ビターな二人 6

ビターな二人

幸の夏休みもあと僅か。
今日は山岳部のメンバーと日帰りの山登りを楽しむそうだ。

6時出発の幸の為に、あたしは5時起きでおにぎりを用意して送り出した。

来年は中学3年生。
このままいけば、山岳部の主将になるだろう幸は、本当にアウトドアが大好きだ。

きっと、小さな頃から道明寺邸の広大な敷地で思う存分遊ばせて貰えたことが影響しているのだろう。
夜暗くなるまで虫を捕まえたり、テントをはって星を眺めたり…、いつも道明寺が側で見守ってくれた。

最近は、めきめき成長し170cmを超えた身長。
その背中は、どんどんと父親に似てきて、出会った頃の道明寺を思い出すには十分過ぎるほど。

山登り用の大きなリュックを背負ったその背中に、いってらっしゃ~いと声をかけて見送った後、

あたしは一人玄関でぼぉーと昔の思い出に浸っていた。

………………………………

夕方、仕事が一段落し、準夜勤の看護師と申し送りをしている時、一本の電話がなった。

電話を受けた看護師があたしに受話器を向けながら言う。
「牧野さーん、お子さんの学校から電話。」

「え…なんだろう。」

夏休みのこの時期に、学校から電話なんて珍しい。
そう思いながら、電話に出ると、
教頭だという男性の声で、告げられた。

「幸くんが、登山中に滑落した。
一緒にいた山岳部メンバーが、警察や救助隊には通報している。
随時連絡が来ることになっているから、とにかくすぐに学校に来てほしい。」

そんな内容だったと思う。
頭が真っ白になり覚えていない。

職場を後にして、車に乗り込み、幸の学校まで無我夢中で走った。
学校には教職員の方が数名と、顔見知りの山岳部メンバーの保護者が集まっていた。

あたしの顔を見るなり、
「幸くんママ!」
と涙目で集まってくれる。

あたしが学校に到着するまでの時間にわかった事は、
山岳部メンバーで山を下りていたとき、一人のメンバーが足を滑らせて狭い山道から落ちそうになった。それを幸が後ろから助けた際に、支えきれなくて滑落したようだ。

持っているはずの携帯は繋がらない。
もうすでに日も落ち、あたりは真っ暗で、救助隊も迂闊に現場に近付けない。

もしも、もしも、重大な怪我をしていたら、
このまま朝まで待っていると……。

どうしても最悪な事が頭をよぎり、胸が締め付けられるほど苦しいのに、出来ることはただ祈るだけしかない。

張り詰めた雰囲気の職員室に電話の音が鳴り響いた。

「もしもしっ!」
教頭が出る。

「はい、はい……今、お母様に代わります。」

教頭から渡された電話を握り、耳に当てると、
救助隊だという方から伝えられた。

「行方不明になった現場を捜索しましたが、現時点では息子さんを見つけることが出来ませんでした。現場の状況から本日の捜索は打ち切り、明日の朝再開します。」

仕方ないとは分かっていても、絶望感が押し寄せて立っていることが出来ずにその場に座り込んでしまう。

支えてくれるママ友に小さく「大丈夫。」と言ったあと、あたしは職員室を出て廊下の先の階段に座った。

そして、ポケットから携帯を取り出し、迷わずその番号にかけた。

「もしもし。」

「……。」

「…牧野?」

電話の向こうから聞こえてくる道明寺の声に、今まで張り詰めていたものが切れ、涙が溢れ出す。

「ど、みょうじぃ。」

「っ!牧野?どうしたっ?」

「道明寺、…今すぐ…来て。」

「どこにいる?」

「幸の…学校。」

「すぐ行く。待ってろ。」

余計な事は聞かずに、すぐ行くと言ってくれる道明寺の優しさに胸が熱くなる。

電話を終えたあと、そのまま階段に座り、目を閉じていると、どれぐらい経っただろうか、

ガタンというドアが開く音と、
「牧野っ。」という呼び声が聞こえた。

目を開けると、スーツ姿の道明寺。

あたしはその姿を見て、再び涙腺が崩壊する。
そして、もう気持ちを抑えることができずに、

道明寺の胸に飛び込んだ。

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