総務課の牧野さん 27

総務課の牧野さん
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完全に悪いのは…………あたし。
5日前の電話。
どこをどうしてあんな話になったかなんて、もう覚えてないけど、あの人を怒らせるようなことを言ったのは確実。

現に、毎日あった電話があれから1度も鳴らない。
「繋がってるってことが大事なんじゃねーの。」
あの言葉、今なら理解できる。

あたしたちは……切れてしまったのか。
あの人は、あたしが他の人を今でも忘れられないと思ってるはず。
誤解を招くような言い方をしたあたしが悪いけど、でも、昔の彼女さんを想っている支社長に、
「あのとき一夜を共にしたのはあたしです。
あのときから忘れられなかった。」
なんて、…………言えそうにない。

言って傷つくのが怖いんだと思う。
あんな一夜のことを覚えているかも分からないし、今まで関わってきた大多数の女性の中の一人でしかないあたし。
それを思い知らされるのが怖い。

あの電話から、今日で5日目。
今日こそ、勇気を出してあたしから電話してみるっ。


「支社長、次の会議まで10分あります。」

「おう。」

西田がこまめに空いた時間を知らせてくれる。
ついこの間までは、その時間を待ってたかのようにあいつに電話してたけど、あの日からあいつの声を聞いてない。

デスクでボーっとしたまま考え込む。
「知れば知るほど好きになっちゃう。」
はぁーーー。
今日何度目かの深い溜め息をつくと、手からボールペンがコトリとデスクに落ちた。

べっこう柄のそのボールペン。
忘れられない女。

俺はそのボールペンをじっと見つめたまま思う。
人を好きになるって言うのは理屈じゃねぇ。
たった数時間しか一緒にいなかったのに、もう4年も引きずるほど強烈に愛した女。
そして、次に愛した女は、
1度も俺を好きだと言ったこともねぇし、恋人らしいことさえ言わねぇ女だけど、どうしようもなく可愛くて愛しい女。

目をつぶるとなぜかその二人が重なる。
あの濡れた髪、抱きしめる感触、甘い香り。

俺のことを経験バリバリ……だと勘違いしてるあいつに、
「忘れられない女は四年前に1度だけ体を重ねたことがある女だ。」
なんて口が避けても言えねぇ。
それこそ、あいつの勘違いを増長させるようなものだ。

休憩時間、残り3分。
その時胸ポケットの携帯が鳴った。

液晶には
「総務課 牧野」
の文字。

「もしもし」

「もしもし、……牧野です。」

「おう。」

「仕事中ですか?」

「いや、3分だけ話せる。」

「3分…………、またかけ直します。」
そう言ったこいつは、すぐに電話を切るのかと思ったけど、なかなかプツリと音がしない。

「おいっ、」

「あっ、支社長から切って下さい。」

「あ?おまえから切れよ。」

「嫌です。かけたのはあたしなんですから、切るのは支社長から。」
どう考えても意味の分からない理屈を言って切らねぇこいつ。

「…………なんか用あってかけてきたんだろ?」

「いえ。」

「用も無しでかけたのか。イタズラ電話かよ。」

「……用はないけど、……意味はあります。」
拗ねたようにそう言うこいつは可愛いけど、意味がわかんねぇ。

「あ?」
時間がねーんだから、ちゃんと話せよっ、そう思って聞き返す俺に、
耳がキーンとなるほどでけー声で、こいつが、

「繋がってるってことが大事なんですっ。」
そう言って切りやがった。
完全に言い逃げ。
自分が使った言葉なのに、どうしてこいつが言うとこんなに破壊力があんだよっ。
可愛いこと言うんじゃねーよ、バカ女。

「支社長、時間です。」
携帯を持ったままにやける俺に、西田がそう声をかける。

「わりぃ、1分だけくれ。」
俺はそう言って携帯からあいつの番号を押した。

「……もしもし。」

「言い逃げすんじゃねーよ。」

「3分たってますけど?」

「追加で1分貰った。」

「…………うん。」

「あのよ、…………
俺の方から説明しなくちゃいけねぇ誤解とか、おまえから説明してもらいたい話とか、たくさんあるけどよ、……とりあえず今は全部置いといて、
…………あと3日で帰る。早く会いてぇ。
牧野、俺はおまえが好きだ。
他の誰でもなく、おまえしか見てねぇ。
だから、おまえも、」

俺だけを見ろ…………と続けようとした言葉は、こいつの強烈な反撃で打ち消された。

「あたしも、……早く会いたい。
寂しい。支社長が……好き。」

言われた耳が熱い。

「聞こえなかった、もう一回。」

「はぁっ?……言わないっ!」

「最後のだけでもいい、もう一回。」
マジな声でお願いしてみると、

「……好き。」
と小さく呟く声。

「誰を?」

「んー……道明寺 司。」
唸りながらもなんとか言ってくれるこいつ。
だから、更にお願いしてみる。

「ちゃんと続けて言えよ。
誰をどう思ってるかって。」
顔が緩むのを抑えらんねぇ。

「ラスト10秒しかねーから早く。」

「……道明寺が好き。」

「思いっきり棒読みしてんじゃねーよっ!」

叫ぶ俺の声も無視してプツリと電話は切れた。

「支社長、お時間ですが…………顔を引き締めて頂かないと困ります。」
一部始終見ていた西田が、相変わらずのポーカーフェイスでそう言った。

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