ビターな二人 7

ビターな二人
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道明寺の胸に飛び込むと、抑えていたものが溢れ出し、みるみる内に道明寺のワイシャツを濡らしていく。

「牧野。何があった?」
あたしの背中を撫でながら道明寺が聞く。

「幸が、」

「幸が?」

「山登りの途中で滑落して、遭難したの。」

背中に回されていた道明寺の手が止まり、そのままあたしをきつく抱きしめる。

その時、職員室の扉が開き、校長先生が顔を出した。

「牧野さん、次の連絡が来るまで中で待ちましょう。」

その言葉に、道明寺から身体を離し頷くと、校長の視線が道明寺へと移される。

「校長の小林と申します。」
頭を下げる先生に、道明寺は躊躇なく答えた。

「幸の父親です。」

「あっ!そうですか。どうぞ、こちらに。」

道明寺に手を取られ一緒に職員室へ入ると、その場にいる教職員や保護者が道明寺を見つめる。

「幸の父親の道明寺です。詳しい状況を聞かせてください。」

先生や、仲のいいママ友はあたしがシングルマザーだという事は知っている。だから、道明寺の存在に少し驚いた様子だったけれど、すぐに「こちらへどうぞ。」と椅子をすすめてあたしたち二人を並んで座らせた。

校長から道明寺に詳しい説明がある。
あたしも何度も聞いた内容で、それ以上でもそれ以下でもない進展具合に苛立つしか出来ない。

すると、説明を聞き終えた道明寺が携帯を取り出しどこかに連絡をする。

「西田、俺だけど。
車からパソコン持ってきてくれ。
それと、山岳救助隊のトップと話したい。繋げられるか?……ああ、わかった。頼む。」

救助隊のトップ……?道明寺が言った言葉を頭の中で繰り返している内に、職員室の扉がノックされ、見覚えのある顔が現れた。

「失礼致します。」
何年かぶりに見る道明寺の秘書の西田さんだ。

「西田、サンキュー。」
そう言って西田さんからパソコンを受け取った道明寺は、他の人たちの視線に気付き、

「あ、これは俺の秘書です。
色々、使える奴なので、ここに一緒にいてもいいですか?」と、聞く。

「あー、どうぞどうぞ。」
慌ててパイプ椅子をすすめる先生に、あたしは涙目になりながらも少しだけクスッと笑みが漏れる。

ほんと、相変わらず俺様なんだから。
こんな場所で、こんな状況なのに、どんどん自分のペースで周りを巻き込んで突き進む道明寺。

あっという間にそこにいる人たちが道明寺のペースに飲み込まれていく。
それが、こんなに心地よくて心強いと思ったのははじめて。

「西田、すぐに繋がるか?」

「はい。こちらの準備が整えばいつでも。」

「オッケー。今、準備する。」

そう言いながら、パソコンを開いた道明寺は、カタカタとキーボードを打ち込み操作する。
そして、準備が出来たのか、あたしたちの方を振り向き、

「今から、救助隊のトップとテレビ電話で繋ぎます。」と言った。

「えっ?これで?」
思わずパソコンを指差して聞くあたしに、

「ああ。」
と、真っ直ぐにあたしを見て力強く答えた。

数分後、画面には山岳部の救助隊の制服を着た男性が映る。
今回の捜索で総指揮を取っているという方らしい。

まずは、現場の状況。
小雨が降っていて、日が暮れた今の時間からは救助は困難である。
幸以外のメンバーも一人足を負傷していて、現場近くの山小屋で救助隊と一夜を明かしたあと、朝下山する。
幸の携帯は繋がらない状態で、滑落した際に破損した事も考えられる。
下は木々が生い茂っていて、怪我の有無はなんともいえない。
夜はかなり冷えるので、なんとか今晩だけ寒さをしのいで耐えてほしい。

「日の出とともに、捜索を開始します。
ご子息の捜索は我々にお任せください。」

力強くそう言ってくれる救助隊の方に深々と頭をさげテレビ電話を終えた。

「朝になったら捜索が再開される。それまで待つしかねぇな。」
道明寺がポツリとそう呟き、あたしも大きく頷くと、

「あのー、」
と、校長が道明寺を見て言った。

「お父様はもしかして警察関係の方ですか?」

「え?」

「救助隊の方とお知り合いで?」

みんなの視線が道明寺に集まる。
すると、西田さんがあたしと道明寺の前に一歩踏み出して言った。

「申し遅れました。
こちらは、道明寺ホールディングスの副社長の道明寺司氏です。以前、山岳救助隊の訓練の際に、道明寺家の所有する山地を提供したことがあり、救助隊の指揮官とは深い繋がりがあります。」

その西田さんの説明と共に、道明寺がスーツから名刺を取り出し校長へ渡す。

道明寺ホールディングスの副社長。
その言葉に、その場の雰囲気が一気に驚きに変わる。

と、その時だった。
道明寺の携帯に短い着信音が響いた。

携帯を見た道明寺が、あたしを見てほっとしたようにクスっと笑い、言った。
「さすが、俺の息子。」

「え?」

道明寺の言葉の意味が分からず聞き返すと、道明寺は携帯の画面をあたしに見せて言った。

「幸からメールが来た。
ママに伝えてくれって。無事だから心配するなって。」

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コメント

  1. ゆき より:

    司一筋さま

    更新ありがとうございます。
    幸君が無事で安心して寝れます。
    何で幸から司に一報が入ったのか
    謎解きは次回ですね。
    司とつくしのラブラブな展開も待ってます。

  2. はな より:

    パパ司ー!!カッコいい!

  3. 葉月 より:

    おはようございます(*´▽`*)

    もう幸が心配でそして司の俺様ぶりはどこにいても健在で
    なんにしても幸無事で良かった^^
    読んですぐ次が気になって仕方ないです( *´艸`)

  4. ぽん より:

    あーん、よかった〜。ドキドキしながら続きを待っていました。それにしても司はいつの間にこんなカッコいいオトナになったんでしょう!

    • 司一筋 司一筋 より:

      わぁ、カッコいいと思って頂けて嬉しい!書きながら、頼もしくなった司が伝わるかしら…とドキドキでしたので♡

  5. あぁ より:

    おぉ=よかった
    これでこれから安心して、つかつくのらぶらぶ再開といきますか?
    続きが楽しみです(^^♪

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