どうしてこうなるのか……。
あたしの部屋に布団が二組敷かれ、その1つに道明寺が寝転がっている。
「天井ってこんなに低いのかよ。」
そう呟きながらも、なぜか楽しそうなこの人。
ドキドキしてるのはあたしだけだろうか。
家族以外の男の人とこんなにも近くにいるのは初めてで、落ち着かない。
今日一日でこの人の色々な面を見れた。
意外にも初対面のパパやママに気を遣い礼儀正ししい一面や、初めてだと言いながらも夕飯の鍋を残さずもりもり食べたり。
さすがお坊っちゃんだけあって食事のマナーもスマートで綺麗。
ニコニコとよく笑う姿にママだけじゃなく、あたしも目を奪われた。
だけど、ドキドキしているなんて絶対にこの人には悟られたくない。
「ねぇ、あんた泊まるって親に連絡しなくてもいいの?」
「あ?なんで?」
「なんでって、心配するでしょ普通。」
すると、布団の上に起き上がった道明寺が、
「俺の家は普通じゃねーから大丈夫だ。」
と、妙な自信をのぞかせる。
「普通じゃないって?」
「ああ。親は1年の殆どは家にいねーし、俺がどこで何をしていようと構っちゃいねーよ。」
「…そうなの?なんか寂しいね…。」
「クッ…寂しくねーよ別に。俺にとってはそれが普通だ。」
そう言ってまたゴロンと横になる道明寺。
時計を見るともう12時近い。
「明日、8時半には家を出るからね。」
「おう。」
部屋の明かりを豆電球にして、あたしも布団の中に潜り込む。
こんな狭い部屋に、この人と並んで寝るなんてあまりに現実味がない。
けれど、客間なんてない我が家にはここしかスペースはないのだ。
思わずクスッと笑うあたしに、
「なんだよ。」
と、言いながら道明寺が寝ながら体をあたしの方へ向ける。
「なんか、変な感じ。
なんでここに弟のパジャマを着た道明寺司がいるの?って考えたらおかしくて。
見慣れたパジャマもあんたが着ると……、」
「俺が着ると?」
「ううん。なんでもない。」
「なんだよ、言えよ。」
「……あんたって、やっぱり、綺麗…だよね。
いやっ、別に深い意味はなくて、そのぉー、なんて言うか、……悔しいけど、皆が噂する通り、絵に書いたように綺麗な人なんだなーと思う。」
思わず口走るあたしに、道明寺はただ無言で見つめるだけ。
「ご両親もきっと綺麗な方なんだろうね。」
「……。」
「お姉さんもいるんでしょ?お姉さんも超絶美人?」
「……。」
『綺麗』だなんて言ってしまって、それに全く何も言い返さない道明寺に、あたしは恥ずかしさがこみ上げてくる。
「なんか言ってよバカ。もう寝るね。おやすみ。」
そう言って、道明寺に背中を向けるように姿勢を変えると、道明寺が小さく言った。
「綺麗なのは、……おまえだろ。」
「…え?」
言われた意味がわからず、振り向くあたし。
ぼんやりと明るい部屋で、並んだ布団に横になり、見つめ合うあたしたち。
「綺麗なのはおまえだ。」
「…あたし?」
「ああ。
毎日目で追っても飽きねぇ。いつもおまえの事探してる。」
「……道明寺?」
「好きだ。」
突然発せられたその言葉と同時に、道明寺があたしの方へ手を伸ばしてきた。
あたしは驚いて布団の上に起き上がる。
すると、道明寺も同じようにあたしの正面に座り、あたしを見つめて言った。
「貸しはこれでチャラだ。」
そう言ってあたしの方へ近付いてきた道明寺。
そして、あたしの唇に何かが触れた。
それがキスだと理解するのに数十秒。
「……ちょっと!!」
「寝るぞ。」
動揺を隠せないあたしと、平然と眠りにつく道明寺。
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正直言うと、あの夜は心臓がバクバクして殆ど眠れなかった。
『好きだ。』と言葉にした瞬間、勝手に体が動き、あいつにキスをしていた。
翌日、目を覚ましたあいつと目が合い、お互いあり得ないほど動揺した態度で、それから3日たった今も牧野とまともに話していない。
謝るべきか?
いや、別に悪いことをしたわけじゃねえ。
自分の心の声に従っただけだ。
もう一度聞かれれば、まっすぐに言える。
「おまえが好きだ」と。
いつものように大学内をあきらと歩いていると、いつも以上に周囲の奴らが俺たちを見てザワザワと騒々しい。
するとその時、あきらの携帯が鳴った。
総二郎からメールだと言って携帯を開いたあきらが、思わず「マジかよ。」と、呟いた。
「どうした?」
携帯を覗き込むと、それを見て俺も固まった。
そこには、牧野家に入る俺の姿と、翌日あいつの家から出てくる二人の姿が写真におさめられていた。
「カフェテリアの掲示板にこの写真が張り出されてるらしいぞ。
司、どういう事だ?」
俺を見つめてニヤつくあきら。
俺はそれに答える前に携帯を取り出して牧野にコールする。
「もしもし。」
「牧野、おまえ今どこにいる?」
「え?
もうすぐ大学に着くけど。」
「来るな。
話があるから、そこで待ってろ。」

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