道明寺家の車に乗り込み10分。
美咲ちゃんが言った公園が見えてきた。
トイレは確か北側の入口付近にある。
外はすでに真っ暗であまり人影もない。
車を降り急いで走っていくと、ぼんやりとした外灯に照らされたトイレが見えた。
外には美咲ちゃんの姿も男の姿もない。
メールではトイレの中に隠れていると言っていた。
迷わず女子トイレに突っ走るあたしの腕を道明寺が取った。
「牧野、」
「ん?」
「なんかあったら大声で叫べ。」
「……分かった。」
コクコクと頷いて、あたしはトイレの中へ入った。
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個室が8個ある女子トイレ。
そのうち3つが使用中になっている。
その中の1つに美咲ちゃんがいるはず。
大声で呼ぼうとしたその時、ガチャッ!と音がして個室が1つ開いた。
思わずビクッと体が跳ねる。
出てきたのは年配の女性。
ふぅーと小さく息を吐いて、自分を落ち着かせる。
その女性がトイレから出ていったのを確認したあと、あたしは今度こそ大きな声で叫んだ。
「美咲ちゃーん、いる?」
すると、奥から2つ目のトイレの中から、
「つくしさん?」
と、小さな声。
「うん、美咲ちゃん。遅くなってごめんね。
もう、大丈夫だから、出てきて。」
あたしがそう言うと、カチャと音がして扉が開き、不安げな顔の美咲ちゃんが出てきた。
「良かった。大丈夫?」
「はい。」
「とりあえず、ここから出よう。
話は後で聞く。」
あたしは美咲ちゃんの肩を抱き、トイレの入り口へ向かった。
すると突然、入り口付近の個室がガチャっと開き、見覚えのある男が現れた。
あまりに突然の事にあたしも美咲ちゃんも声が出ない。
ニヤニヤした顔の男が、あたしたちの方へジリジリと近付いてくる。
咄嗟にあたしは美咲ちゃんをあたしの背中に隠し、持っていた鞄を男に投げつけた。
それが男の体に当たり、男の顔が怒りに変わった。
あたしたちの方へ突進してくる男。
咄嗟にあたしは、大声で叫んでいた。
「道明寺っ!助けて!」
もう、間に合わないと思った。
男に殴られると思った。
目を閉じて、美咲ちゃんに覆いかぶさるようにしゃがみ込んだあたし。
けど、思っていた衝撃は来なかった。
その代わり、男のうめき声が聞こえ、あたしはそっと目を開けた。
あたしの目の前には、腕を背中に回されて苦しそうにもがいている男と、
「牧野、大丈夫か?」
と、焦ったような顔の道明寺が立っていた。
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あのあと、あたしと美咲ちゃんは道明寺の車に乗り待っていると、
「男に話つけてきた。」
と、15分ほどして道明寺が戻ってきた。
「どういう事?」
「今度やったらただじゃおかねぇって事を分からせてやったからもう大丈夫だ。」
「……、いや、なんか怖いんですけど。」
この男がこういう事を言うと、信憑性がありすぎて逆に怖い。
「次やったら命はねーな。」
「だから、あんたが言うと冗談に聞こえないから…。」
「アホか、冗談じゃねーし。」
「……アホはあんたでしょ。」
そんなあたしたちの会話を聞いていた美咲ちゃんが、クスクスと笑い出す。
さっきまで強張っていた顔が今はいつもの美咲ちゃんに戻っている。
「つくしさんと彼氏さん、二人仲いいんですね。」
「はぁ?」
「あぁ?」
重なるあたしたちの声。
それにまた爆笑する美咲ちゃん。
そうこうしているうちに、車は美咲ちゃんの家の前についた。
美咲ちゃんがペコリと頭を下げて帰っていく。
その時、あたしは気付いた。
美咲ちゃんが降りるときに一瞬明るくなった車内。
その時に見た道明寺の頬に、うっすら血が滲む傷が出来ていた。
再び動き出した車。
あたしは隣に座る道明寺に言った。
「道明寺。」
「あ?」
「そこ、さっき出来た傷?」
「あー、少しかすっただけだ。」
頬を一瞬触ったあと、何事もなかったように前を向く道明寺。
あたしは自分の鞄を開き、小さなポーチから絆創膏を一枚取り出した。
「これ、使って。」
道明寺に差し出す。
すると、少し間が空いたあと、
「おまえが付けて。」
と、今度はまっすぐあたしを見て言った。
「え?」
「自分で付けれねーし。」
ふざけてるのかと思ったけれど、この人の顔は真剣でその目の強さに押されたあたしは、
絆創膏を開き、道明寺の頬にそっと貼る。
そして、さっき言えなかった言葉を小さく伝えた。
「道明寺、助けてくれて…ありがと。」
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