授業が終わり自分の部屋へ戻ると、あたしは椅子にペタンと座り込んだ。
英徳高校の教師には一人ひとり準備部屋といって小部屋が与えられている。
デスクと本棚、コピー機などを置けばもういっぱいの部屋だけど、大勢が揃う職員室よりは落ち着くことが出来て有り難い。
進路の相談や勉強のアドバイス、時には女子生徒の恋バナもここで聞いたりもする。
今も、この間のテストの回答でわからない所があると、生徒が聞きに来る予定なのだが、あたしの頭の中はさっき見た光景で埋め尽くされていた。
さっき、いたのは道明寺?
いや、まさか。
でも、あの人を見間違えることなんてあるだろうか。
そんな事を考えていると、ふと先月配られた分厚い資料を思い出した。
確か、学校の運用と経営システムが変更になるとか言っていたけれど、あたしには全く関係ない事だと思って、忙しさにかまけてスルーした資料だ。
それを本棚の隅から引っ張り出してきて、あたしは急いで目を通した。
やっぱり……。
そこには新理事長として『道明寺司』と名前があった。
思わずため息が漏れる。
忘れたはずのあの人と、こんな風に再会するなんて。
その時、トントンとドアを叩く音がして、あたしは我に返る。
そうだった、生徒が来る予定だったんだ。
「はい、どうぞー。」
いつもどおりの返事をして、机に広げた資料を封筒へ押し込み、
「ここに座って。」
と、デスクを挟んであたしの正面の椅子を指差しながら生徒を見ると、
そこ立っていたのは、まさかの道明寺だった。
思わず、
「道明寺っ。」
と、叫んだあと、口を押さえるあたし。
道明寺は何も言わず、あたしの正面に座り、
「まさか、英徳の教師になってるとはな。」
と、小さく呟いた。
「元気だったか?」
4年ぶりにまっすぐにあたしを見る道明寺。その瞳はあの頃よりも強く感じられる。
「うん。
理事長になったんだ。」
「ああ。英徳にはいい思い出がねーのにな。」
「そう…なの?」
聞き返すあたしに、道明寺は目を細めて怖い顔で言う。
「好きな女に振られて、泣く泣く去った母校だからな。」
この人は4年前の事を言っているのだろうか。
「……それは、……」
口籠るあたしに、道明寺はニヤッと笑ったあと、突然聞いてきた。
「彼氏は?」
「…え?!」
「彼氏はいるのかよ。」
「…いー、ないけど、」
「OK。携帯かせ。」
「はぁ?」
「いいから、早く携帯出せよ。」
「なんでよ。」
「理事長だぞ、逆らうのか?」
この人は4年たっても相変わらずだ。
あたしの机の上にある携帯を見つけた道明寺は、素早くそれをとって開き、手早く操作すると、道明寺のポケットに入っていた携帯が軽く振動し始めた。
「俺の携帯、登録しておいたから、来週飯食いに行こうぜ。」
「はぁ?ちょっとっ!」
「それとも、前みたいにおまえの実家で食ってもいーぞ。」
「勝手になんでも次々決めないでよ、」
抗議しようとしたその時、トントンと部屋にノック音が響いた。
顔を見合わせて黙るあたしたち。
「生徒が来ることになってたの。」
小声で道明寺にそう言うと、
「じゃあ、またな。」
と、笑って部屋を出ていく。
入れ替わりに入ってきた女子生徒二人が、道明寺を見たあと、あたしに詰め寄るように言ってくる。
「牧野先生っ、今のって、道明寺司じゃないですかっ?!」
「…そー、だけど?」
「きゃー、やっぱり!初めてみたーっ!
カッコいい!なんで?なんで、ここに?」
「あー、ちょっと、理事長と話があって。」
「いやーん、私もお話したかった〜!
私、英徳に来たのはF4に憧れて来たんです。もう嬉しすぎぃ!ドキドキしてるー。」
興奮しながら話す女子生徒を見て、あたしは自分の胸に手を置く。
たぶん、この子たちよりも100倍、あたしの方がドキドキしてる。

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コメント
いつも更新楽しみにしています♪
社会人になった二人、学生時代の前半はジレジレだったので、早く甘い2人がみたいです♡
前半にも色々伏線があったのでは?とか妄想しつつ楽しみにしております。
はいはいっ、大人になった二人はジレジレだけど、随所に甘さを入れていきたいと思いまーす
お早う御座います。楽しみに読んでます。何故つくしは、自分が思った事をキッチリ声を出して言わないのでしょうか?相手に伝わる様に言わないと相手が先先行くばかりなのに(^_^)と勝手に思いました。身体に気を付けて無理無く頑張って下さいネッ。
ほんと、そうですね。相手が司だからでしょうか。
司もそうですけど、やっぱりお互い育った環境が違いすぎて、遠慮というか、言いたい事をはっきり言えない時期があるように思います。
けど、一旦好きだと自覚して、もう隠しきれなくなると、司よりも強烈に、無自覚に想いを溢れ出させるつくし。
それに司もヤラれちゃう。
そんな二人だと思っています♡