シークレット 29

シークレット

仕事が終わり自宅へ帰る途中、携帯が鳴った。
画面を見ると、
「お姉さん」
と、ついこの間登録したばかりの名前。

「もしもし。」
慌てて出ると、

「つくしちゃん。」
と、落ち着いた声のお姉さん。

「はい。」

「つくしちゃん、今どこ?」

「家へ帰る途中ですけど、」

「そう。本当は会って話したいけれど、また誰かに写真でも撮られたらつくしちゃんに迷惑がかかるから、やめておくわ。
つくしちゃん、本当にごめんなさいね。」

「え?お姉さんが、どうして謝るんですか!」

「だって、司と交際しているせいで、職場では辛い思いをしているでしょ。
私があの時シークレットで……なんて言わずに、きちんと準備が整ってから交際するように司を説得していれば、」

申し訳無さそうにそう言うお姉さんに、あたしは頭をブンブン振って答える。

「それは、違いますっ。
付き合うと決めたのはあたしだし、それに、
……あたしも道明寺と一緒に居たかったから。」

シークレットか、そうでないかは関係ない。
あたしたちの気持ちはもう、あの頃から誰にも抑えられなくなっていたから。

「お姉さん、あたしは大丈夫です。」

「つくしちゃん、ありがとう。
司は、どうすればつくしちゃんを守れるか考えてるわ。司を信じて、待ってあげて。」



お姉さんとそう話してから2日後、
朝、出勤すると
『10時から理事長のテレビ会見がある』
と、副園長からお達しがあった。

放送室にあるカメラで撮影された映像が、各教室に備え付けられた大型テレビにリアルタイムで流されるのだ。

先日改正された校則について、理事長の口から直接説明があるらしいと、生徒たちも朝から浮足立っている。

少なからず批判的な目で見られている今、教師や生徒の前に立たなければならない道明寺の気持ちを考えると、あたしもそわそわと落ち着かない気持ちになる。

2時間目の授業が始まって15分ほどで10時。
教室のテレビが付けられ画面にスーツ姿の道明寺が映し出された。

それだけで、女子生徒達から小さな悲鳴が響く。

「おはようございます。」

画面越しに見る道明寺は、いつもと変わらない。
人前で話すことも、注目を浴びることも、この人にとっては大した事ではないのかもしれない。
そう思わせるほど、淡々としていて、あたしの緊張も徐々にほぐれていく。

改正された7つの項目について、理事長から一つ一つ丁寧に補足説明があり、生徒たちもそれに聞き入っていた。

そして、テレビ会見が40分を過ぎた頃、最後の1つである校内恋愛についての説明を残すだけになった。

今まで1つのミスもなく淡々と説明してきた道明寺が、一度ふぅーと大きく息を吐いたあと、
「皆さんに聞いて貰いたいことがあります。」
と、切り出した。

「数年前ですが、わが英徳学園の校内恋愛禁止という校則に苦しめられた一人の男がいました。
彼は、大学3年生。
相手の女性は1つ下の大学2年生。
それまで女性に全く興味のなかった男が、彼女に出会って恋に落ちて、初めて好きだと告白しました。」

道明寺がそう話すと、生徒たちも一気にその話に引き込まれていく。

「けれど、告白したのにその女は、男に何度も言った。これは規律違反だって。
英徳では、生徒の自由恋愛を禁止しているからダメだと。
生まれてはじめて好きな女に告白したのに、その答えが好きでも嫌いでもなく、規律違反。ふざけんなっ。
規律?自由恋愛禁止?人を好きになるのに規律なんて関係あるかよっ。」

あぁー、やっちゃった。
興奮して、いつもの素の道明寺が出始めている。

「その後、ちゃんとした答えも聞けないままその男は留学をして、女とはそれっきり。
それから4年たって、二人は再び英徳で再会しました。」

そこまで言うと、生徒たちも気づき始める。
これが、道明寺とあたしの話だと言う事を。
チラチラとあたしの方を見ながら、ニヤニヤと話す生徒たち。

「再会して、彼女を見た途端、マジで自分に腹がたった。
4年かけて必死に消したはずの感情なのに、ひと目見ただけで……彼女が好きだと……。」

もう、あたしたちの事だと確信した生徒たちが、キャ~と騒ぎ出し、中には涙ぐむ女子までいて、あたしは頭を抱え机に突っ伏した。

「再会してすぐに、男は女に言った。
ずっと好きだったと。
けど、あいつ、なんて言ったと思う?
また、規律違反だって言いやがった。
マジで、クソくらえと思った。
学生の時もそれで苦しめられたっつーのに、大人になって理事長と教師になっても、俺たちはこの規律に縛られるのかって。」

そこまで言った道明寺は、また大きく息を吐いたあと椅子に座り直して言った。

「もう、ここまで聞いて分かったと思うが、これは俺と牧野つくしの話だ。
牧野っつー女は、マジで頭が固くて、勉強とバイトの事しか考えてねぇクソ真面目な女で、俺が何度も好きだっつっても、平気な顔でスルーするような女だけど、」

信じらんない、バカ。

「けど、規律なんてぶっぱらって、俺の事を好きかって聞いたら、1度だけ好きだって言ったから、」

後で殴ってやる。

「だから、それなら、規律なんてなくしてやろうと思った。
恋愛禁止の規律を無くしたのは、確かに俺達の恋愛を正当化したかったからかもしれない。
4年も待って、ようやく好きだと言わせたんだ。
逃してたまるかよ。」

女子生徒が足をバタバタさせて興奮しているのを見て、あたしは頭痛がしてくる。

「ただ、規律を改正したのは決して自分の保身のためだけじゃない事はわかって欲しい。
俺はおまえら生徒の事を心から尊重してる。
10代だろうが、誰かの息子、誰かの娘だろうが、そんなの関係ねえ。人を好きになるのに資格なんてねーし、罰することも出来ねぇだろ。」

確かにそうだ。
道明寺財閥の息子、校内規律、そういうものに囚われて道明寺自身を見なかったあたし。
けれど、一人の男として見たときに、ようやく自分の気持に気付けた。
道明寺が好きだと。

「だから、おまえらは自由に恋愛をして欲しい
親や教師に反対されたら、俺のところに来い。
いつでも相談にのってやる。」
ニヤッと笑いながらそう言ったあと、

「ただしっ、好きな女を泣かすような恋愛はすんじゃねーぞ!
以上っ。」と、指を突きつけて言い放った。

ぷつっと切れたテレビ画面を見つめていた生徒たちが、一斉に「わぁーーー!」とあたしに押しかけてくる。

「牧野先生っ、理事長めっちゃカッコいい!」
「愛されてますねっ、羨ましいっ!」
生徒にもみくちゃにされながらあたしは思う。

確かに、道明寺、
あんた、カッコいい。

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