次の日の朝6時、捜索が再開された。
幸の時計のGPSを頼りに、地上からの救助隊とヘリでの移送部隊が出動。
それと同時に、山小屋で保護されていた3人の生徒も、自力で下山すべく出発した。
俺達が待つ病院は、この辺りでは一番大きな病院。捜索が再開されて1時間もしないうちに、幸の姿を救助隊が確認したと一報が入った。
本人自らヘリに大きく手を振り位置を知らせたと聞いて、牧野が安心したように涙を拭う。
その後、
山で一夜を過ごした幸を含む生徒4人が病院に運ばれてきたのは9時を少し過ぎた頃だった。
担架で運ばれてきた幸は、牧野を見るなり
「ごめん、ママ。」
と、おどけたように言い、牧野も泣き笑い。
俺も幸の頭をぐしゃっと撫でたあと、牧野を抱き寄せて背中を優しくさすった。
救助隊からの説明では、滑落した際に右足を捻挫し、腫れているとのこと。
骨折まではしていないと思うけれど、詳しい検査はこれから。
その後、昼前に医師から保護者たちに
「詳しい検査と結果が分かるまで2日間はかかりますので、その間入院して頂きます。」
と、説明があった。
とにかく、全員無事でよかった。
山で一夜を過ごしたとはいえ、さすが若いだけはある。
4人とも元気で、抱き合いながら無事を喜んだ後は、病院中に響き渡る声で救助隊に御礼を言う。
俺の中学時代とは雲泥の差で、素直に育った幸。
母親譲りでマジで良かったと心から感心していると、
西田が俺の側にきて耳打ちをした。
「病院から一番近いホテルを予約します。
他の保護者の方の分も取ってもよろしいですか?」
さすが西田。
やる事が早い。
「ああ、頼む。」
俺はそう言うと、
昨夜からほとんど寝ていない保護者を見つめながら、隣に立つ牧野に言った。
「子供たちが入院中は近くで待機出来る様に、ここから一番近いホテルを全員分手配する。準備が出来たら移動するぞ。」
すると、牧野は俺を見上げて、
「…ありがとう。」
と呟いた。
すると、そんな俺らを見て西田がいつもの事務的な口調で言った。
「お二人は同じ部屋でお取りしますか?
それとも別々に部屋を取りますか?」
他の保護者たちは当然夫婦2人で同じ部屋を取るだろう。
微妙なのは俺たちだけ。
それをわざわざ本人たちを目の前にして聞いてくるところが西田らしい。
牧野に「どうする?」なんて聞くつもりはない。
この数時間、こいつと過ごしただけで俺の答えははっきりしているから。
迷わず、西田に言う。
「同じ部屋で。」
すると、俺の言葉と同時に牧野も言った。
「同じ部屋でお願いします。」
………………………
急遽、道明寺が手配してくれたホテルの部屋は、
広めのツインルーム。
病院から一番近いホテルで、一番いい部屋はここしかなくて…なんて申し訳なさそうに言う西田さんに、
あたしを含め保護者全員が、
「とんでもないっ、ありがとうございます!」
と頭を下げると、
いつもは表情ひとつ変えない西田さんが、少しだけニヤリと笑いながら
「副社長の名前を出せば、たいていの事は可能ですので。」
と、道明寺の威力を得意げに言う。
ほんと、相変わらず「道明寺」ブランドは無敵らしい。
救助隊のトップとも知り合いだったとは恐れ入る。
今回、道明寺がいなければどれほど救助に時間がかかっただろうと考えるだけで怖い。
幸とも頻繁にメールでやりとりしているし、病院からの連絡も道明寺に来ることになっている。
あたしたちの関係から言えば、本当なら別々の部屋を取るべきなんだろうけれど、
今のあたしには、その選択はなかった。
道明寺にもう少しだけ頼りたい。
それが、あたしの本音。
でも、いざ一つの部屋で一緒に過ごすとなると、
急に緊張してきたあたし。
広いとはいえ、お互いの行動が丸見えのツインルーム。
部屋に入るなり、挙動不審ぎみに荷物の整理や携帯チェックをするあたしとは反対に、
道明寺は余裕たっぷりにベッドに座り、バタバタしているあたしを見てクスッと笑いながら言った。
「なぁ、昨日から何も食ってねーし、すげぇ腹減った。
おまえは腹減ってねーの?」
そうだ、そういえば、
昨夜から何も食べていない。
それに気付くと、急にお腹が減ってくる。
「ペコペコ。」
「だろ?何か食いに行こーぜ。」
この人のこういう無邪気な顔を見るのはいつぶりだろうか。
「今の俺たちには腹一杯の食料と、たっぷりの睡眠だ。」
そう言いながら立ち上がる道明寺に、
「賛成っ。」
と、あたしも笑いながら立ち上がった。
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