとゆっくり話したい。
だから、…今はあんまり緊張すんなって。」

言ってる自分が1番緊張してるから始末がわりぃ。

「…うん。ごめん。」
謝る牧野の頭をぐりぐり抑えながら

「おまえの緊張はうつるんだよ。」
と、笑ってやる。
すると、ようやく俺の顔を真っ直ぐに見て、可愛く反論するこいつ。

「うつるって……別にそんなに緊張なんかしてないしっ!」

夜まで待とうと思ってるはずなのに、俺の口からは甘さが溢れ出る。

「しろよ。」

「え?」

「緊張くらいしろよ。
もっと、俺のこと意識させてやろーか?」

牧野の腕をぐいっと引き寄せて、俺に近づける。

「どっ、みょうじ!あたし、お風呂に行くからねっ!」
俺の腕から逃げていく牧野を見つめながら、夜まで待てねぇと心の中で呟く俺。

………

大浴場へ行くために地下までのエレベーターに乗り込むと、途中でカップルが乗り込んできた。

あたしたちよりも少し若いくらいの新婚だろうか。
あたしたちの前に並んで立ち、仲良く携帯を覗き込みながら話している。

そして、その次に入ってきたのは若い女性2人組と、30代くらいの男性3人組。
さっきのカップルの彼女もそうだったし、今入ってきた女性たちもそうだったけれど、

みんな道明寺を見て一瞬目を奪われている。
女性たちなんて、「後ろの人見た?」なんてヒソヒソと浮き足立っている。

道明寺は昔も今も変わらない。
横暴でわがままで自己中なおバカな顔を知ってるあたしでさえ、目を奪われるほどかっこいいと感じる。
そんな人の隣にあたしがいるなんて…と思うと、思わず下を向いてしまう。

エレベーター内はあっという間に満杯になり、あたしたちは1番奥へと押され、あたしの前には男性たちが並ぶ。
道明寺と少し離れて立つ事になったあたし。

地下まで下りて行きエレベーターが止まると、そこでみんな一斉にぞろぞろと降りる。
あたしもその波にのろうとした時、道明寺が手を掴み、エレベーター内に引き留めた。

「道明寺?」

下りないの?そう聞く間もなくエレベーターがまた閉じる。
そして、道明寺は再びあたしたちの部屋がある18階のボタンを押した。

「忘れ物?」
何も言わない道明寺にそう聞くと、

「ああ。」
と言ったまま黙っている。

18階で降りると、今度はきちんとあたしの手を繋ぎ直し、部屋までスタスタ戻る道明寺。
そして、部屋に入るなり、あたしをソファに座らせた。

「牧野。」

「ん?」

「これ、付けてろ。」

突然そう言って、カバンの中から取り出したのは、小さなリングが2つ。

「これって…」

「さっき祭りで買った。2つで1000円のただの輪っか。
こういうのは、特別な時に、ありったけ高価な物を贈るのが常識だと思ってたけどよ、そうじゃねぇって初めて知った。」

「…どういう事?」

道明寺の手の中にある小さなリングを見つめながら、意味がわからなく聞くあたしに、
道明寺は熱っぽい視線で言う。

「こんなおもちゃみてぇなリングでも、俺はどうしても今すぐおまえの指に付けさせてぇ。
おまえは俺のものだって証として。
他の男に近寄られたら、すぐに見せろよっ。」

この人は、何を突然言い出したのか。

「な、な、何よそれっ。」

「男に話しかけられても答えるな。」

「はぁ?なんの心配よっ!」

「さっきエレベーターに乗ってた奴らもおまえのこと見てただろっ。」

「あんたどこ見てんのよ?
そんなおかしな勘違いしてるから、
あそこにいた女性客の全員が自分に釘付けだったのに気付かないのよっ!」

あたしみたいな平々凡々な女の心配してないで、自分の心配しなさいよっと声を大にして言ってやりたい。

それなのに、この人はまだ戯言を言う。

「他の男には、おまえに指一本触れさせたくねぇ。」

あたしの指にはめられたリングを大切そうにひと撫でする道明寺に、「バカじゃないの。」と呟きながらあたしも道明寺の薬指に指輪をはめた。

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コメント

  1. ree より:

    ここの司が大好きです。
    どこも出れない連休。
    キュン死にさせて下さい。

    • 司一筋 司一筋 より:

      こんにちは〜。
      メッセージありがとうございます!
      こんな世の中なので少しでも皆さんの癒やしになれれば嬉しいです。
      これからもお付き合いお願い致します♡

  2. きな粉 より:

    可愛い司君。
    早く本当の夫婦になれたらいいよね。
    押せ押せで、頑固なつくしちゃんを手に入れて。
    頑張る司を全力応援!!
    いつも有難うございます。

    • 司一筋 司一筋 より:

      メッセージありがとうございます!
      少し大人な司を楽しんで頂けたら嬉しいです。
      これからもお付き合いお願い致します♡

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