NYに来て5日目。
早くも禁断症状が出てる。
あいつに会いたくて堪らない。
声が聞きたくて堪らない。
無意識にため息が出ているようで、事あるごとに西田から、
「支社長、今は日本も夜中ですので、もうしばらく我慢してください。」
と言われる始末。
こっちに来てからも毎日、欠かさず電話している。
出張初日、何度かけても電話に出ないあいつに痺れを切らしたら俺は、直接総務課に電話してやった。
すげー怒ってたけど、そのあとからはきちんと携帯に出るようになったところを見ると、効果があったらしい。
今日も俺の仕事の合間、あいつが眠りにつく頃、携帯にコールすると3回目で出た。
「起きてたか?」
「寝てました。」
「嘘つくな。」
「爆睡。」
いつも可愛くねぇことばっか言いやがるこいつだけど、声が聞けるだけで疲れと……寂しさが飛ぶ。
「毎日電話してこなくてもいいですよ?
そんなに話のネタないし。」
「おまえさ、恋人同士の電話にネタとか必要ねーだろ。」
「でも、そしたら無言になりますけど?」
「会話じゃなくて、繋がってるってことが大事なんじゃねーの。」
「…………。」
「おいっ、」
「……支社長って、……ロマンチストですか。」
「あ?」
いつもこんな感じで、甘くなりそうな会話をそう簡単に甘くしてくれねぇこいつ。
「会いてぇ」とか
「好きだ」も、
何度も口にしたけど、こいつから聞いたことはない。
「なぁ、おまえは思わねぇの?
俺がいなくて淋しいとか、会いたいとか。」
「へぇ?」
「そういうのは口にしないタイプかよ。」
「……別に。
支社長が言い過ぎるんだと思うけど。」
確かに、ここのところ会話の途中に、会いたいとか好きだとはよく口にしていた。
けど、それは「誘導作戦」っつーやつで、
俺が言えば、こいつも言ってくんじゃねーかって淡い期待をしてたからで、今のところ完全に俺の一人相撲。
「俺のせいかよ……。
普通、会いたいって言ったら『あたしも』ってなるんじゃねーの?
そういうの、待ってるんだけどな俺は。」
「…………。」
半分冗談っぽく言ったはずなのに、無言になるこいつに、
「おいっ、」
と呼び掛けると、
「……普通はって……今まではそうだった?」
と、歯切れ悪く話すこいつ。
「あ?」
「今まで付き合ってきた人は、電話でも甘い会話してたんだ。」
「…………。」
「会いたいって言ったら『あたしも』って、
寂しいって言ったら『寂しいね』って、
好きだって言ったら『あたしの方がもっと』って?」
そう言いながら、なんでか知らねぇけど、少しキレてるこいつ。
「はぁ?何キレてるんだよ。」
「キレてないしっ。」
完全にキレた音がする。
「あたしの過去のこと気にするぐらいなら、自分も元カノたちとあたしを比べるのやめて下さい。
どうせ、さぞかし甘ーい経験ばっかりしてきてるんでしょうけど、あたしは経験値が低いので支社長の物差しで考えられたら困りますっ。」
「あ?
おまえを誰かと比べたりなんてしてねぇよ。
それに、おまえの経験値が低いって言うのはなんとなく分かってるしな。」
「ひどっ。
その上から目線の発言っ。」
「ちげーよ、バカ。
嬉しいってことだよ。自分の女が経験バリバリで喜ぶ男なんていねーだろ。」
「…………それは女も同じです。」
「あ?」
「だからっ、自分の彼氏が支社長みたいな経験バリバリな男なのは、…………悲しいってことですっ!」
はじめてこいつの口から彼氏って言われたことはすげー嬉しいけど、経験バリバリってなんだよっ
「あ?おまえ俺のこと勘違いしてねぇ?」
「してない。」
「してるだろ。」
「してない。
だって、あたし……知ってるもん。
昔の彼女さんのことが忘れられなくて、本気で恋愛するの避けてるくせに、一夜限りの関係の女にも、あたしみたいな手身近な女にでも、優しく出来ちゃうところとか…………」
「おまえ、何言ってんの?
それ以上言ったら怒るぞっ。」
「……やっぱり。
ほんとなんですね、忘れられない人がいるって。」
「だから、ちげーよっ。」
「いいですって。分かりますから。」
「……あ?」
「忘れられない人……
あたしにもいるから。
消したくても消せないくらいどうしてもその人のことが忘れられないって気持ちわかるから。
だから、いいです。」
勝手にキレて、勝手に納得して……
誤解されてる俺の立場はどうなるんだよっ。
それに、はじめて聞いた。
こいつに、忘れられない人がいるって。
「ふざけんなっ、誰だよっ!
……今でもか?」
「え?」
「今でも、おまえはそいつが好きなのかっ?」
「……うん。好き。
知れば知るほど、好きになっちゃう。」
はじめて聞く、こいつの「好き」は、
忘れられない男を想って言った言葉だった。
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