ビターな二人 11

ビターな二人

ホテルを出て食事場所を探しながら2人で歩く。
ハンバーガー?ラーメン?定食屋?
身体は疲れているのに、気持ちはウキウキと高鳴る。
こんな風に並んで歩くのは学生時代ぶりだ。

結局、俺たちが選んだのは小さなうどん屋。
注文してから5分ほどで運ばれてきたうどんを食べ終わる頃には、睡魔が俺たちを襲ってくる。

「とりあえず、ホテルで少し休もうぜ。」
そう言って、うどん店を出てホテルへ戻る途中に、俺の携帯が短く鳴った。

「おっ、幸からメールだ。」

「えっ、なんて?」

「…暇で死にそうだってよ。」

「…まったく、あの子は…」

呆れた顔の牧野に俺も苦笑する。

「おまえにもメールしたらしいぞ。
返信がないから、ママはどこにいるのかって聞いてる。」

「携帯、ホテルの部屋で充電してるの。」

そうこう話しているうちに、ホテルに到着。
幸からのメールはまだ続いている。

「あとで病院に来る時に、プリン買ってこいって。」

「はぁ?!」

「ダチの分も、全部で4個だとよ。」

幸の我儘に顔を見合わせて笑うしかねぇ俺たち。

ホテルの部屋に入り、ベッドの上に座りながら、幸とのメールは続く。
あいつも病院のベッドの上で相当暇なんだろう。
くだらない会話が続くが、そんな時間も悪くない。

すぐに返事が来る幸とのメールに気を取られ、ふと牧野に視線を移すと、どうやら限界だったようだ。

俺の隣で横になり、眠っているこいつ。
規則的な寝息が静かに聞こえてくる。

「牧野。」
起こしたくねぇのに、どうしても名前を呼びたい。

ぐっすり眠っている牧野は、俺の呼びかけにも反応しない。
だからか、抑えていた感情が少しだけ露出する。

顔にかかる髪をそっと耳にかけてやり、その頬に優しく触れる。

その時、また俺の携帯が鳴り、
慌てて手を引き、画面を見ると、
「パパ、寝た?」
と、返信がない俺に幸からのメール。

俺はそれに、
「ああ、今から少し寝る。
あとで会いに行くから待ってろ。」
そう返信すると、ゆっくりと牧野の横に横たわった。

なぁ、牧野。
俺はやっぱりおまえが……、
その続きを心の中で言いそうになったが、
ふと、幸が言った言葉を思い出す。

「ママには、付き合ってる人がいる」

………………

幸とのメールの途中で眠ってしまった。
昨夜は一睡もしていなかったから、身体が限界だったのだ。

外はもうすっかり暗くなっていて、ホテルの部屋も入り口付近の灯りだけが灯されている。

道明寺は?

部屋の静かさに気配はなく、道明寺の姿を探そうと、ベッドの上にそっと起き上がろうとしたあたしは、
思わず、声を出しそうになった。

あたしの背中側に道明寺が横になって眠っていたのだ。

あのままメールをしながら道明寺も眠ってしまったのだろうか。
あたし以上に疲れていたはずのこの人。

車の運転もしてくれた。
病院や救助隊との連絡係にもなってくれた。
他の保護者への気配りもしてくれた。

何から何まで感謝しかない。

あたしは、そっと道明寺の横に横たわり、
この人の相変わらず整った綺麗な顔を見つめる。

そして、声に出さずに呟く。
「ありがとう。」

どうやら、何年経っても、あたしはこの人の隣が心地よいらしい。
泣いたり、笑ったり、道明寺の前では素のあたしでいられる。
今までは幸の父親として頼ってきた部分はあるけれど、こういうピンチの時に改めて分かる。

1人の男の人として、あたしは道明寺がやっぱり好き。

けれど、この気持ちは心に留めておかなくちゃいけない事も分かってる。

道明寺には、
「付き合ってる人がいるから。」

あたしは、小さく息を吐くと、
道明寺を起こさないようにそっと起き上がり、
バスルームへと入った。

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