ビターな二人 9

ビターな二人

幸の無事が分かり、緊張が少しだけ解けた牧野を腕に閉じ込める。

すると、職員玄関から、
「幸くんママー。」
と、呼ぶ声がして、俺達は慌てて身体を離し玄関へと急いだ。

数分前に救急隊から、
「救助後に運ばれる病院が決まった」
と連絡が来たようだ。

幸以外の生徒も山小屋から下山したのち病院へ直行する。
保護者もその病院で待機していて欲しいと要請があった。

「学校には教頭先生が連絡係として残りますので、皆さんは病院の方へ。」
校長に促され、保護者は一斉に移動の準備をする。

ここから病院までは1時間半くらいだろうか。
時計を見ると、22時を少し回った頃。
とにかく、病院まで行って、救助が再開されるのを待つしかない。

そう思いながら牧野の方へ近付くと、鞄から車のキーを取り出そうとしている。

「俺の車で行くぞ。」
こいつの腕を掴みそう言うと、

「あたし、車が…」
と、駐車場を指差して言う。

その顔は、赤く充血した目と、化粧っ気のない青白い肌。

「こんな時間におまえに運転させれねぇ。
泣き疲れただろ。俺の隣で寝てろ。」

幸の事も死ぬほど心配だが、こいつの事も一瞬たりとも放っておけない。

牧野が返事をする前に、こいつの腕を取り西田が待つ車へと急いだ。

……………………………………

車に乗り込むと、西田に「邸に行ってくれ。」と告げ、
牧野には、「俺の車に乗り換える。わりぃけど、着替えだけさせてくれ。」
と言うと、コクンと頷く。

オフィスから直行してきたから、車もスーツもそのままの俺。
救助の状況によっては、どれくらい時間がかかるか分からない。
着替えるなら今のうちだし、自分の車に乗り換えて牧野と二人で向かいたい。

今後の天気予報や病院までの地図を検索しているうちに、邸にはあっという間に到着し、エントラスで車を降りる。

すると、それを待ち構えていたように、エントランスの扉が開いた。

そこには、心配気な顔のババァとタマが待っていた。

「つくしさん。」
ババァは牧野の名前を呼ぶと、そのまま優しく抱き寄せる。

二人が会うのはいつぶりだろうか。
直接会わなくても、いつも牧野の事を気にかけていたババァ。
幸が遊びに来て帰るときはいつも、牧野へのお土産を持たせていたのは知っている。

そんな二人を見たあと、
「急いで着替えてくる。」
俺はそう言って自室へと走った。

とりあえず、ラフな服装に着替えたあと、2、3日分の着替えを大きめの鞄に放り込む。
幸とは身長も5cmほどしか変わらないから、救助されたあと幸が着てもいいように、パーカーやスウエットも入れた。

それを抱え、自分の車のキーを掴むと、牧野が待つエントランスへまた走る。

「準備出来た。行くか?」

「うん。」

牧野が答えると、
「坊っちゃん、これも持って行ってくださいな。」
と、タマが小さめの鞄を渡してくる。

「ん?」

「つくし用の着替えと、簡単なスキンケア類が入ってます。しばらく帰って来れないかもしれないですからね。」

すると、牧野が慌てて言う。
「あたしの分なら大丈夫ですっ。途中のコンビニでも買えるし。」

「いいんだよ、持って行っておくれ。奥様がつくしにって用意してあったものなんだから。」

初耳だった。
ババァが牧野用の物を用意していたとは…。

「でもっ、」
困ったようにそう答える牧野に、今度はババァが言った。

「いつでもあなたがこの邸で過ごせるように、用意しておいた物なの。まさか、こんな時に使う事になるとは思わなかったけれど…。
幸は大丈夫よ。司とあなたの子供だもの。
さぁ、行ってあげて。」

ババァはそう言うと、自分が着ていたカーディガンを牧野の肩にかけ、そっと背中を押した。

俺の腕の中には薄手のパーカーがある。
半袖の牧野にかけてやろうと思って、クローゼットから持ってきたもの。

それを握りしめながら、
まさかババァに先を越されるとはな……と胸が熱くなった。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

コメント

  1. T より:

    ビターな二人の9話。バカな男のフォルダーにリンクされてますよ。

    いつも楽しみにしてまーす。
    バカな男また読んじゃいました。ぎゅっと苦しく切なくなって、良かったです。

  2. ゆきたろう より:

    つくしの決意を司を始め道明寺家が待っていたってこと
    災い転じて福となすのか・・・
    長い春にけじめをつけさせるのは幸くんかな
    つくしに勝ち目はないですよね

    • 司一筋 司一筋 より:

      いつもご訪問ありがとうございます!
      司もつくしもお互いの大事さに気付いて欲しいのでーす♡

タイトルとURLをコピーしました