携帯に届いた幸からのメールを見て、口角があがる。
「えっ!携帯が繋がったの?!」
牧野のその問いに俺は首を振る。
「道明寺、どういう事?ちゃんと説明して。」
目を赤くした牧野が俺を見つめる。
そんなこいつの頭をひと撫でしたあと俺は言った。
「2週間前に幸に登山用の時計をプレゼントした。」
「時計?」
「ああ。前から欲しそうにしていたから、夏休み前に特注で作らせておいたんだ。
登山に必要な性能はもちろん、GPSも付けたし、パソコンと紐付ければ、簡単なメールも送れるようにしておいた。
幸には、時間のあるときにパソコンと連結させて使えるようにしておけって言っておいたけど、まさかもうやってたとはな。結構難しい動作で時間がかかったはずなのに。」
すると、牧野がポツリと言った。
「先週はずっとパソコンの前に座って何かやってたから、もしかしたらそれだったのかも。」
幸からのメールは
「無事です。ママに心配しないでと伝えて。」
と、あいつらしい一文だった。
だから、俺もパソコンから幸に返信する。
「ママを泣かせたから、帰ってきたら覚悟しろよ。」
それを見て、校長や他の保護者からクスッと笑いが起こる。
とにかく、幸か無事だと言う事はわかった。
この場の雰囲気も一気に明るくなった。
あとは、日が昇るのを待って救助するだけだ。
「救助隊にGPSで居場所を特定させる。」
そう言うと、牧野の顔もようやく安心したように和らぐ。
あの時計の事をもっと早く気付けばよかった。
幸があの時計を持っていたとは思わなかったのだ。
プレゼントした時に、
「勿体なくて使えないな。家でコレクションとして飾っておくよ。」
と、言っていたのに、きちんとパソコンと紐付けて使える状態にまでしていたとは。
もう一度、救助隊とテレビ電話を繋ぎ、幸の時計のGPSから居場所を特定するよう頼むと、すぐにやってくれると言う。
救助が再開されるまではあと8時間以上ある。
現場の山まではここから1時間ほどかかるだろう。
朝までには俺たちもそこに行っていたい。
救助隊に、GPSのデーターの引き継ぎや幸からメールが来たことなどを伝え、ようやく一段落して振り向くと、そこに牧野の姿がない。
「牧野は?」
そこにいた保護者に聞くと、
「トイレに行くって言ってました。
付き合うって言ったんですけど、少し風に当たってくるから大丈夫だと。」
「ありがとうございます。」
俺はそう言うと、職員室を出る。
一番近いトイレには明かりが付いていない。
ならば、もう風に当たりに外にでもでたか…。
教職員玄関から外に出て辺りを見回すと、少し離れたところの石段にちょこんと座る牧野の後ろ姿が見えた。
そっと近付き、
「牧野。」
と呼ぶと、
ビクッと体を揺らし立ち上がる。
「道明寺。」
「大丈夫か?」
「うん。救助隊の人とは?」
「ああ、GPSから居場所も特定できるそうだ。」
「良かった…。」
そう言ってもう一度座り込むこいつ。
「…ほんと、…ありがとう。
道明寺がいなかったら、あたし……。」
俯く牧野の正面に回り、腕を取って立ち上がらせる。
そして、俺は言った。
「マジで、おまえからの電話に心臓が止まるかと思った。」
すると、牧野もコクコクと頷きながら、
「あたしも、幸が滑落したって聞いてびっくりして…」
と、続けたが、俺はその言葉を遮って言ってやる。
「ちげーよ。
俺は、…おまえが泣いてたから、死ぬほど焦った。」
「…え?」
キョトンとした顔で俺を見る牧野を、俺は思わず引き寄せて抱きしめる。
「…どう、みょうじ?」
「昔から変わんねーな。
俺は、おまえに泣かれるとマジで弱ぇーんだよ。」
こんな台詞を言わせるこいつはやっぱり俺にとって最強で、
相変わらず、俺の口は牧野を相手にすると、甘く囁くらしい。
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コメント
こんばんは(#^.^#)
幸凄いね時計とパソコンもうつないでるなんて
やっぱり司の子だね~~~
二人ラブラブモードに入ってきたようね・・・
相変わらず鈍感なつくしだけど
司今回凄くカッコいい❤
頑張れ司
ありがとうございます!
司くん、弱ってるつくしを全力で支えますよー。