ビターな二人 13

ビターな二人

幸が聞いた、
どうして結婚しなかったのか?
その事よりも、

新しい彼女がいる。
という所が、ひっかかってしょうがない。

「彼女って何のことだよ。」

「大阪で会った人、彼女なんでしょ?」

「あ?」

大阪で会った人の中に、そんな誤解をされるような奴がいた記憶はない。
黙る俺に、

「レストランで会ったあの人、綺麗な人だね。」
と、幸が言う。

それで、思い出した。
レストランで会った奴といえば、

「おまえっ、まさか滋のことかよっ!」

「滋さんって言うの?」

「ああ。あいつは、ダチだ。昔からの腐れ縁。
おまえ、どこであいつが彼女なんて誤解したんだよっ。」

「だって、……パパに何か耳打ちして、パパも照れたように笑ってただろ。いい雰囲気だったから。」

「あれは……」

滋が俺に言ったんだ。
『幸くん、大きくなったわね。司とつくしの愛の結晶でしょ。』

仕事で何年も付き合ってる滋には分かってると思う。
俺が未だに牧野を忘れられない事も、幸が俺の生きる原動力である事も。

「幸、はっきり言うから覚えておけよ。
俺は……、」

そこまで言って口籠る。
もしも、これから先、牧野が誰かと結婚したら、
今から俺が言う言葉は、幸にとって重荷になるかもしれねぇ。

でも、このまま幸の父親というポジションだけではいたくない、という想いの方が強い。
だから、もう一度顔をあげて、幸に言う。

「俺は、牧野が好きだ。
俺のせいで籍は入れられなかったが、おまえが生まれる前からずっと俺の気持ちは変わってねぇ。
もう一度、…あいつと家族になる努力をしたいと思ってる。」

「それって、結婚するって事?」

幸が驚いた様に聞いてくる。

「ああ。俺的には、牧野とおまえとちゃんとした家族になりたいと思ってる。
ただ、…あいつにも今の生活があるだろうし、好きな男もいるだろうし、そう簡単じゃない事も分かってる。」

「…あー、その事だけど、」

「おまえは会ったことあるのかよ。」

「え?」

「牧野の恋人に。」

幸にも会わせているのなら、牧野にとって真剣な相手なのだろう。

すると、幸は突然
「あー、だからさーっ、それは、」
と、大きな声を出し、ベッドの上で頭を抱え始めた。

「幸?」

「パパ、今の話なんだけど、この間ママに恋人がいるって言ったのは、」

そこまで幸が行った時、
病室の扉が開き、
「ごめん、話しが長引いちゃって。」
と、牧野が戻ってきた。

俺と幸は顔を見合わせて黙る。
そんな俺らを見て、
「なに?なんか変な雰囲気。
もしかして、あたしの悪口言ってた?」
と、口を尖らせる牧野。

その仕草がマジで可愛くて、クスッと笑うと、
それを見て幸がまたベッドで頭を抱えた。

………………

病院を出て、ホテルまでの道のりを牧野とゆっくり歩く。
その時、幸から俺の携帯にメールが届く。
画面には一言
「ごめん」の文字。

「なんだあいつ。」
そう呟くと、

牧野が「なに?」と言いながら携帯を覗き込む。
頭一つ分小さいこいつの身体が、俺の身体に触れるだけで、ドキッと胸が鳴る。

ごめんの文字を見て、「喧嘩したの?」と、聞く牧野に、
俺は「いや、してねー」と首を傾げると

また幸から、
「さっきの話だけど、」
と、一文。

そして、数秒後に、
「俺は賛成だから。」
と。

それって、つまり、こういう事だよな、幸。
俺が、牧野と家族になる努力をする事に賛成ってことだろ?

携帯を見ながらニヤける俺に、牧野は不思議そうな顔で、
「どういう意味?」
と聞く。

「俺と幸との秘密だ。」

「ズルい。」

「クッ…、さぁ、ホテルに帰るぞ。」

「ちょっと!教えてよっ、」

「今度な。」

「道明寺っ!」

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

コメント

タイトルとURLをコピーしました