総務課の牧野さん 28

総務課の牧野さん
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長かった2週間の出張を終えプライベートジェットで日本へと帰国している途中、
仕事中のあいつに電話を入れる。

「……もしもし?」
すげー小声で電話に出るこいつ。

「俺だ。あと二時間でそっちに着く予定だけど、メープルで打ち合わせしてから社に戻るから夕方に、……」
そこまで話す俺に、

「わかった、……切るね。」
そう言って勝手に話しをたたもうとする。

「待てよっ、なんだよ」

「だって、仕事中なのっ。」

「あ?」

「とにかく、切るねっ!」

「切るなって。」
せっかく声を聞けたのにすぐに切るのは惜しい。

「もぉーー、何よっ。
課長、戻ってきたらまずいんだって。」

「夜空いてるよな?」

「はぁ?」

「今日の夜だよ。食事行こうぜ。
久しぶりに和食が食いてぇ。」

「んー、はい、そうですね。
……えーと、それでは一応そういうことで考えておきますので、またご連絡します。」
急に敬語に切り替わるこいつ。

「あ?なんだよ気持ちわりぃな。」

「はい、わかりました。至急手配しておきますので。」

「課長がいるのか?」

「えーまぁ、そうですね。」

「ぷっ……社の電話にかけ直そうか?
その方が話しやすいか?」

「いえ、大丈夫です。」

「夜は何も予定入れてねぇから、二人でゆっくり過ごそうぜ。
なんなら、おまえ明日有休取ったら?」

「はぁ?なんでっ!
あっ、いえ、すみません。
それは無理かと……。」

「いいじゃん。
朝まで離してやれそうにねーから。」

「……その件についてはまた後日。」
都合が悪くなると、得意の棒読みで答えるこいつ。
そろそろ切らねぇと、マジで怒らせるかもしれねぇ。

「後でな。楽しみにしてる。」

「ん。」

たった一文字の返事なのに、それに含まれる甘さが堪らない。
早く会いてぇ。



日本に着いた足で、そのままメープルへと移動した俺は、ここで1件打ち合わせを済ませたあと、
社に戻ろうとホテルのロビーを歩いていた時、ふと見知った顔を見つけて足を止めた。

ブライダルコーナーのパンフレットを見ているカップル。
俺はその二人の背後にそっと近付き声をかけた。

「よぉ、弟。」

「わぁっ、し、支社長っ!」
ロビーに響き渡るほどのでけー声で驚く牧野の弟。

「何してる?」

「いや、あのぉー、結婚式のパンフレットを貰いに……。」
そう言って隣の女と顔を見合わせる。

「結婚するのか?」

「まだ、決まってませんけど、来年の始めには……と。お金もまだ貯まってないので具体的には考えてないですけど、今のうちに色々リサーチしとこうかなと。ね?」
そう言って二人で仲良く笑い合う姿を見ると、俺らもそういう歳なんだと改めて実感する。

「なら、決まったら俺に連絡しろ。
ここで式あげれるよう手配してやる。」

「えっ!そんなっ、メープルであげるなんて、そんなお金もないし、ただの参考までにパンフレット貰いに来ただけですからっ。」
そう言って手をブンブン振って慌てる弟。

「いんだよ。金のことは心配すんな。
おまえのねーちゃんの社員割引でなんとかしてやる。」
そんなのがあるはずもない。
メープルで式をあげるとなると、他の倍はかかるだろう。
だけど、いんだよ。
おまえとは、……家族になる予定だからな。

そんな言葉は飲み込んで、俺は胸ポケットから名刺とボールペンを取り出すと、その名刺の裏に携帯のプライベート番号を書いた。

その時、その俺の姿をじっと見ていた弟がポツリと言った。

「そのボールペン、懐かしい。
見つかったんですね。」

「…………あ?」
一瞬、何を言われたか理解できなかった俺は、書く手を止めて、顔をあげ弟を見つめる。

「あっ、だいぶ前になくしたって聞いてたから。」
ますます分からない言葉をつなげる弟に、

「このペン、見たことあるのか?」
俺はそう聞いていた。

「え?……それって、ねーちゃんのじゃないんですか?
すみません、俺てっきりねーちゃんが支社長に貸したのかと思って。」

「おまえのねーちゃんが?」

「そうです。ねーちゃんのペンにそっくりだったから。
就職祝いに両親がシャープペンとボールペンの2本セットでプレゼントしたのに、最初の研修で無くしてきたから、さんざん両親に愚痴られてたのを思い出して。」

「研修?」

「はい、確かNYに新人研修に行ったときです。
んー、四年前かな。
でも、さすが道明寺HDは違いますよね。
新人研修が本社のNYなんて、………支社長?」

完全に俺は固まった。
四年前、研修、NY、そしてこのペン。
まさかな……そんな思いを今まで何度か打ち消してきたけど、やっぱりあれはあいつだったのか?

NYの大停電の中、広い部屋に小さく灯る1本のキャンドルの中で愛しあった俺たち。
そして、次の日には夢だったかのように消えたあいつ。
何度後悔したか。
名前を聞けばよかった。
あの朝、コーヒーを買いに眠るあいつを置いて、部屋を空けなければよかった。
照れなんてどうでもいい、欲望のままにもっと正面から見つめればよかった。

俺はゆっくりとそのボールペンを胸にしまい、

「弟、サンキュ。
これ、あいつに返してくるわ。」
そう言ってホテルをあとにした。

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