学園が休みの土曜日。
午後から街へ出て、久しぶりにゆっくり買い物をしていると、携帯が鳴った。
見たことのない番号。
でも、なかなか鳴り止まない携帯を見つめ、恐る恐る通話ボタンを押すと、
「つくしちゃん?」
と、聞き覚えのある声がした。
「あー、はい。
もしかして、道明寺のお姉さんですか?」
「そう。
今何してるの?」
「今ですか?
えーと、買い物中ですけど。」
そう答えるあたしに、お姉さんが言う。
「ご飯一緒にどうかしら?」
「え?…二人で、ですか?」
「そう。私と二人なら嫌かしら?」
「いえっ、そうじゃなくて。」
嫌な訳ではないけれど、たった一度しか会ったことがない道明寺のお姉さんと二人で食事とは、かなりハードルが高い。
その時、たった今入ろうとしていたお店の中を覗き込みながら、あたしはある事を思いつく。
「あのー、お姉さん。
食事の前に、ちょっと買い物付き合って頂けませんか?」
「買い物?もちろんよ〜。
どこに居るの?すぐ行くわ。待ってて。」
あたしの誘いに大はしゃぎのお姉さん。
すぐに切れた電話を見ながら、あたしは思わずクスッと笑った。
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30分程であたしの前に現れたお姉さんは、バーで会ったときもそうだったけれど、見惚れるほどに綺麗な女性。
さすが、この姉にしてあの弟あり。
遺伝って裏切らないのね…。
なんて、思っていると、
「行くわよ、つくしちゃん。」
と、あたしの手を取りお店へ入っていく。
そういう迷いのない所もあいつと似ている。
お姉さんに付き合って貰いながら、どうしても買わなくちゃいけなかったのは、
『水着』
来月に迫った英徳の修学旅行。
あたしも同行する事に決まったのだが、その行き先はなんとハワイ。
海外旅行すら初めてのあたしは、準備だけでも大忙し。
特に水着はどんな物を選んでいいのか見当もつかない。
出来るだけ露出が少ない物を…と思っているけれど、あまり地味だと現地で浮いてしまうと、どこかの旅行雑誌で読んだ覚えがある。
その点、お姉さんなら海外事情に詳しいし、センスもあるので最適なものを選んでくれるだろう。
「つくしちゃんは何色が好きなの?」
「あたしは、んー、黒とか青とか、目立たないのでいいんですけど、」
「でも、つくしちゃん。色白だから、そういう色を選ぶと余計にセクシーに見えちゃうわよ。」
「せ、せ、セクシーですか?」
「胸はあまり大きくはないわよね。Cカップくらいかしら。それなら、谷間が綺麗に見えるこのデザインがいいわ。
そして、色はオレンジとグリーンが入ったこんな柄はどう?」
「これですか?!
無理ですーー、こんな面積の小さい水着なんて着れませんっ。」
「プッ……つくしちゃんって可愛いわね。
大丈夫よ。ハワイにいる人なんて若い人からおばさんまで、みーんなこんな水着着てるから。
恥ずかしがらずに堂々してないと、逆に目立つわよ。
さぁ、試着してみてっ!」
お姉さんに押されて試着室に入る。
こんな大胆な水着は人生はじめて。
スクール水着止まりのあたしには勇気がいる。
迷っているうちに、
「どう?」
なんて、お姉さんからの声が聞こえ、あたしは慌てて水着に着替えた。
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夕食はお洒落なイタリアンのお店へ。
買い物に行くからといつもより少しお洒落をしてきて良かった。
小一時間ほどお姉さんと楽しく食事をしていると、
「俺抜きでデートかよ。」
と、低い声が聞こえた。
振り返ると、ラフな服装の道明寺。
「道明寺っ。」
「私が呼んだの。後で知られて拗ねられたら困るから。」
昨夜、道明寺に『明日は会えるか?』と聞かれたのに、水着を買いに行く予定だったあたしは、
「用事があって…」と断っていたのだ。
だから、この状態で来られると、まともに目を合わせられない。
そんなあたしの気持ちを知ってか、
あたしの隣に座るなり、
「俺の誘いを断わって、姉ちゃんを選ぶのかよ。」
と、言ってくる。
「それは……、」
「司、つくしちゃんをいじめないの!
分かってるわよね?つくしちゃんとの交際はまだ秘密なのよ。
休みの日だからって、デートに誘ってつくしちゃんを困らせちゃダメよ。」
「……分かってる。」
そう呟く道明寺の顔が、本当に落ち込んでいるようで、らしく無い表情が少しだけ気になる。
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