シークレット 15

シークレット

4年後

「副社長、新しく手掛ける新事業の資料をお持ちしました。」

そう言って俺のデスクにパソコン用のデータメモリを置く西田。

「おう、サンキュー。」
それを受け取って、俺は自分のパソコンへつなげる。

4年間のNY修行を経て、ようやく先週、日本に帰国した。
道明寺ホールディングスの仕事はもちろん、その他にも福祉や教育、ホテル事業などババァが手掛けていた仕事の約半分をこれからは俺が引き受ける事になった。

その下調べとして西田に資料を持ってこさせたのだが、思っていた以上にその仕事量は多い。

しかも、今年から母校である英徳高校と英徳大学が道明寺財閥の管理化に置かれ経営を任されることになった。よって、理事長の職に俺が就任する事に決まった。

来週にでも久々に母校を訪れ、経営陣や教職員に挨拶をしてくるつもりだが、その前に一通り経歴や顔写真だけでも調べておきたい。

西田が持ってきた資料の中から英徳学園の項目を見つけ職員名簿を開く。

大学の教授らは、俺たちが通っていた頃とさほど変わらず懐かしい顔ぶれが並んでいる。
そして、次に高校の教職員名簿に目を通し始めたその時、

俺の手が止まった。

英語科の職員の中に、思いがけない奴の顔があった。
「牧野 つくし」

忘れもしない、あいつだ。
4年前、俺を振った牧野が、英徳の先生に?

急いでその下にある経歴欄を読むと、
英徳大在学中の成績優秀さをかわれ、教職免許を取ったあとそのまま英徳高校で教師になったと記されている。

まさか、こんな所で再会するなんて。

苦い思い出として封印したあいつだが、今までも幾度となくふとした瞬間に脳裏に現れて俺を悩ました存在の牧野。

調べようと思えば、牧野がどこで何をしているかなんてすぐに分かったのに、それをしようとしなかったのは、

まだ、俺の気持ちがあの頃で止まったままだと自覚したく無かったからかもしれない。

牧野が英徳にいる。
そして、俺はそこの理事長になった。

運命のイタズラか?



久々の英徳高校。
今はちょうど3時間目が始まった頃で、廊下は静けさに包まれていた。

懐かしい中庭や、カフェテリア、図書館はどこも変わっていない。
1階からゆっくりと見て回り、3階の2年生の教室の前を通りかかった時、

廊下に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
聞き間違えるはずもない、牧野の声だ。

その教室の前にゆっくり近付き、後ろの入り口から中を覗くと、教壇に立ち生徒に語りかけている牧野の姿があった。

……変わっていねえ。
学生時代より少し伸びた髪は、軽くウェーブがかかり女らしさを増したけれど、その艶のある黒い髪や漆黒の瞳、白い肌は俺の記憶にある牧野とほとんど変わっていない。

そして、そんな牧野を見て、相変わらず、
『綺麗だ。』と思っちまう俺はバカか。

腕を組み、しばらくそのまま授業を覗いていると、黒板から生徒たちの方へ振り向いた牧野の視線が、ゆっくりと後ろのドアの方へ移り、そして俺と視線がぶつかる。

4年ぶりに目を合わせた俺たち。

じっと俺を見つめたあと、ようやく俺を理解したのか、驚いたような表情になる牧野。

「…先生?」

生徒が牧野を呼ぶ。

「先生?」

「え?あ、ごめん、何?」

慌てて俺から視線を外し生徒に向き直る牧野を見て、俺はゆっくりとその場を後にした。

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