会社に戻りデスクにつくと、すぐに手帳を取り出し来週のスケジュールをチェックする。
火曜と金曜の夜なら7時にはオフィスを出れる。
その時間なら牧野も仕事を終わらせて会えるだろう。
そして、次にパソコンを立ち上げ長期的なスケジュールを管理しているページを開き、1年間の仕事の内容を確認する。
月曜と水曜は本社で会議が必ず入っているからダメだ。
木曜の午前中ならオフィスで仕事をしているから、その時間なら大丈夫か。
そうブツブツと呟いたあと、内線で
「西田、ちょっと来てくれ。」
と、秘書を呼び出す。
すぐにオフィスに入ってきた西田に、
「これから毎週木曜の午前中は英徳高校に行くからそのつもりでスケジュールを組み立ててくれ。」
と、伝える。
すると、案の定西田は怪訝な顔で俺を凝視したあと、
「副社長?それは、どういう意味でしょうか?」
と、聞きやがる。
「理事長として、週に1回くらいは学園にいた方がいいだろ。」
「ですが……、あまり急な仕事はないので、それでしたらオフィスで待機して、何かあったときだけ学園に足を運ぶという体制で良いかと。」
「西田、おまえは分かってねーな。
学校っつーのは、若者が日々切磋琢磨して成長している場なんだぞ。それを理事長が見てやらないで誰が見るんだよ。」
「はぁ…。」
怪訝な表情で答えた西田は、
「分かりました。」と言って部屋を出ていった。
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その夜、牧野に電話をして
「火曜日、会えるか?」と聞くと、
「会えるけど……」と言ったあと、
「新宿の〇〇ビルって分かる?」と聞いてくる。
「知らねーけど。」
「そこで待ちあわせしよう。7時でいい?」
と、意外に積極的に言ってくる。
「おう。」
と返事をして、はやる気持ちを抑えつつ、
今日がその待ち合わせの日になった。
約束通り、7時少し前に〇〇ビルに行くと、まだ牧野は来ていない。
5分ほど待っていると、「道明寺。」と言って牧野が現れたが、想像していた様子と違って少し驚く。
今日のこいつは、ダボッとしたパーカーに細身のジーンズ。頭にはキャップを目深にかぶって、パッと見では牧野とは思えない出で立ち。
それに比べて、俺は一応、こいつに会うために高級スーツで決めてきたが、この牧野の姿を見れば、予定していたフレンチのレストランは入ることすら無理だろう。
「ごめん、待った?」
「いや。」
「あのね、そこの裏通りにラーメン屋があるの。
今日はそこでいい?」
せっかく二人で食事に行くのに、ラーメンかよ…と思ったが、スタスタ歩き出す牧野に俺は黙ってついて行く。
裏通りに入るとすぐに、小さなラーメン屋が見えてきた。
「ここ。」
そう指差して牧野は店に入っていく。
「いらっしゃいませ~。」
店に入るとカウンターが5席とテーブル席が2つの小せえ店内。
そのカウンター内から、「あれ?牧野さん?」と男が声をかけてきた。
「こんにちは〜。お久しぶりです。」
「なんか、今日はいつもと雰囲気違いますね。」
「あー、ちょっと。」
「そこのテーブル席にどうぞ。」
牧野はここの常連か?そう思いながら席につくと、「道明寺、醤油にする?味噌にする?」と牧野が聞く。
「…醤油。」
「じゃあ、醤油2つで。」
カウンターに向かってそう言ったあと、牧野がかぶっていたキャップを脱いだ。
サラサラの髪とピンクのリップに胸がドキリと鳴る。
やっぱ、俺の心臓はこいつにだけは反応するらしい。
「道明寺。」
「ん?」
「あの人、見覚えない?」
「あ?」
さっき牧野と話していたカウンターの男を見ながら牧野が言う。確かに、どこかで会ったような気もするが。
すると、その男がラーメンを持って俺たちのテーブルに近付いてきた。
その顔や体型を見て、一気に記憶が蘇る。
「あっ!こいつ、あの時の?」
「そう。美咲ちゃんに熱を上げてたあのお客さん。公園のトイレであたしたちを襲おうとしたあの人。」
「マジかよ。」
「あの後、お店に謝りに来たの。本当に悪かったって。道明寺に叱られて正気に戻ったみたい。それからは真面目にここで働いて今では店長。」
男が俺に向かって
「あの時はすみませんでした。」と、頭を下げカウンターへ戻っていく。
それを見ながらニコニコと「いただきま~す。」とラーメンを食う牧野を見て、俺もクスッと笑って久々のラーメンに口をつけた。
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店を出ると、また牧野はキャップを目深にかぶって歩き出す。
この後はどこか落ち着いたところで呑み直すか?
そう思いながら、表通りに出ようとした俺を、
「道明寺、こっち。」と言って牧野は細い道へ入っていく。
「おい、どこに行くんだよ。」
「どこかカフェでも入る?」
「ホテルのラウンジで呑むか?」
「え?ホテル?」
言い方を間違えたか?牧野が驚いたように聞き返す。
「いや、道明寺系列のホテルがあるからそこのバーで」
そこまで言ったとき、牧野が急に俺の腕を取り近くにあるビルの影まで強引に引っ張っていく。
「な、何だよ。」
「シッ!英徳の生徒がいる。」
「あ?」
牧野が指差す方を見ると、英徳の制服を着た3人の生徒が歩いて来るのが見えた。
狭い場所で密着する俺たち。
その近さに牧野が、小さく「ごめん。」と呟く。
生徒たちは俺たちに気付くことなく前を通り過ぎていき、ホッとしたように牧野が俺から離れようとする。
その体を俺はもう一度引き寄せ
「牧野。」と呼んだ。
「えっ?」
「ちゃんと説明しろよ。
なんで隠れる?」
「だって…一緒にいる所見られて噂になったら大変。」
「あ?」
「道明寺、あんた忘れたの?
英徳は男女の恋愛禁止でしょ。生徒はもちろん、先生もだからねっ。」
マジかよ……。
学園内に未だに引き継がれている恋愛禁止の規律。それを大人になった今、また俺たちを縛ろうとしていた。
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コメント
先生もっ!!!
司一筋さんは鬼なのぉ~~!
引き裂き魔なのぉ~~
!!
大丈夫、大丈夫♡笑
落ち着いておくれ。
4年我慢した司くんはおとなしく出来ませんのでーーー!