テレビ会見を行った2日後の週末、
牧野とメープルのレストランでゆっくりと食事をした。
デートらしい事をしたのはこれが初めてだ。
ワインを2杯ほど飲んで頬を赤くしている牧野。
このあとプライベートルームへ連れていき、あれやこれや楽しめると思うと、鼻の下が伸びる。
昔も今も、恋愛にのめり込むタイプではないと思っているが、牧野という存在が確実に俺の原動力になっているのは間違いない。
付き合って半年、でも、牧野に惚れてからもう5年近くになる。
25歳のこいつにはまだ早いかもしれねーけど、俺的には『結婚』という言葉がチラつき始めている。
それには色々と準備する事が多そうだが、
まずは本人であるこいつからジワジワと攻略していくしかない。
「牧野。」
「ん?」
「今度、俺の家に来るか?」
「え?なんで?」
デザートを食べながら、きょとんとした顔で聞き返すこいつ。
「なんでって、そろそろ親にも紹介してーし。」
そう言うと、牧野は持っていたスプーンをテーブルに置いた。
「将来の事を考えたら、早めにお互いの親にも会っておきたい。おまえのご両親には以前会ったことがあるし、いつでも呼ばれれば会いに行く用意は出来てる。
けど、うちのババァは、…母親はNYと日本を行き来してるから、日本にいるタイミングでおまえの事を紹介しておきたい。」
すると、不安げな牧野が一言、
「あたしで大丈夫かな。」
と、呟く。
「あ?」
「だって、道明寺と付き合う人はそれなりにきちんとした家柄の人で、多分お母様もそういう人を、」
「俺の相手は俺が決める。」
「…道明寺。」
「道明寺家に生まれたのは俺の選択じゃねーけど、道明寺司としての生き方は俺が決める。」
そう俺が言ったとき、牧野の目線が俺の斜め上に移動するのが分かった。
そして、ゆっくりと立ち上がった牧野は、
「…あっ、…どうも、こんばんは。」
と、頭を下げる。
知り合いか?と思いながら俺もその方向へ視線を移すと、そこに立っているのは、まさかの、
ババァだった。
あまりの驚きに声が出ない俺とは対象的に、ババァが牧野へ言う。
「お久しぶりね。お元気?」
「あっ、はい。おかげさまで、学園で働かせて頂いています。」
「そうらしいわね、噂は聞いているわ。」
状況が飲み込めない俺は、慌てて立ち上がり、
「ババァ、どういう事だよ。」
と、言う。
「司、人前でその呼び方はおやめなさい。」
「……。おふくろ、牧野の事知ってるのか?」
俺がそう聞くと、今度は牧野が驚いた声を出した。
「えっ、道明寺のお母様って、……」
どうやら状況が飲み込めているのはババァ一人らしい。
驚く俺と牧野を横目に、ババァは俺の隣の席に腰を下ろした。
そして、俺達が黙って座るのを待ってから話し始めた。
「司、聞いたわよ。
学園の電波を使って、堂々と交際宣言をしたらしいじゃない。相手はこちらの牧野さん?」
「……ああ。彼女と付き合ってる。
っていうか、ババァ、牧野の事知ってるのかよ。」
「ええ。英徳学園に牧野さんを採用したのは私ですからね。」
「あ?」
どういう事だ?という顔で牧野を見つめると、
「採用試験の面接官だったの。
道明寺のお母様だとは今まで知らなくて。」
と、申し訳無さそうに俯く。
「大学に在学中から成績優秀だった牧野さんには目を付けていたのよ。司にテストで勝つくらいですから相当勉強もしているはずだと思って、悪いけれどあなたの事も調べさせてもらったわ。
真面目で勤勉、面接時の対応も良かったから、迷わず採用に判を押したの。」
ババァのその言葉に、俺は思わず感嘆の声を漏らす。
「わぁ、さすが親子だな俺ら。
ババァも牧野の事が気に入ったって事だろ?
すげーじゃん、やっぱ、惹かれるものが同じって。」
「得意気に言うんじゃないわよ。」
「これで、親に紹介するっつう過程はクリアだな。」
「紹介?」
「ああ、結婚したいと思ってる。」
流れでそう口走る俺に、
「道明寺っ!」
と、牧野が困った顔で言う。
「まだ付き合ったばかりでそんな……、」
そう口籠る牧野に、今度はババァが言った。
「司、堂々と交際宣言したのはいいけれど、すぐに振られるような事にならないといいわね。
彼女から結婚の同意を得たら、改めて3人で食事でもしましょう。」

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