ホテルを出て食事場所を探しながら2人で歩く。
ハンバーガー?ラーメン?定食屋?
身体は疲れているのに、気持ちはウキウキと高鳴る。
こんな風に並んで歩くのは学生時代ぶりだ。
結局、俺たちが選んだのは小さなうどん屋。
注文してから5分ほどで運ばれてきたうどんを食べ終わる頃には、睡魔が俺たちを襲ってくる。
「とりあえず、ホテルで少し休もうぜ。」
そう言って、うどん店を出てホテルへ戻る途中に、俺の携帯が短く鳴った。
「おっ、幸からメールだ。」
「えっ、なんて?」
「…暇で死にそうだってよ。」
「…まったく、あの子は…」
呆れた顔の牧野に俺も苦笑する。
「おまえにもメールしたらしいぞ。
返信がないから、ママはどこにいるのかって聞いてる。」
「携帯、ホテルの部屋で充電してるの。」
そうこう話しているうちに、ホテルに到着。
幸からのメールはまだ続いている。
「あとで病院に来る時に、プリン買ってこいって。」
「はぁ?!」
「ダチの分も、全部で4個だとよ。」
幸の我儘に顔を見合わせて笑うしかねぇ俺たち。
ホテルの部屋に入り、ベッドの上に座りながら、幸とのメールは続く。
あいつも病院のベッドの上で相当暇なんだろう。
くだらない会話が続くが、そんな時間も悪くない。
すぐに返事が来る幸とのメールに気を取られ、ふと牧野に視線を移すと、どうやら限界だったようだ。
俺の隣で横になり、眠っているこいつ。
規則的な寝息が静かに聞こえてくる。
「牧野。」
起こしたくねぇのに、どうしても名前を呼びたい。
ぐっすり眠っている牧野は、俺の呼びかけにも反応しない。
だからか、抑えていた感情が少しだけ露出する。
顔にかかる髪をそっと耳にかけてやり、その頬に優しく触れる。
その時、また俺の携帯が鳴り、
慌てて手を引き、画面を見ると、
「パパ、寝た?」
と、返信がない俺に幸からのメール。
俺はそれに、
「ああ、今から少し寝る。
あとで会いに行くから待ってろ。」
そう返信すると、ゆっくりと牧野の横に横たわった。
なぁ、牧野。
俺はやっぱりおまえが……、
その続きを心の中で言いそうになったが、
ふと、幸が言った言葉を思い出す。
「ママには、付き合ってる人がいる」
………………
幸とのメールの途中で眠ってしまった。
昨夜は一睡もしていなかったから、身体が限界だったのだ。
外はもうすっかり暗くなっていて、ホテルの部屋も入り口付近の灯りだけが灯されている。
道明寺は?
部屋の静かさに気配はなく、道明寺の姿を探そうと、ベッドの上にそっと起き上がろうとしたあたしは、
思わず、声を出しそうになった。
あたしの背中側に道明寺が横になって眠っていたのだ。
あのままメールをしながら道明寺も眠ってしまったのだろうか。
あたし以上に疲れていたはずのこの人。
車の運転もしてくれた。
病院や救助隊との連絡係にもなってくれた。
他の保護者への気配りもしてくれた。
何から何まで感謝しかない。
あたしは、そっと道明寺の横に横たわり、
この人の相変わらず整った綺麗な顔を見つめる。
そして、声に出さずに呟く。
「ありがとう。」
どうやら、何年経っても、あたしはこの人の隣が心地よいらしい。
泣いたり、笑ったり、道明寺の前では素のあたしでいられる。
今までは幸の父親として頼ってきた部分はあるけれど、こういうピンチの時に改めて分かる。
1人の男の人として、あたしは道明寺がやっぱり好き。
けれど、この気持ちは心に留めておかなくちゃいけない事も分かってる。
道明寺には、
「付き合ってる人がいるから。」
あたしは、小さく息を吐くと、
道明寺を起こさないようにそっと起き上がり、
バスルームへと入った。
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